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本編
剣と親友 3
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「おはよー」
基地の更衣室の扉を開いたとき、背後からミカエルの声が聞こえた。
「おはよう、ミカエル。早いな」
「ちょっとね。昨日あんまり寝れなくてさ」
「……そう、か」
昨夜の社交サロンでの件の影響だろうか。
話を聞かれたかどうかはうやむやに流れてしまったのだ。サロン会場にもどったときには普通に接してくれたけれど、俺に気遣って聞いていない振りをしたんじゃないだろうか。全て聞いていなかったとしても、勘が良いので状況で察している可能性もある。確認されたらどうする? 知らんぷりで通せるだろうか?
焦りながら着替えていると、ミカエルは語気を低めた。
「なあ、ロイス」
ぎくっとして脱ぎかけていたシャツが肩で止まった。
「――なんだ?」
「昨日の件なんだけどさ」
「ああ」
着替えをさっと再開しながら、何てことないように答える。
「なんかユリウス隊長と揉めてた?」
「いや?」
「そっか。んーじゃあ、いっか」
「……何だ。はっきり言ってくれ。気になる」
「なんでもない」
にぱっと笑顔で誤魔化される。
なんでもないようには見えないけれど、藪蛇になるような予感がして踏みこめない。
「それよりロイス。何か困ってんなら、俺の事もっと頼ってくれていいんだぜ?」
「え?」
「学生時代からの仲じゃん。お前が自主退学したときどんだけ寂しかったか。一言もナシにいなくなっちゃうんだもん」
「ぁ……」
「戻って来てくれたとき、俺すげー嬉しかったんだぜ?」
心からの歓びが伝わってきて、朝から感動で胸がじんわりと熱くなった。けれど、事情は早々話せる内容ではない。
「……その」
「無理して言わなくていーよ。まあ、もっと頼ってほしいっつーか。相談とかしてくれよ。俺たち親友だろ?」
「……うん」
「何かあったときは俺んとこに来いよ。力になってやるから」
「うん」
嬉しくて頬が熱くなる。ミカエルも少し照れ臭そうに首の後ろをかいていたが、ふと不思議そうに首を傾けた。
「あとさ、ロイス」
「ん?」
「……弟となんかあった?」
直後、ミカエルは鼻をクンと鳴らした。どきりとする。マーキングに勘づかれたのだろうか。たまたま偶然に鼻を鳴らしただけだろうか。もしかして今朝マーキングされすぎたのが原因か? フェロモンが普段よりも濃いのかもしれない。
「いっ、いつも通りだが」
「……そう? ならまー……いいけど」
ひやひやしながら着替えて、首元に白いスカーフを巻いた。
出来栄えにうん、と納得する。ミカエルも平静に自分のスカーフを巻いている。
今日の訓練場所は芝生の整えられた中規模の広場だ。壁に囲まれていて外からは見えない造りになっている。
馬は連れておらず、手には木剣を握っている。
今日は剣術稽古の日だ。
柄の感触を確かめていると、ミカエルがふふと陽気に笑った。
「機嫌良いねえ。ロイスは剣が大好きだもんな」
「……顔に出てたか?」
俺ははたと口元を引きしめた。
「うん。剣を握った瞬間からにこにこしてるよ」
「う」
子供っぽいと思われていそうだ。
自分らしく振舞うミカエルは一見少年っぽく見えるけれど、その愛想のよさで人の懐に飛び込むことができ、実は立ち回りは大人っぽい。
広場で準備運動をしていると先輩や後輩たちが揃ってきて、ミカエルを中心に雑談が交わされる。そして俺もミカエルの親友として雑談の輪に入れてもらう。
しばらくするとユリウス隊長が歩いてくる姿が見えた。
「腕の程が楽しみだね」
「ん、そうだな」
あまり接触しないように気を付けないといけない、と内心で警戒する。
しかし騎士として実力を試したい気持ちもある。
「御前試合の準優勝者ねえ……。勝てば俺らが王都で二位ってことだよな?」
ミカエルが好戦的に笑んだ。
むくむくと熱量が込み上げてきて、足を開いて屈伸しながら首肯した。
基地の更衣室の扉を開いたとき、背後からミカエルの声が聞こえた。
「おはよう、ミカエル。早いな」
「ちょっとね。昨日あんまり寝れなくてさ」
「……そう、か」
昨夜の社交サロンでの件の影響だろうか。
話を聞かれたかどうかはうやむやに流れてしまったのだ。サロン会場にもどったときには普通に接してくれたけれど、俺に気遣って聞いていない振りをしたんじゃないだろうか。全て聞いていなかったとしても、勘が良いので状況で察している可能性もある。確認されたらどうする? 知らんぷりで通せるだろうか?
