燦燦さんぽ日和

加藤泰幸

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竜伐祭編

第十五話/祭りの終わりに……(前編)

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「ではでは!
 この兄花島、昔は花街だった、とご存知の方はどれくらいいらっしゃいますでしょうか。
 宜しければ、手を上げてみてくれますか? はい、そうです、そうです。照れずにビシッと!
 はい、ありがとうございますー! 二割、三割という所でしょうか。結構いらっしゃいますね。

 それでは……ご存知の方には恐縮ですが、まずはこの兄花島の過去の話をしたいと思います。
 今からおよそ二百年前、この国は二つに分かれていました。
 精霊を信仰する人々と、精霊の存在を信じずに人の力だけで生きようとした人々。
 それらが、国の覇権を争っていた内乱時代……別名、精霊戦争があった事は、皆さんもご存知ですよね。

 精霊戦争の勝者は……これもご存知かとは思いますが、現王族エクリプス家の祖先、エクリプス一世率いる精霊信仰側です。
 戦争末期ともなれば、殆どの都市は精霊信仰側が治めており、このヒノモトも同様でした。
 戦争もようやく終結の気配を見せると、生活も安定し始めます。
 兄花島の人は、その安定に伴い、新たな産業に手を出し始めました。
 それが、特別なお宿の経営……すなわち、兄花島の花街化です。
 花街って何の事か分からない子いたら、帰ってからお父さんに聞いてねー。帰ってからよ、帰ってから!



 さて、兄花島のお宿は、どこも大いに繁盛したそうですよ。
 当時の兄花島には、漁業で生計を立てる男が多くいましたが、
 当時の漁業はそれは過酷だったもので、仕事を終えて島に帰ってきた男達は、こぞってお宿に向かったそうです。

 お宿の方も、そのような精神的疲労を抱えたお客様を相手にするのですから、サービスには気を配りました。
 本来のお仕事の他にも、長い航海で汚れた服を洗濯したり、破れていれば繕ったり。
 他にも、お食事の用意をしたり、愚痴を聞いてくれたりと、それはもう妻のような仕事をこなしたそうです。
 その為に、お宿の女性達は『船後家』と呼ばれるようになりました。
 そこのお客様ー、ご想像の後家さんとはちょっと違いましたか? あははー、また怒られてますね。

 この船後家さん、多い時期では百名以上在籍していたそうです。
 船後家さんの多くは、口減らしの為に売られたり、戦争で孤児となった子供です。
 あとは、こういうお仕事だからなんでしょうねえ。
 変化の術でお客様のご要望にお応えできる狐亜人等は、重宝がられていたそうですよ。

 そういうわけで、船後家さんの殆どは、望んで船後家になったわけではありませんでした。
 だというのに、心身共に過酷なお仕事です。特に心労は相当のものがあった事でしょう。
 当時は、島と島の間を結ぶ橋はなく、兄花島は孤島の監獄のようなものでしたので、そういう意味でも辛いお仕事でした。

 船後家さん達には、二つの気晴らしがありました。
 一つは、精霊への祈りです。
 精霊戦争が終結しかけていた事もあって、当時の人々は信心深かったそうです。
 船後家さん達もその例に漏れず、休日には連れ添って海岸に出かけ、
 このフタナノ海のどこかにいる精霊に祈りを捧げたそうです。
 おそらくは、皆、自由を祈り願ったのでしょうね。
 一応、一定額を稼げば自由の身になれたそうですが、自由になれた者はそう多くないと聞きます。

 そして、もう一つがこの竜伐祭。
 竜伐祭は内乱時代よりも昔から行われていたお祭りで、当時ももちろん開かれていました。
 このお祭りの費用ですが……実は、彼女達が勤めるお宿が殆ど提供していたそうですよ。
 その様なわけで、島民達は船後家さんには頭が上がりませんでした。
 竜伐祭の日は、船後家さん達も仕事はお休みです。
 なんせ、彼女達がこのお祭りのスポンサーのようなものですからね。
 皆、この日は自分の為に自分を着飾り、お祭りを大いに楽しんだそうです。
 そんな、一夜限りのうたかたの夢の翌日には、また船後家としての日々が待ち受けていたわけです。



