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本編
贈り物と誕生日 7
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何杯飲み干しただろうか。
グラスをあけたら並々と注がれ、零れそうで口をつければ飲め飲めとコールが上がるので必死に飲んで、また空になったら注がれる。
ふと見回せば、世界がぐんにゃりとひしゃげたり伸びたりを繰り返している。頭上を中心に景色がぐるぐると歪みながら渦を描いて回っている。
弟はどこだろう? シド上官はテーブルに突っ伏してぐうぐうといびきをかいていた。
「もっと飲めぇ~~」
へべれけの先輩に注がれ、溢れそうになっておっと、と口にした。
「飲み過ぎだ」
しかしグラスを奪われ、見るとミカエルがいた。
「みはえる」
「うん、水飲め」
「うん」
もらったグラスを飲む。飲み干すと口の中がさっぱりした。
「もっといるか?」
「みはえる、じょしゅあは?」
「あ゛ーー……、どこだろ」
「じょしゅあ……」
「ん、探して来るから。そこの隅で隠れてろ。もう酒は飲むなよ」
「うん……」
ミカエルは本当に頼りになって、すごく格好いい。
隅っこに座っていると、不意に真横からシトラスとムスクの香りがしてきて俺はうっとりした。
抱き着こうとしてよろけてしまい、抱きとめられる。
瞬間、シトラスの香りで世界が満たされた。逞しい体からはドクドクと激しい鼓動の音が伝わってくる。
体の奥がじん、と疼いた。彼とひとつになりたい。うなじを噛んでほしい。
一生懸命に抱き着くけれど、彼は応えてくれない。
「……。酒の席で身を委ねるなど、」
「ん……」
「状況を理解しているのか」
「ん……?」
「何をしているかわかっているのか……」
必死に情動を抑えている声だった。
見上げると、整った顔と美しい水色の瞳が目に入った。
その瞳には熱情と切なさが宿っていて――すごく苦しそうに俺を睨んでいて――その目は昼間見たような――
「――あ!」
俺は意識を取り戻して声を上げた。離れようとして転びかけ、寸前で背中を支えらえる。
押しのけようとすると、優しく座らせてくれた。
ユリウス隊長はいっそ困り果てた様子だった。
「……無防備すぎる。……これまでどうやっていたんだ」
「っ……、その……」
ひたすら気まずい。返す言葉なく視線がうろついた。何てことをしでかしてしまったのか。
「自分がどれほど危ない橋を渡っているのか、わかっているのか」
「ぅっ……」
切実に諭されるけれど反論のしようもない。
平衡感覚はまだ覚束ず、視界はぐんにゃりとねじれていっている。
「も、うしわけありません……」
「……。謝ってほしいのではなく、危機感を持つようにと言っている」
「……う」
「さきほど踊り子にサービスしてもらっていたが、記憶はあるか?」
「え」
ない。何をしてもらったのだろう。
「隊員たちに体を触られて、ミカエルや弟に庇ってもらっていた記憶は?」
「……」
覚えていない。俺はだんだん切羽詰まってきた。
彼に呆れられたくない……。年甲斐もなく涙が滲んでくる。
「ご、ごめんなさい……」
「マーキングを止めたことは褒めよう。しかし周囲は君がアルファに見えなくなってきているのかもしれない……」
ユリウス隊長は声を潜めて言う。俺には意味がわからなかった。
体の奥が疼いていて、それを堪える必要だけはわかっていた。
「フェロモンが漏れてきたな……。私に誘発されたのだろう。今の状態ではカバーできない」
「え……?」
「家へ送ろう。肩を貸す」
「え」
「抱き上げてもいいが?」
「あ、か、肩で……」
引き起してもらったとき、ミカエルが弟に肩を貸してやってきた。
それなりに飲まされてしまったらしく、弟はふらついた様子だ。
「ジョシュア……っ」
「兄さん……」
頭痛がするのか、酷く顔をしかめている。
直後、ミカエルが語気を強くして剣呑に言った。
「ロイスとジョシュアの二人は俺が馬車に入れます。あんたが送る必要はありませんよ」
「……ほう? 私が良からぬことを企んでいるとでも?」
「そーは言ってませんけどね。一緒に帰れば余計な噂が立つんじゃあないっすか」
俺はユリウス隊長のもとを離れて弟のところへどうにか駆けよった。
するとミカエルが眉をひそめて小声で言う。
「……マーキングはどうしてた、ロイス」
「え?」
俺はぽかんとした。ミカエルは俺の事情を何も知らないはずだ。
「ジョシュアからフェロモンの匂いが全くしねえ」
「え?」
「お前、マーキングをやめたんじゃなく、できてなかったのか」
「……は?」
