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本編
贈り物と誕生日 3
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顔を洗って心を鎮めてから執務室へ向かうと、ミカエルや騎士たちがデスクに向かって活動報告を書いていた。
隊長のデスクは小隊の者を一望できる位置にあり、ユリウス隊長は既に席に着いている。
不意に見つめられたがさっと目を逸らして、俺は自分のデスクへ移動した。
補佐官のデスクは今の位置のままだ。隊長との窓口役になっただけで、昇進の度合いは微々たるものだ。階級でいえば俺よりも上の先輩もいる。
「よ。補佐官就任おめでと、ロイス」
「え」
椅子を引こうとしたとき向かいのミカエルに声をかけられ、俺は驚いた。
情報が早い。と思っていると、皆からも口々に「おめでとう」「良かったな」「任せるぜ」と祝いの言葉を送られる。
「辞令張り出されてたぜ」
苦笑いするミカエルに補足されて、なるほどそれで知っていたのか……とやっと納得した。
続けて先輩が放った言葉で、俺は困った。
「今日の歓迎パーティで、ロイスの昇進も一緒に祝おうか」
どうです隊長? と先輩が聞くと、ユリウス隊長は寡黙に頷いた。
今日はユリウス隊長の歓迎パーティなのだ。
普段社交界に招かれない平民出身の騎士も参加する予定で、皆でわいわいと賑わっている。
それは困る、と俺は思った。元々、今日は欠席する予定だったのだ。
今日は、弟の十八歳の誕生日なのだ。ただの誕生日ではない。今日から弟は成人するのだ。
兄弟水入らずでお祝いをする予定で、弟も予定を開けていると言っていたし、執事にも料理の用意をしてもらっている。
ユリウス隊長の了承を得て、先輩は爽やかな笑顔を向けてきた。
「良かったな、ロイス」
「あの、そのことですが……今日は予定がありまして。欠席する予定で……」
「ん? シド上官の主催だから欠席はまずいぞ」
「…………え?」
「あれ、伝えてなかったか? シド上官の屋敷で開くことになったんだ」
俺は呆然と固まった。シド上官の主催、とは聞いていなかった。
パーティ好きのシド上官だ。主催者となれば、絶対に出席しなければならない。
しかし弟の成人は一生に一度だけなのだ。先延ばしになんてできない。祝ってやれないなんてつらい。きっとすごく楽しみにしているはずだ。
「あ、今日ってジョシュアの誕生日か」
ミカエルがふと思い出したようだった。俺は蒼白しながら頷いた。
一生に一度の成人の日なのだから、歓迎会は欠席しても許されるだろうか。
騎士たちが反応する。
「ああ、あのジョシュア君か」
「ジョシュア君?」
「ロイスの弟だよ。騎士学校で首席なんだぜ」
「さすがロイスの弟だよなぁ」
「ロイスさん、ブラコンなの……?」
そのときだった。一人がひらめいたように強く手を打った。
「それなら一緒にジョシュア君の誕生日も祝ったらいいんじゃないか?」
「うん、ロイスの弟なら歓迎だ。それに騎士学校の生徒なら私たちの身内でもある」
「どうです? ユリウス隊長」
ユリウス隊長はまとめた書類の角をトンと揃えて答えた。
「構わない」
俺は全てが台無しになった気分で、皆の「よかったな」という呼びかけに鈍く頷いた。
弟を連れて行くために帰路につく。
屋敷の扉を開くと、牛肉のステーキやパイの香ばしい匂いが漂った。
弟はダイニングテーブルで学校のレポートを書いており、俺の気配に気づくと顔を上げてふわりと微笑した。
「おかえり、兄さん」
何と説明すればいいのだろう。
隊長のデスクは小隊の者を一望できる位置にあり、ユリウス隊長は既に席に着いている。
不意に見つめられたがさっと目を逸らして、俺は自分のデスクへ移動した。
補佐官のデスクは今の位置のままだ。隊長との窓口役になっただけで、昇進の度合いは微々たるものだ。階級でいえば俺よりも上の先輩もいる。
「よ。補佐官就任おめでと、ロイス」
「え」
椅子を引こうとしたとき向かいのミカエルに声をかけられ、俺は驚いた。
情報が早い。と思っていると、皆からも口々に「おめでとう」「良かったな」「任せるぜ」と祝いの言葉を送られる。
「辞令張り出されてたぜ」
苦笑いするミカエルに補足されて、なるほどそれで知っていたのか……とやっと納得した。
続けて先輩が放った言葉で、俺は困った。
「今日の歓迎パーティで、ロイスの昇進も一緒に祝おうか」
どうです隊長? と先輩が聞くと、ユリウス隊長は寡黙に頷いた。
今日はユリウス隊長の歓迎パーティなのだ。
普段社交界に招かれない平民出身の騎士も参加する予定で、皆でわいわいと賑わっている。
それは困る、と俺は思った。元々、今日は欠席する予定だったのだ。
今日は、弟の十八歳の誕生日なのだ。ただの誕生日ではない。今日から弟は成人するのだ。
兄弟水入らずでお祝いをする予定で、弟も予定を開けていると言っていたし、執事にも料理の用意をしてもらっている。
ユリウス隊長の了承を得て、先輩は爽やかな笑顔を向けてきた。
「良かったな、ロイス」
「あの、そのことですが……今日は予定がありまして。欠席する予定で……」
「ん? シド上官の主催だから欠席はまずいぞ」
「…………え?」
「あれ、伝えてなかったか? シド上官の屋敷で開くことになったんだ」
俺は呆然と固まった。シド上官の主催、とは聞いていなかった。
パーティ好きのシド上官だ。主催者となれば、絶対に出席しなければならない。
しかし弟の成人は一生に一度だけなのだ。先延ばしになんてできない。祝ってやれないなんてつらい。きっとすごく楽しみにしているはずだ。
「あ、今日ってジョシュアの誕生日か」
ミカエルがふと思い出したようだった。俺は蒼白しながら頷いた。
一生に一度の成人の日なのだから、歓迎会は欠席しても許されるだろうか。
騎士たちが反応する。
「ああ、あのジョシュア君か」
「ジョシュア君?」
「ロイスの弟だよ。騎士学校で首席なんだぜ」
「さすがロイスの弟だよなぁ」
「ロイスさん、ブラコンなの……?」
そのときだった。一人がひらめいたように強く手を打った。
「それなら一緒にジョシュア君の誕生日も祝ったらいいんじゃないか?」
「うん、ロイスの弟なら歓迎だ。それに騎士学校の生徒なら私たちの身内でもある」
「どうです? ユリウス隊長」
ユリウス隊長はまとめた書類の角をトンと揃えて答えた。
「構わない」
俺は全てが台無しになった気分で、皆の「よかったな」という呼びかけに鈍く頷いた。
弟を連れて行くために帰路につく。
屋敷の扉を開くと、牛肉のステーキやパイの香ばしい匂いが漂った。
弟はダイニングテーブルで学校のレポートを書いており、俺の気配に気づくと顔を上げてふわりと微笑した。
「おかえり、兄さん」
何と説明すればいいのだろう。
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