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本編
贈り物と誕生日 4
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俺の様子を怪訝に思ったのか、弟が首を傾ける。執事もやってきた。
目をうろうろさせながら二人に歓迎会のことを報告すると、弟は少し苦笑いしつつ泰然と言う。
「ん、それなら行くしかないね」
「……すまない。上手く断れなくて」
「いいよ。兄さんのせいじゃないし仕方ない。謝らないでよ」
「でも、家で静かに祝いたいって……」
「いいんだ。僕は兄さんの気持ちだけで十分に嬉しい」
立ち尽くしたままの俺を優しくなだめてくれる。
罪悪感で潰れそうになりながらちらりと顔を窺うと、しょうがないな、というような微笑みを浮かべてくれる。
救われる思いだけれど、兄としてはふがいない。
「ノーマンも、すまない。せっかく料理やパイを用意してくれたのに……」
「お気になさらないでください、ロイス様」
日々の多忙な業務の合い間で手間暇をかけてくれたのに、執事も温和に微笑する。
罪悪感がますます降りつもっていく中、弟は明るい口調に切りかえた。
「兄さんの隊の方にもご挨拶できるし、いい機会だよ。平民の方も来られるんでしょう?」
「うん……。皆集まるみたいだ」
「卒業したら僕もお世話になるだろうし。紹介してくれると嬉しいな」
「う、うん」
「兄さんの補佐官のお祝いも一緒にできるし、呼んでくれてよかった」
「ぅん……っ」
弟が優しすぎる。俺は少し泣きそうだった。補佐官のことも嬉しく思えてきた。
「家族だけのお祝いはまたにしよう、ね?」
「うん……」
頷いてから、ハッと大事なことを思い出した。
待っててくれ、と伝えて寝室に行く。クローゼットの中に隠してあるものを持って、ダイニングの弟の元へ戻る。
弟は気付いているだろうに、なに? という顔で促してくれる。団らんの中で渡すつもりだったのに恰好が付かない状況だ。
「あの……成人祝いだ。おめでとう」
「わあ、ありがとう……!」
「うん……帰宅するまでに日付がまたいでしまうかもしれないから、今のうちに……」
「嬉しい……! 開けてもいい?」
「うん……」
弟は頬を紅潮させて満面の笑みだ。
そして中身を見る前のリアクションが大きすぎて、俺は違う不安に駆られてきた。
がっかりされないだろうか……。心臓がどきどきと鳴ってくる。
包みを開けると、弟はあっさりした微笑になった。
「わあ、ハンカチだ」
心なしか棒読みに聞こえる。がっかりされたかもしれない。何の代わり映えもない贈答用のハンカチだ。
「……その。あっても困らないかと」
しかし家族から贈る品ならもっと良いものがあったんじゃないだろうか。
成人の節目になる贈り物だ。そして当主の条件のひとつ目も満たしたことになる。祖父が健在ならきっと立派なものを贈っていただろう。
宝石のような紫色の瞳を細めて、弟はハンカチを大事そうに親指で撫でる。
「ブドウの刺繍だね。僕の瞳の色と一緒だ……」
「う、ん。ブドウは”実を結ぶ”っていう意味があるそうで」
「大切にするね……」
「いや、普通に使ってくれ」
「普段使いには勿体ないな」
それが心からの言葉に聞こえて、だんだん喜んでくれているのかな……と思えてきた。
そのとき、弟はふと思いついたような顔になった。
珍しくおずおずと恥ずかしそうにする。
「ねえ……兄さん。スカーフみたいに、寝るときにベッドの枕元に置いてもいいかな?」
「え?」
「何て言うか……そう、匂いを付けてお守りみたいに使いたいな」
「ん?」
「兄さんの枕のほうに置いて、日中持っておこうかなって……」
「いや、でも、俺のはオメガの匂いで……」
弟が悲しそうに目を伏せた。
「……………………だめかな」
「だめじゃない」
弟の表情が弛緩し、顔色が戻る。
「ありがとう、兄さん」
「どういたしまして。うん……そうか。お守り」
上等な財布や手袋よりもずっとずっと良い。
嬉しそうな様子につられて、すごく素敵な贈り物をした気分になってきた。
そうだ。この白いハンカチを見たとき、毎日マーキングしてもらっている白いスカーフを連想したのだ。
