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本編
剣と親友 6
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広場に戻ると、三十名ほどの中隊の隊員たちが素振りをしたり、型を確かめたりしていた。
いつもより随分と数が多い。ユリウス隊長の剣技に触発されたのだ。
先輩の一人が振り返る。
「お。ロイス、お前も自主練か」
「……はい」
「精が出るな。俺もがんばらんと」
ひとり大きく剣を振るっているのは、ミカエルだ。
”空想の誰か”を相手取っているかのようだった。
夕日の中で汗が輝く。いつもの悪戯っぽい雰囲気は遠く、眼差しは厳しい。
俺は少し離れた場所に陣取り、乱れた心を静めるように構え、無心で素振りした。
「――イス、ロイス~。もう真っ暗だぜ。いつまでやんの?」
「あ」
ふと気付くと、周囲にはミカエル以外、誰もいなくなっていた。
日はとっぷりと暮れていて、夜空には丸い月が出ている。
ミカエルはいつもの余裕のある表情だ。
「社交界があるから顔出さないといけないんだよね。ロイスは?」
「俺は……やめておくよ」
「そ。でもそろそろ帰ったほうがいいぜ。明日も訓練あるんだし」
ミカエルの冗談めいた口調には、静かな覚悟が宿っていた。
今日は負けてしまったけれど、それでも、上を目指している。
さきほどの自主訓練は、明らかにユリウス隊長を相手にイメージしているようだった。
「……ミカエルは、勝つ気なんだな」
「え?」
「ユリウス隊長に」
「そりゃーね。負けたまんまじゃいられないし」
「お前があんなに熱くなっているところ、初めて見た」
「そうかもね」
「ミカエルは…………俺よりもずっと、強かったんだな」
ミカエルはふと、慈しみのある微笑を浮かべた。
「なあ、ロイス」
「ん……?」
「俺がここまでやって来れたのはさ、学校でお前を見つけたからだよ」
「え?」
「学生ンときのロイスはさ。荒野で気高く咲いてる一輪の花って感じだった」
本気の口調で言われ、呆れた。
「それ、褒めてるつもりか」
「うん。そんなお前に近づきたくって声かけたんだ。お前は優秀でさ、剣が抜群に強くて、血反吐吐くような訓練でも弱音ひとつ吐かなくて、泥に汚れてもつんとしてて、気高かった。そんなお前を見て、俺は初めてやる気ってのを持った。おかげで親父の小言も減ってさ」
「……」
「アイツに何か言われたんだろーけど、従う必要なんかさっぱりねーよ。お前はまだまだやれるって、この俺が断言する。お前はまだ強くなる」
ミカエルの言葉には、不思議な力が宿っていた。
昔からそうだ。ミカエルには太陽のような力があって、いつも心を動かしてしまうのだ。
ぐ、と胸の嬉しさを堪えていると頭に手を置かれてわしゃわしゃとかき混ぜられ、一歩で逃げた。
「ミカエル」
「うん?」
「一戦だけ、手合わせてしてくれないか」
「いいね。手は抜かねえぜ」
「うん……!」
今日、自主練の人が増えていたのは、ユリウス隊長の影響だけじゃなくて、ミカエルの影響も大きかったのかもしれない。と伝えると、ミカエルは笑った。
「そりゃね。なんたって俺だし」
おかしくって、くっと笑う。
黄色い月が、俺たちを優しく照らしていた。
*
更衣室の備え付けのシャワー室で軽く汗を流して、帰路につく。
ただいま、と屋敷のリビングに入ると、ソファで読書していた弟が顔を上げた。
「おかえり、兄さん」
構いたくなってきて、弟の頭を軽く撫でる。
「なに、突然」
「何でもないよ」
期待してくれる人がいる。
タイムリミットのある幸せなら、その時間を大切にしたい。
***
2/12幕完結です。
読んで下さりありがとうございます……!
お気に入りや感想で応援してくれると嬉しいです!
執筆のモチベーションになります!
よろしくお願いします!
いつもより随分と数が多い。ユリウス隊長の剣技に触発されたのだ。
先輩の一人が振り返る。
「お。ロイス、お前も自主練か」
「……はい」
「精が出るな。俺もがんばらんと」
ひとり大きく剣を振るっているのは、ミカエルだ。
”空想の誰か”を相手取っているかのようだった。
夕日の中で汗が輝く。いつもの悪戯っぽい雰囲気は遠く、眼差しは厳しい。
俺は少し離れた場所に陣取り、乱れた心を静めるように構え、無心で素振りした。
「――イス、ロイス~。もう真っ暗だぜ。いつまでやんの?」
「あ」
ふと気付くと、周囲にはミカエル以外、誰もいなくなっていた。
日はとっぷりと暮れていて、夜空には丸い月が出ている。
ミカエルはいつもの余裕のある表情だ。
「社交界があるから顔出さないといけないんだよね。ロイスは?」
「俺は……やめておくよ」
「そ。でもそろそろ帰ったほうがいいぜ。明日も訓練あるんだし」
ミカエルの冗談めいた口調には、静かな覚悟が宿っていた。
今日は負けてしまったけれど、それでも、上を目指している。
さきほどの自主訓練は、明らかにユリウス隊長を相手にイメージしているようだった。
「……ミカエルは、勝つ気なんだな」
「え?」
「ユリウス隊長に」
「そりゃーね。負けたまんまじゃいられないし」
「お前があんなに熱くなっているところ、初めて見た」
「そうかもね」
「ミカエルは…………俺よりもずっと、強かったんだな」
ミカエルはふと、慈しみのある微笑を浮かべた。
「なあ、ロイス」
「ん……?」
「俺がここまでやって来れたのはさ、学校でお前を見つけたからだよ」
「え?」
「学生ンときのロイスはさ。荒野で気高く咲いてる一輪の花って感じだった」
本気の口調で言われ、呆れた。
「それ、褒めてるつもりか」
「うん。そんなお前に近づきたくって声かけたんだ。お前は優秀でさ、剣が抜群に強くて、血反吐吐くような訓練でも弱音ひとつ吐かなくて、泥に汚れてもつんとしてて、気高かった。そんなお前を見て、俺は初めてやる気ってのを持った。おかげで親父の小言も減ってさ」
「……」
「アイツに何か言われたんだろーけど、従う必要なんかさっぱりねーよ。お前はまだまだやれるって、この俺が断言する。お前はまだ強くなる」
ミカエルの言葉には、不思議な力が宿っていた。
昔からそうだ。ミカエルには太陽のような力があって、いつも心を動かしてしまうのだ。
ぐ、と胸の嬉しさを堪えていると頭に手を置かれてわしゃわしゃとかき混ぜられ、一歩で逃げた。
「ミカエル」
「うん?」
「一戦だけ、手合わせてしてくれないか」
「いいね。手は抜かねえぜ」
「うん……!」
今日、自主練の人が増えていたのは、ユリウス隊長の影響だけじゃなくて、ミカエルの影響も大きかったのかもしれない。と伝えると、ミカエルは笑った。
「そりゃね。なんたって俺だし」
おかしくって、くっと笑う。
黄色い月が、俺たちを優しく照らしていた。
*
更衣室の備え付けのシャワー室で軽く汗を流して、帰路につく。
ただいま、と屋敷のリビングに入ると、ソファで読書していた弟が顔を上げた。
「おかえり、兄さん」
構いたくなってきて、弟の頭を軽く撫でる。
「なに、突然」
「何でもないよ」
期待してくれる人がいる。
タイムリミットのある幸せなら、その時間を大切にしたい。
***
2/12幕完結です。
読んで下さりありがとうございます……!
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