「ジョシュアのフェロモンがお前ら両方からしないんだよ」
頭がさあっと白くなっていく。
グラスをあけたら並々と注がれ、零れそうで口をつければ飲め飲めとコールが上がるので必死に飲んで、また空になったら注がれる。
ふと見回せば、世界がぐんにゃりとひしゃげたり伸びたりを繰り返している。頭上を中心に景色がぐるぐると歪みながら渦を描いて回っている。
弟はどこだろう? シド上官はテーブルに突っ伏してぐうぐうといびきをかいていた。
「もっと飲めぇ~~」
へべれけの先輩に注がれ、溢れそうになっておっと、と口にした。
「飲み過ぎだ」
しかしグラスを奪われ、見るとミカエルがいた。
「みはえる」
「うん、水飲め」
「うん」
もらったグラスを飲む。飲み干すと口の中がさっぱりした。
「もっといるか?」
「みはえる、じょしゅあは?」
「あ゛ーー……、どこだろ」
「じょしゅあ……」
「ん、探して来るから。そこの隅で隠れてろ。もう酒は飲むなよ」
「うん……」
ミカエルは本当に頼りになって、すごく格好いい。
隅っこに座っていると、不意に真横からシトラスとムスクの香りがしてきて俺はうっとりした。
抱き着こうとしてよろけてしまい、抱きとめられる。
瞬間、シトラスの香りで世界が満たされた。逞しい体からはドクドクと激しい鼓動の音が伝わってくる。
体の奥がじん、と疼いた。彼とひとつになりたい。うなじを噛んでほしい。
一生懸命に抱き着くけれど、彼は応えてくれない。
「……。酒の席で身を委ねるなど、」
「ん……」
「状況を理解しているのか」
「ん……?」
「何をしているかわかっているのか……」
必死に情動を抑えている声だった。
見上げると、整った顔と美しい水色の瞳が目に入った。
その瞳には熱情と切なさが宿っていて――すごく苦しそうに俺を睨んでいて――その目は昼間見たような――
「――あ!」
俺は意識を取り戻して声を上げた。離れようとして転びかけ、寸前で背中を支えらえる。
押しのけようとすると、優しく座らせてくれた。
ユリウス隊長はいっそ困り果てた様子だった。
「……無防備すぎる。……これまでどうやっていたんだ」
「っ……、その……」
ひたすら気まずい。返す言葉なく視線がうろついた。何てことをしでかしてしまったのか。
「自分がどれほど危ない橋を渡っているのか、わかっているのか」
「ぅっ……」
切実に諭されるけれど反論のしようもない。
平衡感覚はまだ覚束ず、視界はぐんにゃりとねじれていっている。
「も、うしわけありません……」
「……。謝ってほしいのではなく、危機感を持つようにと言っている」
「……う」
「さきほど踊り子にサービスしてもらっていたが、記憶はあるか?」
「え」
ない。何をしてもらったのだろう。
「隊員たちに体を触られて、ミカエルや弟に庇ってもらっていた記憶は?」
「……」
覚えていない。俺はだんだん切羽詰まってきた。
彼に呆れられたくない……。年甲斐もなく涙が滲んでくる。
「ご、ごめんなさい……」
「マーキングを止めたことは褒めよう。しかし周囲は君がアルファに見えなくなってきているのかもしれない……」
ユリウス隊長は声を潜めて言う。俺には意味がわからなかった。
体の奥が疼いていて、それを堪える必要だけはわかっていた。
「フェロモンが漏れてきたな……。私に誘発されたのだろう。今の状態ではカバーできない」
「え……?」
「家へ送ろう。肩を貸す」
「え」
「抱き上げてもいいが?」
「あ、か、肩で……」
引き起してもらったとき、ミカエルが弟に肩を貸してやってきた。
それなりに飲まされてしまったらしく、弟はふらついた様子だ。
「ジョシュア……っ」
「兄さん……」
頭痛がするのか、酷く顔をしかめている。
直後、ミカエルが語気を強くして剣呑に言った。
「ロイスとジョシュアの二人は俺が馬車に入れます。あんたが送る必要はありませんよ」
「……ほう? 私が良からぬことを企んでいるとでも?」
「そーは言ってませんけどね。一緒に帰れば余計な噂が立つんじゃあないっすか」
俺はユリウス隊長のもとを離れて弟のところへどうにか駆けよった。
するとミカエルが眉をひそめて小声で言う。
「……マーキングはどうしてた、ロイス」
「え?」
俺はぽかんとした。ミカエルは俺の事情を何も知らないはずだ。
「ジョシュアからフェロモンの匂いが全くしねえ」
「え?」
「お前、マーキングをやめたんじゃなく、できてなかったのか」
「……は?」
「ジョシュアのフェロモンがお前ら両方からしないんだよ」
頭がさあっと白くなっていく。
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