 あはは、なんだかしんみりしちゃうお話ですよねえ。
 ええ、これは実話ですから、ハッピーエンドにしたくても、出来ないんですよ。
 ……では、何故このようなお話をしたのか。
 はい、そこの船後家父さん、答えて下さい!
 ……ふむふむ。『海桶屋の宣伝の為』……あっ、それいい!
 もうそれ正解と言いたい!! 言いたいのですが……一応、はずれです。
 ううん、でも一部正解と言えるかな? 正解は『私達の兄花島の事を知って頂きたいから』です。

 兄花島は、今ではヒノモトの古い町並みくらいしか見るべき所のない、閑静な島です。
 でも、その古い町並みには、何百年もの歴史が篭っています。
 船後家さんと精霊歌の話以外にも、多くの民話が伝わっています。
 その一部を、皆様に知って頂きたかったのです。

 今日お話した事や、竜伐祭というお祭りそのもの。
 それらをきっかけに、皆様に少しでも兄花島を好きになってもらい、
 また兄花島に来て頂き……そして、あわよくば、私が勤める海桶屋に泊まって頂ければな、と!
 あはは、ありがとうございます。熱い拍手、ありがとうございますー!

 ……実は、私も元々この島の者ではないのですよ。
 数年前、この島にふらりと立ち寄ったその日が、竜伐祭の日だったんです。
 その日も、お祭りがもう楽しくて楽しくて!
 ステージイベントに飛び入り参加して歌い踊ったり、もうパパラパッパラ、大フィーバーだったんですよ!

 ところが、はしゃぎ過ぎたのがいけませんでした。お財布、落としちゃいまして。
 飢えに飢えてしまった所、島の人々がご飯を食べさせてくれたり、お宿に泊めてくれたり、一緒に財布を探してくれたり。
 ちなみに、結局財布は見つかりませんでした。もしかしたら皆様のお足元に落ちているかも?
 とまあ、そのようなわけで、島の人々の暖かさに触れて、いつの間にかこの島に居つくようになったんです。
 
 ……あはは、ごめんなさい。最後のお話はちょっと蛇足気味でしたね!
 さてさて、皆様お待ちかねの、ナポリ・フィアンマによる精霊歌!!
 それを始める前に……ええと……むう……えっ?
 あ、もういい? もういいの? 本当に?
 ……あ、ごめんなさい、こっちの事です。こっちの事。

 大変長らくお待たせしました! いよいよ精霊歌のお時間です。
 ロビンの大人気精霊歌歌手、ナポリさんにご入場して頂きましょう!
 皆様、盛大な拍手でお迎え下さいー!」










 燦燦さんぽ日和

 第十五話/祭りの終わりに……










 前もって拍手を頼む必要はなかった。
 センダンと入れ違いでステージ裏からナポリが登場すると、観衆は拍手と歓声を持ってナポリを迎え入れた。
 その歓迎も、ナポリにとっては日常的なものなのだろう。
 彼は歓迎に臆する事無く、観客席を見回しながら、ゆるやかな動きで観衆に手を振ってみせる。
 その動きの最中に、ステージ照明がナポリの歯に当たった。
 ステージ前列に、お約束の輝きが生まれる。

「キャーッ!!」
「ナポリー! ナポリ様ー!!」

 最前列に陣取った女性の観衆の声は凄まじかった。
 ナポリはその歓声に目礼で軽く答えたが、それ以上何かをしようとはしなかった。
 ナポリの反応が薄い事に、静まるのを待っているのだと悟った観衆から順に口をつぐむ。
 沈黙とは不思議なもので、あれだけの歓声が上がっていたのに、静けさは瞬く間に伝染する。
 最前列の女性観衆が最後に静まった所で、ナポリは遠くまでよく通る声で喋りだした。





「やあ皆、こんばんは。今日は良い天気だね。
 星もマナも綺麗だ。精霊に歌を捧げるにはもってこいの日だね」

 その言葉を受けて、多くの観衆が空を見上げる。
 土地柄、兄花島で観測できるマナの多くは、水のマナである。
 ナポリが言う通り、空には星とマナを遮るものが何もなく、綺麗な光が散らばっていた。
 星の白く明るい光と、水のマナの青白く幻想的な輝き。
 観衆達は、暫しそれらの輝きに目を奪われた。


「……さて。歌の前に、一つ話をしよう」
 ナポリが言葉を続けた。
 また観衆がナポリに視線を向ける。

「皆も知っての通り、精霊歌に楽隊の存在は欠かせないものだ。
 楽隊の楽器に篭ったマナの力で、精霊により強く精霊歌を捧げる事ができるからね。
 ……ところで、皆に、この場を借りて謝らなくてはならない事がある。
 今日、ちょっとしたハプニングが起こったんだ。
 その大事な楽隊のうち、コルネットの担当が、急病で今日はどうしても来る事ができなかった」

