【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

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本編

運命 2

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「兄さん、起きて」

 肩を揺すられる。
 甘いアルファの匂いが全身を包んでいる。寄り添っている温もりが心地いい。

「遅刻するよ」

 優しく注意されて、はたと瞼を開いた。
 見上げれば、弟のジョシュアが柔らかい微笑を浮かべている。

「おはよう」
「ああ……おはよう。ジョシュア」

 チュンチュンと平和そうな小鳥のさえずりが聞こえていた。
 窓からは眩しい朝日が降り注いでいる。
 俺は二十一歳になり、三年前に騎士に就任していた。
 弟は十七歳だ。もうすぐ十八歳になる。

 甘い香りの正体は弟のフェロモンだ。
 屋敷にきてから数か月で香りだし、時が経つほど濃厚になっているようだった。体は健康そのもので背丈も大きくなり、今では平均身長の俺を頭半分ほど追い越している。筋肉も程よくつき、顔色は血色よく、黒い髪は艶めいて光を纏っている。
 俺の首筋に顔を寄せてきて、おもむろに香りを確かめてくる。

「マーキングは充分だね」
「助かる」
「職場でシャワーを浴びるときは気を付けなよ」
「わかってるよ」

 朝は忙しく、俺は出勤用の私服に、弟は騎士学校の制服に着替えていく。

「ヒート抑制剤は?」
「持った」

 ふ、と弟の心配性ぶりについ笑ってしまう。
 弟は着替えの手を止め、能天気さを咎めるように目を細めた。

「笑い事じゃないよ。兄さんがオメガだってバレたら」
「うん、わかってる」

 もし職場でヒートを起こせば事故になるだろう。周囲にも迷惑がかかる。
 笑い事では済まないことは重々承知している。
 ただそれとは別に、心配してくれることがくすぐったい。

「今日の訓練内容は憲兵との合同訓練だっけ」
「そう」
「ミカエルさんは同じ班?」
「そうだよ」
「ならまあ、安心かな……」

 ミカエルは騎士学校時代からの友人だ。
 騎士学校に復学したときも一番喜んでくれた。
 そのとき弟が唸った。

「んー……もう少しマーキングしておくね」
「ぅわっ!?」

 背後から抱き締められて不意打ちをくらい、俺はふう、と息をついた。

「ひと声かけてからしてくれないか」
「別にいいでしょう。あと、これ」
「……うん。ありがとう」

 弟のフェロモンがしっかりと付いた、白いスカーフだ。
 騎士服に着替えた時、これを首に巻いておけばフェロモンのカバーは万全である。

「それじゃ、行ってくる」
「気を付けてね」

 弟と執事に見送られて屋敷を出る。
 騎士の基地と学校は、ひと続きの土地に建っている。周辺地方の騎士と候補生たちが一同にまとめられているので、どちらも大きな建物だ。
 壁には国家の威信を示す国旗が並んでいる。

 弟と一緒に通勤通学してもいいかもしれないが、あんまり親しすぎるとまわりに不信がられるので別行動だ。

 更衣室のひと気はまばらだった。
 手際よく黒い制服に着替えていき、白いスカーフを首に巻けば身支度が完了する。
 鏡で姿をチェックすれば、見慣れた黒髪と薄青の目が映っている。騎士服は多分、似合っている。こうして騎士服姿の自分を見ていると、誇り高い気分になる。俺も騎士の一員なのだ。



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