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本編
ムスクと甘い時間 2
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「頭いってー」
「二日酔いだ、バカ」
更衣室はいつもよりも締まりがない雰囲気だった。
スカーフを整えていると、壮年の先輩が声をかけてきた。
「ロイスは二日酔い大丈夫だったか? かなり集中して飲まされてたろ」
「ええ、朝起きたらすっきりしました」
「安心した。ユリウス隊長が歓迎会のメインだったけど、あの人はつんとしていて絡みづらいからなぁ。お前と弟くんが犠牲になっちまった」
苦笑いを返した。
「弟くんは大丈夫だったか?」
「……二日酔いが酷いみたいで。今日は学校を休ませました」
「そうか。せっかくの成人祝いだったってのに悪い事をしたなあ」
「いいえ。祝って頂けてありがたいです」
会話の間、ミカエルは隣で寡黙に着替えていた。何を考えているのだろう。
いつから俺のマーキングの偽装に気付いていたか聞かなくてはならない。
緊張しながらスカーフを整えていると、不意に耳に吐息がかかった。
「……匂いがしねえ。みんなに怪しまれたくねえなら、俺の側から離れんな」
「ッ」
驚いて距離を取ると、真横にミカエルがいた。
目が合った途端、「行こうぜ」と笑顔で言う。
やっぱり何を考えているのかわからない。でも、敵ではないはずだ。
ミカエルは親友で、これまで応援してきてくれたのだから。
俺は動揺しながら頷いた。
今日は馬上訓練日で、馬の匂いが濃くて幸いだった。
しかし補佐官になったため、隊長に接近する場面がぐんと増えている。
予定の訓練がひと段落してみんながひと息入れている最中、馬で隊長のもとへ駆けていって確認事項を話しあう。
去り際、隊長が声を潜めてきた。
「あとで話がしたい」
「……話ならここで」
「……ヒートしないか怯えながら皆の前で話をするつもりか?」
「それは、」
「いい、行け。騎士を辞めるのは時間の問題だ。危険な目に遭わないようにだけ注意しろ」
こちらが拒んでいるのに、”行け”と突き放されるような言葉を聞くと胸が痛くなった。どうして俺はここまで意地になって隊長のことを拒んでいるんだろう、と思う。彼の最優先は俺なのだという直感があった。卑怯な手を使ったけれど、それも俺を手に入れようとしてのことだ。今もマーキングで偽装できていないことを心配してくれているように感じる。
騎士を続けることは以前から危険だった。本当は今こそ……認めるべきときなのかもしれない。騎士を諦めるべきときなのかもしれない。そして隊長と話し合って。しかしそのあとどうするんだろう。もし俺が隊長の手を取れば、弟はどうなってしまうのだろう。
俺の茶毛の馬が居心地悪そうに首を振るう。
「失礼します」
たずなを強く振って、俺は背を向けた。
「二日酔いだ、バカ」
更衣室はいつもよりも締まりがない雰囲気だった。
スカーフを整えていると、壮年の先輩が声をかけてきた。
「ロイスは二日酔い大丈夫だったか? かなり集中して飲まされてたろ」
「ええ、朝起きたらすっきりしました」
「安心した。ユリウス隊長が歓迎会のメインだったけど、あの人はつんとしていて絡みづらいからなぁ。お前と弟くんが犠牲になっちまった」
苦笑いを返した。
「弟くんは大丈夫だったか?」
「……二日酔いが酷いみたいで。今日は学校を休ませました」
「そうか。せっかくの成人祝いだったってのに悪い事をしたなあ」
「いいえ。祝って頂けてありがたいです」
会話の間、ミカエルは隣で寡黙に着替えていた。何を考えているのだろう。
いつから俺のマーキングの偽装に気付いていたか聞かなくてはならない。
緊張しながらスカーフを整えていると、不意に耳に吐息がかかった。
「……匂いがしねえ。みんなに怪しまれたくねえなら、俺の側から離れんな」
「ッ」
驚いて距離を取ると、真横にミカエルがいた。
目が合った途端、「行こうぜ」と笑顔で言う。
やっぱり何を考えているのかわからない。でも、敵ではないはずだ。
ミカエルは親友で、これまで応援してきてくれたのだから。
俺は動揺しながら頷いた。
今日は馬上訓練日で、馬の匂いが濃くて幸いだった。
しかし補佐官になったため、隊長に接近する場面がぐんと増えている。
予定の訓練がひと段落してみんながひと息入れている最中、馬で隊長のもとへ駆けていって確認事項を話しあう。
去り際、隊長が声を潜めてきた。
「あとで話がしたい」
「……話ならここで」
「……ヒートしないか怯えながら皆の前で話をするつもりか?」
「それは、」
「いい、行け。騎士を辞めるのは時間の問題だ。危険な目に遭わないようにだけ注意しろ」
こちらが拒んでいるのに、”行け”と突き放されるような言葉を聞くと胸が痛くなった。どうして俺はここまで意地になって隊長のことを拒んでいるんだろう、と思う。彼の最優先は俺なのだという直感があった。卑怯な手を使ったけれど、それも俺を手に入れようとしてのことだ。今もマーキングで偽装できていないことを心配してくれているように感じる。
騎士を続けることは以前から危険だった。本当は今こそ……認めるべきときなのかもしれない。騎士を諦めるべきときなのかもしれない。そして隊長と話し合って。しかしそのあとどうするんだろう。もし俺が隊長の手を取れば、弟はどうなってしまうのだろう。
俺の茶毛の馬が居心地悪そうに首を振るう。
「失礼します」
たずなを強く振って、俺は背を向けた。
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