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本編
ムスクと甘い時間 5
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「ジョシュアはブラコンだから匂いに嫉妬するだろうけど、放っとけよ」
貴族街の路地を急ぎながら、ミカエルが言う。
でもその心配は無用だった。
「ジョシュアは嫉妬はしないよ」
「……そ?」
添い寝をしなくなったのだ。弟は嫉妬なんてしてくれない。
嫉妬されているかもと一時は思ったけれど、本当はフェロモンの量が減っていることに悩んでいるだけだった。
屋敷に戻ると辻馬車が停まっており、驚いた。
「マイルズ先生がまだいるのかも」
「何かあったのか?」
ミカエルと顔を見合わせる。
屋敷の扉を開けば、すぐに執事が現れた。
緊張しつつ尋ねる。
「ジョシュアの具合は?」
「治療中でございます」
「っ治療法が見つかったのか!?」
驚いていると、奥から主治医のマイルズ先生がやって来た。
「ロイス様、こんばんは。そちらは――」
「同僚のミカエル・ローデリックです」
直後、先生の眉がわずかに寄った。
しかし気のせいだったのか、すぐに温和な笑顔になって握手の手をミカエルに差し出した。
「お目に掛かれて光栄です、ローデリック様。お噂はかねがね」
「どーも? うちのロイスが世話になってます。噂の内容が気になるね」
「黒髪で青目の女性がお好みなのだとか」
「……」
突然、空気が凍ったようだった。俺は困惑してうろたえた。
握手した手を放さないまま、先生は軽蔑の色を隠さずにミカエルを見つめる。
「――丁度、ロイス様と同じ色なのですね?」
「偶然ね」
ミカエルは不敵な笑顔だ。
「お好みのタイプということですか?」
「さあ。どうかな。女遊びしてたのは学生時代だけだしね」
「ところで、ロイス様に付いているフェロモンがあなたとよく似ている気がするのですが」
「さっきまでマーキングしてたからね」
「マーキングをされた理由は?」
「親友に騎士を続けてほしいからだけど?」
「黒髪で青目の人物にこだわる理由があるのでは?」
「ないね。たまたまだ」
「これ幸いと思っていらっしゃるのでは」
「なんのこと?」
ミカエルの好みタイプの話題よりも、俺はジョシュアの治療の方が気になってならなかった。
「マイルズ先生、ジョシュアは……! 治療って。治るんですか? 体に異常は……?」
すると、マイルズ先生は姿勢を正して俺を見つめた。
「フェロモンが出ていないこと以外、異常はありませんでした」
「治療っていうのは、」
「アルファのラット誘発剤を使用しました」
「ラット誘発剤……?」
「ラットとはアルファの発情状態のことです。薬にはアルファの方のフェロモン分泌を促す作用があります」
そんな薬があったのか。と期待と希望が湧いてくる。
「今朝お薬を飲んで頂いて、8時間の効果時間が切れるのを待っておりました。そして効果があったかどうか、いま結果を確認してまいりました」
「……け、結果は?」
貴族街の路地を急ぎながら、ミカエルが言う。
でもその心配は無用だった。
「ジョシュアは嫉妬はしないよ」
「……そ?」
添い寝をしなくなったのだ。弟は嫉妬なんてしてくれない。
嫉妬されているかもと一時は思ったけれど、本当はフェロモンの量が減っていることに悩んでいるだけだった。
屋敷に戻ると辻馬車が停まっており、驚いた。
「マイルズ先生がまだいるのかも」
「何かあったのか?」
ミカエルと顔を見合わせる。
屋敷の扉を開けば、すぐに執事が現れた。
緊張しつつ尋ねる。
「ジョシュアの具合は?」
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驚いていると、奥から主治医のマイルズ先生がやって来た。
「ロイス様、こんばんは。そちらは――」
「同僚のミカエル・ローデリックです」
直後、先生の眉がわずかに寄った。
しかし気のせいだったのか、すぐに温和な笑顔になって握手の手をミカエルに差し出した。
「お目に掛かれて光栄です、ローデリック様。お噂はかねがね」
「どーも? うちのロイスが世話になってます。噂の内容が気になるね」
「黒髪で青目の女性がお好みなのだとか」
「……」
突然、空気が凍ったようだった。俺は困惑してうろたえた。
握手した手を放さないまま、先生は軽蔑の色を隠さずにミカエルを見つめる。
「――丁度、ロイス様と同じ色なのですね?」
「偶然ね」
ミカエルは不敵な笑顔だ。
「お好みのタイプということですか?」
「さあ。どうかな。女遊びしてたのは学生時代だけだしね」
「ところで、ロイス様に付いているフェロモンがあなたとよく似ている気がするのですが」
「さっきまでマーキングしてたからね」
「マーキングをされた理由は?」
「親友に騎士を続けてほしいからだけど?」
「黒髪で青目の人物にこだわる理由があるのでは?」
「ないね。たまたまだ」
「これ幸いと思っていらっしゃるのでは」
「なんのこと?」
ミカエルの好みタイプの話題よりも、俺はジョシュアの治療の方が気になってならなかった。
「マイルズ先生、ジョシュアは……! 治療って。治るんですか? 体に異常は……?」
すると、マイルズ先生は姿勢を正して俺を見つめた。
「フェロモンが出ていないこと以外、異常はありませんでした」
「治療っていうのは、」
「アルファのラット誘発剤を使用しました」
「ラット誘発剤……?」
「ラットとはアルファの発情状態のことです。薬にはアルファの方のフェロモン分泌を促す作用があります」
そんな薬があったのか。と期待と希望が湧いてくる。
「今朝お薬を飲んで頂いて、8時間の効果時間が切れるのを待っておりました。そして効果があったかどうか、いま結果を確認してまいりました」
「……け、結果は?」
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