焦りながら着替えていると、ミカエルは語気を低めた。
「なあ、ロイス」
ぎくっとして脱ぎかけていたシャツが肩で止まった。
「――なんだ?」
「昨日の件なんだけどさ」
「ああ」
着替えをさっと再開しながら、何てことないように答える。
「なんかユリウス隊長と揉めてた?」
「いや?」
「そっか。んーじゃあ、いっか」
「……何だ。はっきり言ってくれ。気になる」
「なんでもない」
にぱっと笑顔で誤魔化される。
なんでもないようには見えないけれど、藪蛇になるような予感がして踏みこめない。
「それよりロイス。何か困ってんなら、俺の事もっと頼ってくれていいんだぜ?」
「え?」
「学生時代からの仲じゃん。お前が自主退学したときどんだけ寂しかったか。一言もナシにいなくなっちゃうんだもん」
「ぁ……」
「戻って来てくれたとき、俺すげー嬉しかったんだぜ?」
心からの歓びが伝わってきて、朝から感動で胸がじんわりと熱くなった。けれど、事情は早々話せる内容ではない。
「……その」
「無理して言わなくていーよ。まあ、もっと頼ってほしいっつーか。相談とかしてくれよ。俺たち親友だろ?」
「……うん」
「何かあったときは俺んとこに来いよ。力になってやるから」
「うん」
嬉しくて頬が熱くなる。ミカエルも少し照れ臭そうに首の後ろをかいていたが、ふと不思議そうに首を傾けた。
「あとさ、ロイス」
「ん?」
「……弟となんかあった?」
直後、ミカエルは鼻をクンと鳴らした。どきりとする。マーキングに勘づかれたのだろうか。たまたま偶然に鼻を鳴らしただけだろうか。もしかして今朝マーキングされすぎたのが原因か? フェロモンが普段よりも濃いのかもしれない。
「いっ、いつも通りだが」
「……そう? ならまー……いいけど」
ひやひやしながら着替えて、首元に白いスカーフを巻いた。
出来栄えにうん、と納得する。ミカエルも平静に自分のスカーフを巻いている。
今日の訓練場所は芝生の整えられた中規模の広場だ。壁に囲まれていて外からは見えない造りになっている。
馬は連れておらず、手には木剣を握っている。
今日は剣術稽古の日だ。
柄の感触を確かめていると、ミカエルがふふと陽気に笑った。
「機嫌良いねえ。ロイスは剣が大好きだもんな」
「……顔に出てたか?」
俺ははたと口元を引きしめた。
「うん。剣を握った瞬間からにこにこしてるよ」
「う」
子供っぽいと思われていそうだ。
自分らしく振舞うミカエルは一見少年っぽく見えるけれど、その愛想のよさで人の懐に飛び込むことができ、実は立ち回りは大人っぽい。
広場で準備運動をしていると先輩や後輩たちが揃ってきて、ミカエルを中心に雑談が交わされる。そして俺もミカエルの親友として雑談の輪に入れてもらう。
しばらくするとユリウス隊長が歩いてくる姿が見えた。
「腕の程が楽しみだね」
「ん、そうだな」
あまり接触しないように気を付けないといけない、と内心で警戒する。
しかし騎士として実力を試したい気持ちもある。
「御前試合の準優勝者ねえ……。勝てば俺らが王都で二位ってことだよな?」
ミカエルが好戦的に笑んだ。
むくむくと熱量が込み上げてきて、足を開いて屈伸しながら首肯した。
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