心が通じ合っている気がする。俺は笑顔で言った。
「十八歳の誕生日おめでとう。ジョシュア」
目をうろうろさせながら二人に歓迎会のことを報告すると、弟は少し苦笑いしつつ泰然と言う。
「ん、それなら行くしかないね」
「……すまない。上手く断れなくて」
「いいよ。兄さんのせいじゃないし仕方ない。謝らないでよ」
「でも、家で静かに祝いたいって……」
「いいんだ。僕は兄さんの気持ちだけで十分に嬉しい」
立ち尽くしたままの俺を優しくなだめてくれる。
罪悪感で潰れそうになりながらちらりと顔を窺うと、しょうがないな、というような微笑みを浮かべてくれる。
救われる思いだけれど、兄としてはふがいない。
「ノーマンも、すまない。せっかく料理やパイを用意してくれたのに……」
「お気になさらないでください、ロイス様」
日々の多忙な業務の合い間で手間暇をかけてくれたのに、執事も温和に微笑する。
罪悪感がますます降りつもっていく中、弟は明るい口調に切りかえた。
「兄さんの隊の方にもご挨拶できるし、いい機会だよ。平民の方も来られるんでしょう?」
「うん……。皆集まるみたいだ」
「卒業したら僕もお世話になるだろうし。紹介してくれると嬉しいな」
「う、うん」
「兄さんの補佐官のお祝いも一緒にできるし、呼んでくれてよかった」
「ぅん……っ」
弟が優しすぎる。俺は少し泣きそうだった。補佐官のことも嬉しく思えてきた。
「家族だけのお祝いはまたにしよう、ね?」
「うん……」
頷いてから、ハッと大事なことを思い出した。
待っててくれ、と伝えて寝室に行く。クローゼットの中に隠してあるものを持って、ダイニングの弟の元へ戻る。
弟は気付いているだろうに、なに? という顔で促してくれる。団らんの中で渡すつもりだったのに恰好が付かない状況だ。
「あの……成人祝いだ。おめでとう」
「わあ、ありがとう……!」
「うん……帰宅するまでに日付がまたいでしまうかもしれないから、今のうちに……」
「嬉しい……! 開けてもいい?」
「うん……」
弟は頬を紅潮させて満面の笑みだ。
そして中身を見る前のリアクションが大きすぎて、俺は違う不安に駆られてきた。
がっかりされないだろうか……。心臓がどきどきと鳴ってくる。
包みを開けると、弟はあっさりした微笑になった。
「わあ、ハンカチだ」
心なしか棒読みに聞こえる。がっかりされたかもしれない。何の代わり映えもない贈答用のハンカチだ。
「……その。あっても困らないかと」
しかし家族から贈る品ならもっと良いものがあったんじゃないだろうか。
成人の節目になる贈り物だ。そして当主の条件のひとつ目も満たしたことになる。祖父が健在ならきっと立派なものを贈っていただろう。
宝石のような紫色の瞳を細めて、弟はハンカチを大事そうに親指で撫でる。
「ブドウの刺繍だね。僕の瞳の色と一緒だ……」
「う、ん。ブドウは”実を結ぶ”っていう意味があるそうで」
「大切にするね……」
「いや、普通に使ってくれ」
「普段使いには勿体ないな」
それが心からの言葉に聞こえて、だんだん喜んでくれているのかな……と思えてきた。
そのとき、弟はふと思いついたような顔になった。
珍しくおずおずと恥ずかしそうにする。
「ねえ……兄さん。スカーフみたいに、寝るときにベッドの枕元に置いてもいいかな?」
「え?」
「何て言うか……そう、匂いを付けてお守りみたいに使いたいな」
「ん?」
「兄さんの枕のほうに置いて、日中持っておこうかなって……」
「いや、でも、俺のはオメガの匂いで……」
弟が悲しそうに目を伏せた。
「……………………だめかな」
「だめじゃない」
弟の表情が弛緩し、顔色が戻る。
「ありがとう、兄さん」
「どういたしまして。うん……そうか。お守り」
上等な財布や手袋よりもずっとずっと良い。
嬉しそうな様子につられて、すごく素敵な贈り物をした気分になってきた。
そうだ。この白いハンカチを見たとき、毎日マーキングしてもらっている白いスカーフを連想したのだ。
心が通じ合っている気がする。俺は笑顔で言った。
「十八歳の誕生日おめでとう。ジョシュア」
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