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本編
贈り物と誕生日 1
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赤茶色の木扉を開ければ、来店を知らせるベルのカランコロンという音が響いた。
「いらっしゃいませ、ウェンダル様」
品の良いスーツ姿の店員たちに次々と挨拶されて、「どうも」と頷き返した。
ここは革や布製品を取り扱っている店だ。
広々とした店内にはカバンや帽子、外套、財布などの様々な商品が並んでいる。
充満している鼻を刺す匂いは、皮加工で使用する化学薬品の匂いだ。
弟の誕生日プレゼントを買いにきたけれど、どれにしよう――迷いながら見回していると、店主である中年の男がぴょこっと陳列棚の奥から躍り出てきた。
「ロイス様、いらっしゃいませ! どういったご所望でございましょうか?」
幼少期から見知っているふくよかな店主だ。包容力があって話しやすい。頬っぺたが赤くて笑うと丸々するところも愛嬌がある。
小さな身長を見下ろしながら、俺は口を開いた。
「弟がもうすぐ成人するので、祝いの品を……と思いまして」
「ジョシュア様の成人祝いのプレゼントですね。お誕生日はたしか3日後の27日でしたか」
「ええ、よく覚えていらっしゃいますね」
「毎年誕生日プレゼントを贈られていらっしゃいますでしょう。ごひいきにして下さってありがとうございます」
店主が微笑む。
俺は、兄弟愛が行き過ぎたブラコンと思われていないだろうか……と少し気恥ずかしくなった。
今回は成人祝いなので特別だけれど、毎年誕生日プレゼントを贈っている兄弟は珍しいだろう。
店主はぴょこぴょことした動きで朗らかに聞いてくる。
「どういったお品にされるか決めておられますか?」
「いいえ、まだなにも。こちらに来てから決めようかと」
「成人の祝いでございましたら、ネクタイや財布やカバンなどが定番ですよ」
「ああ……。財布」
いいかもしれないと思って呟くと、ぴゅんと財布のコーナーへと案内された。
しかしずらりと並ぶ洒落た品を見て、俺は途端に立ち尽くした。
「こだわりや使い勝手もあるでしょうし、その、選びづらくて……」
「ジョシュア様は厳選されるお方でしたね……」
店主はうんうんと頷く。
「あの、もっと目立たないもので」
「もっと目立たないもの。でしたら、ブックカバーはいかがでしょうか? ジョシュア様は読書がご趣味でしょう」
「ああ……!」
すごくいいかもしれない。
「美しい刺繍を施した品を取り揃えておりますよ。こちらでございます」
しかしいざブックカバーの並ぶコーナーに来てみると、やはり洒落た雰囲気にしり込みしていた。
「あの、本にカバーを付けている様子はなかったので、持て余すかも……」
「ふむふむ。ジョシュア様が購入されたことはありませんでしたね……」
「あの、普段使いできるもので」
「普段使いできるもの。でしたら、普段使いの乗馬用の手袋なんていかがでしょうか? ジョシュア様は馬駆けもご趣味でしょう」
「ああ……!」
すごくいいかもしれない。絶対に使うだろう。
「こちらにジョシュア様がご愛用なさっている手袋がございます。ご参考になさってください」
案内されている途中だった。ふと、ひとつの商品が目に留まった。気になって足を止める。
「あの、」
俺は前を行く店主に声をかけた。
あれをジョシュアに贈ったら、大事に使ってくれるだろうか。
「いらっしゃいませ、ウェンダル様」
品の良いスーツ姿の店員たちに次々と挨拶されて、「どうも」と頷き返した。
ここは革や布製品を取り扱っている店だ。
広々とした店内にはカバンや帽子、外套、財布などの様々な商品が並んでいる。
充満している鼻を刺す匂いは、皮加工で使用する化学薬品の匂いだ。
弟の誕生日プレゼントを買いにきたけれど、どれにしよう――迷いながら見回していると、店主である中年の男がぴょこっと陳列棚の奥から躍り出てきた。
「ロイス様、いらっしゃいませ! どういったご所望でございましょうか?」
幼少期から見知っているふくよかな店主だ。包容力があって話しやすい。頬っぺたが赤くて笑うと丸々するところも愛嬌がある。
小さな身長を見下ろしながら、俺は口を開いた。
「弟がもうすぐ成人するので、祝いの品を……と思いまして」
「ジョシュア様の成人祝いのプレゼントですね。お誕生日はたしか3日後の27日でしたか」
「ええ、よく覚えていらっしゃいますね」
「毎年誕生日プレゼントを贈られていらっしゃいますでしょう。ごひいきにして下さってありがとうございます」
店主が微笑む。
俺は、兄弟愛が行き過ぎたブラコンと思われていないだろうか……と少し気恥ずかしくなった。
今回は成人祝いなので特別だけれど、毎年誕生日プレゼントを贈っている兄弟は珍しいだろう。
店主はぴょこぴょことした動きで朗らかに聞いてくる。
「どういったお品にされるか決めておられますか?」
「いいえ、まだなにも。こちらに来てから決めようかと」
「成人の祝いでございましたら、ネクタイや財布やカバンなどが定番ですよ」
「ああ……。財布」
いいかもしれないと思って呟くと、ぴゅんと財布のコーナーへと案内された。
しかしずらりと並ぶ洒落た品を見て、俺は途端に立ち尽くした。
「こだわりや使い勝手もあるでしょうし、その、選びづらくて……」
「ジョシュア様は厳選されるお方でしたね……」
店主はうんうんと頷く。
「あの、もっと目立たないもので」
「もっと目立たないもの。でしたら、ブックカバーはいかがでしょうか? ジョシュア様は読書がご趣味でしょう」
「ああ……!」
すごくいいかもしれない。
「美しい刺繍を施した品を取り揃えておりますよ。こちらでございます」
しかしいざブックカバーの並ぶコーナーに来てみると、やはり洒落た雰囲気にしり込みしていた。
「あの、本にカバーを付けている様子はなかったので、持て余すかも……」
「ふむふむ。ジョシュア様が購入されたことはありませんでしたね……」
「あの、普段使いできるもので」
「普段使いできるもの。でしたら、普段使いの乗馬用の手袋なんていかがでしょうか? ジョシュア様は馬駆けもご趣味でしょう」
「ああ……!」
すごくいいかもしれない。絶対に使うだろう。
「こちらにジョシュア様がご愛用なさっている手袋がございます。ご参考になさってください」
案内されている途中だった。ふと、ひとつの商品が目に留まった。気になって足を止める。
「あの、」
俺は前を行く店主に声をかけた。
あれをジョシュアに贈ったら、大事に使ってくれるだろうか。
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