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本編

剣と親友 5

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 一日の訓練を終えて、隊員たちはわいわいと賑わいながら広場を解散していく。

「いやあ、スゴかったっすね!! ユリウス隊長の無双っ!!」
「あんなに強い人だったんだな……! 別次元というか」
「細身だから舐めてたよ……!」
「王都を守る騎士は伊達じゃないということか」

 今日一日ユリウス隊長を中心として稽古があったので、話題は彼について一色だ。

「結局、一本取れたのはロイスだけだったな」

 親しい先輩に声をかけられて、俺は怯んだ。

「おれ、惚れ惚れしちゃいましたよ~!! さすがおれたちのロイスさん!!」
「ぁ、有難う……」
「相性や運もあるだろうが、見事だったぞ。どうした、浮かない顔だが」
「いえ……」

 俺は曖昧に頷いた。あんなのは勝利とは言えず、賛辞を贈られてもただ苦しいだけだった。

「ミカエルも良い戦いぶりだったけどなぁ」
「あんなに全力になってるミカエル、初めて見たな」
「俺もっす!!」

 ミカエルの立ち合いを思い出す。
 笑みを浮かべていたのは最初だけで、その後はまるで命を懸けたような凄まじい気迫だった。
 あれがミカエルの本気なのだ。

「いつも余裕たっぷり~って感じっすけど、強敵の出現で隠れた本性が引きだされたんすかね……!?」
「あれ、そういえばミカエルは?」
「顔を洗いに行ってる。このあと自主稽古するらしい」
「ご立派っすね……!! 俺も顔洗ってから訓練場に戻るっす~!!」
「俺らもそうするか」

 嵐のようだな……と思いながら、彼らの背中を見送った。
 直後にシド上官がやってきた。興奮冷めやらぬという様子だ。

「ロイス、やるじゃあないか! 見直したぞ! いやいや、私は知っていたがなぁ……! お前の実力はまだまだこんなものじゃあないと!」
「ありがとうございます」
「今後も期待しているぞ、んはは! 我らが基地はアルファが多くて安泰である!!」

 俺の腰をばんばんと激しく叩いて、笑いながら去っていく。
 足取りが重くて苦しい。俺は回れ右した。先には宿舎に続く通路がある。
 小走りで駆けていくと、基地の外に出た。目的の人物は、丁度宿舎の入り口に入ろうとしているところだった。

「ユリウス隊長ッ!」

 隊長の足がピタリと固まった。ゆっくりと振り返る。

「――なんだ」
「午前の、手合わせのことですが」

 目を細めて話を促され、たじろぎそうになるが耐えた。

「納得、いきません。あんなのは……真剣勝負とは言えない」
「それで?」
「手加減しないで、頂きたい」
「ふっ……」
 嘆いているような笑いだった。

「……どうして笑うんですか」
「できるわけがない。私の気持ちはもう伝えた。わかるだろう」
「それは、」
「守りたいと思っているのに、討てというのか?」
 瞬間、歓びとショックがない交ぜになったけれど、俺は意地でもって訴えた。

「それは、侮辱です。俺は騎士です……!」
 どうにか見つめて言うと、ユリウス隊長は呆れたように、やるせなさそうにかぶりを振る。
 俺は話を終わらせまいと一歩踏み出した。

「再試合をして頂けませんか」
「……酷な事を言う」

 酷……なのだろうか。これまで三年間騎士を務めてきたのに、認めてもらえないのがどうしようもなく悔しい。歯がゆかった。この強者に認めてほしい。

「お願いします。俺は騎士なんです。真剣に打ち合ってください。そうしたら……」

 ミカエルのように喰らいついていきたい。同じ場所に並び立ちたい。剣が好きだ。偉大な祖父の背中が脳裏に浮かんだ。
 俺は固く拳を握って、正面から強く見つめた。

「俺のことを認められないとおっしゃるなら、真剣勝負で勝ってからにして頂きたい……!」

 ユリウス隊長は薄く笑った。

「ほう。そこまで言うか。それなら条件をつけよう」
「え?」
「君が負けたとき、私のものになると誓うのなら……本気で勝負してもいい」

 途端に、俺は声が発せなくなっていた。その条件は無理だ。

「どうした。君の覚悟はその程度か」
「…………」
「騎士の肩書にこだわるか……」
 冷えた微笑だった。

「君と勝負する気はない。落ち着いて話がしたい……。私の部屋に来てほしい」
「――お断り、します。あなたに近付く気はない……」
「……。ここまで来たのは、私に執着しているからではないのか?」
「それは、」

 気付くと無意識で後ずさりしていた。隊長のことは、強者として尊敬しているだけだ。それ以上があるはずがない。いや、本当にそうと言えるのか? 運命の番だから特別に憧れてしまうのではないか。
 隊長は俺と向き合って、苦し気に言う。

「……このまま日常が続くと思っているのか。永遠に弟に頼っていく気なのか」
「っ失礼します」

 咄嗟にきびすを返していた。背中に強い視線を感じる。
 今すぐにここを離れたい。一刻も早く逃れたくてたまらなかった。
 そして、弟を縛っているのはやはり俺か。



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