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本編
贈り物と誕生日 2
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「――私が隊長補佐官、ですか」
上官の執務室で、俺は驚いて反復した。
正面のオークの執務机にはシド上官がふんぞり返って着席している。
「んははっ! ユリウス隊長たっての希望でな!」
咄嗟に俺は、隣に並んで立っているユリウス隊長を見上げた。
端正な面持ちを保っており、素知らぬ眼差しで俺を見下ろした。
――確信犯だ、これは補佐官として俺を側に置くための策略なのだ――とその瞬間直感した。
シド上官ははしゃぎながら仰々しく述べる。
「これはロイスの実力を買ってのことである! なにしろ初日の稽古で隊長に太刀打ちできたのは君ひとりだけだったのだからなっ!!」
「っお待ちください。あのとき勝てたのは――偶然です。実力を考えれば俺が敵うはずありません……!」
「ほう? というと……ロイス。君は決定を辞退する、と言いたいのかね……?」
ねっとりとした口調で尋ねられ、俺はびく、と震えた。
するとシド上官は豹変したようにぱっと親切な笑顔になった。
「もちろんこれまでの実績も踏まえてのことだ。剣の腕だけで選んだわけではない」
「あ、りがとうございます……」
「んはは! ロイスは真面目すぎる。こういう事はやっているうちに慣れるものだ」
「は、い」
「君の祖父君はご立派だったぞぉ……?」
「…………私も精進いたします」
「そうしたまえ。君は生まれもタイミングもよかったということだ。恵まれておる!」
「はい」
納得しがたい言葉だったけれど、反論はできなかった。
シド上官はイモ虫のようにでっぷりとした指を組む。
「では……受けてくれるな?」
「謹んでお受けいたします」
「うんむ、安心するといい! 君には私がついておる、どっしりと構えておれ。んははは!」
「…………」
ユリウス隊長と一緒に退室すると、俺は視線を逸らしたまま厳しく問いかけた。
「どういうおつもりですか」
「騎士という職業を選んだのは君だろう。その君に役職を贈ってあげたのだ。喜んでくれると思ったが?」
「ッあなたは」
睨みつけると、ユリウス隊長も静かに俺を睨んでいた。
「っ……」
「私から逃げることは許さない」
「……こんなやり方は、卑怯、です」
「任命の変更はもうできない。断れば君は僻地の砦に飛ばされるだろう。そうなれば弟とも離れ離れになって偽装もできなくなる」
「……っ」
「いや、弟とは少し距離を置いたのか?」
「え?」
疑問に思うと、隊長は「良い心がけだ」とすこし表情を緩めた。
意味の分からない俺をおいて、ユリウス隊長は囁く。
「しかしすべては一時のことだ。ここは危険すぎる……。それに君に出会って、私のフェロモンは増えているようだ。これから危険はさらに増していくだろう」
「……」
「逃げ回ることはできない。これから身に染みるはずだ。そのうち、自ら私に身を委ねるようになる……」
俺はもう一度睨みつけた。頭がとろんと陶酔しそうになるけれど、それ以上に怒りが勝っていた。
ユリウス隊長はきゅっと唇を固くすると、俺に背を向ける。
「職務は、全うするように」
背中を見送りながら、俺は拳をさらにきつく握った。
こんな卑怯な手を使っておいて、どうして今、傷ついたような顔を見せたのだ。
本能で無性に慰めたい衝動が俺を苛んでくる。
廊下の窓からは午後の陽光が差しこんでいる。
上官の執務室で、俺は驚いて反復した。
正面のオークの執務机にはシド上官がふんぞり返って着席している。
「んははっ! ユリウス隊長たっての希望でな!」
咄嗟に俺は、隣に並んで立っているユリウス隊長を見上げた。
端正な面持ちを保っており、素知らぬ眼差しで俺を見下ろした。
――確信犯だ、これは補佐官として俺を側に置くための策略なのだ――とその瞬間直感した。
シド上官ははしゃぎながら仰々しく述べる。
「これはロイスの実力を買ってのことである! なにしろ初日の稽古で隊長に太刀打ちできたのは君ひとりだけだったのだからなっ!!」
「っお待ちください。あのとき勝てたのは――偶然です。実力を考えれば俺が敵うはずありません……!」
「ほう? というと……ロイス。君は決定を辞退する、と言いたいのかね……?」
ねっとりとした口調で尋ねられ、俺はびく、と震えた。
するとシド上官は豹変したようにぱっと親切な笑顔になった。
「もちろんこれまでの実績も踏まえてのことだ。剣の腕だけで選んだわけではない」
「あ、りがとうございます……」
「んはは! ロイスは真面目すぎる。こういう事はやっているうちに慣れるものだ」
「は、い」
「君の祖父君はご立派だったぞぉ……?」
「…………私も精進いたします」
「そうしたまえ。君は生まれもタイミングもよかったということだ。恵まれておる!」
「はい」
納得しがたい言葉だったけれど、反論はできなかった。
シド上官はイモ虫のようにでっぷりとした指を組む。
「では……受けてくれるな?」
「謹んでお受けいたします」
「うんむ、安心するといい! 君には私がついておる、どっしりと構えておれ。んははは!」
「…………」
ユリウス隊長と一緒に退室すると、俺は視線を逸らしたまま厳しく問いかけた。
「どういうおつもりですか」
「騎士という職業を選んだのは君だろう。その君に役職を贈ってあげたのだ。喜んでくれると思ったが?」
「ッあなたは」
睨みつけると、ユリウス隊長も静かに俺を睨んでいた。
「っ……」
「私から逃げることは許さない」
「……こんなやり方は、卑怯、です」
「任命の変更はもうできない。断れば君は僻地の砦に飛ばされるだろう。そうなれば弟とも離れ離れになって偽装もできなくなる」
「……っ」
「いや、弟とは少し距離を置いたのか?」
「え?」
疑問に思うと、隊長は「良い心がけだ」とすこし表情を緩めた。
意味の分からない俺をおいて、ユリウス隊長は囁く。
「しかしすべては一時のことだ。ここは危険すぎる……。それに君に出会って、私のフェロモンは増えているようだ。これから危険はさらに増していくだろう」
「……」
「逃げ回ることはできない。これから身に染みるはずだ。そのうち、自ら私に身を委ねるようになる……」
俺はもう一度睨みつけた。頭がとろんと陶酔しそうになるけれど、それ以上に怒りが勝っていた。
ユリウス隊長はきゅっと唇を固くすると、俺に背を向ける。
「職務は、全うするように」
背中を見送りながら、俺は拳をさらにきつく握った。
こんな卑怯な手を使っておいて、どうして今、傷ついたような顔を見せたのだ。
本能で無性に慰めたい衝動が俺を苛んでくる。
廊下の窓からは午後の陽光が差しこんでいる。
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