 その言葉に、客席が少々ざわついた。
 ナポリが入場した時とは異なる、困惑のざわつきである。
 そのざわつきが止むのを待たず、ナポリはなおも喋り続ける。



「……精霊歌歌手は、皆の応援のお陰で成り立っている職業だ。
 皆の為に、そしてもちろん歌を捧げる精霊の為に、私達は歌っている。
 今日は、それに加えて、ある二人の為に歌いたいと思っていたんだ。
 今日、この場に僕を招いてくれた二人の友人の為に。
 だというのに、万全の歌を捧げる事ができないのは、この上なく申し訳がない」

 ナポリの表情に、微かに悲哀の色が篭る。
 観客席からは、ナポリを励ます声が幾つか飛んだ。

「ありがとう、皆。
 ……私はステージが始まるまでの間、精霊に祈ったよ。
 精霊よ、私は大切な人々がいるのだ。
 まずは何よりも、大いなる精霊。
 そしてファン、家族……更には友人達。
 貴方も含まれているのに、貴方に頼むというのも妙な話だが、
 この窮地を救ってはくれないだろうか……とね。
 するとね。私には聞こえたんだよ。精霊の返事が。
 精霊はこう言ったのだ……」


 大方の者は、最後の一言が作り話だと分かる。
 精霊とコミュニケーションを取れた者は、まだいないのである。
 だというのに、あえてナポリがそういう事を言う事には、何か意味があるのだろう。

 観衆は、再び静まり返った。

 その先に続くナポリの真意を聞き逃すまいと、口を開かずにじっとナポリを見つめる。
 口や視線だけではなく、凍ってしまったかのように身動きをせず、ナポリに意識を集める。
 だが、ナポリはすぐには言葉を続けない。
 その静けさに耐え切れなくなったのだろう。
 観客席から、ぼそりと『なんと?』という言葉が聞こえた。





「か弱き子よ、愛し合いなさい」





 ナポリが、ようやく口を開く。
 心臓を直接震動させるような美しい声。
 その声を受けた観客席が、一瞬で沸騰した。
 喜びや笑いといった、様々な肯定的感情の混じった声が飛び交った。

 ナポリの一言は、ただの言葉ではなく、歌声だったのである。
 彼が得意とする曲の歌い出しだったのである。
 つまり、事前のトークは、この歌い出しの為の演出だった。

 だが、一つだけ問題がある。
 この歌の前半は、精霊と人間との対話で作られたデュエット曲だった。
 だというのに、ステージに立っているのはナポリ一人だけだ。





「か弱きからこそ、愛し合い、歩まなくてはならない」

「精霊よ、仰せの通りに」





 ナポリがさらに、精霊パートの続きを歌う。
 人間パートまで来た所で、間を作る事なく、続きの歌声が観客席から洩れた。
 歌声の主は、サヨコであった。
 顔を真っ赤にしながらも、はっきりとした声でサヨコは歌った。
 予想外のその合いの手に、観衆はまた湧き上がる。
 拍手をする者さえもいた。





「か弱き子よ、マナと共にありなさい。
 か弱きからこそ、マナは、あなた達の力となる」

「「精霊よ、仰せの通りに」」





 また、サヨコが続きを歌う。
 今度は、サヨコだけの声ではなかった。
 近くに座っていたカナも続きを歌っていた。
 面識はない二人だったが、互いに顔を見合わせる。
 カナが先にニヤリと口の端を上げて見せ、サヨコも首を傾けながら微笑んだ。





「人よ、生ある限り愛し合おう!」




 歌はサビに入る。
 一人、そして二人がナポリ続けば、もう観衆を遮るものはない。
 ナポリ、サヨコ、カナ、その他にも多くの観衆が声を揃えてサビを歌い出す。
 大人も、子供も、男も、女も、島の者も、島外の者も。
 皆、隣の知らぬ人々と笑い合いながら、共に歌う喜びを顔に出す。
 観客席は、文字通りのお祭り騒ぎの歌声で溢れかえった。




「私はここに誓おう!」
「隣人に、そして自然に奉げる!」
「私の愛を!」
「生ある限り捧げ続ける!」

「だから歌おう……!」





 ナポリが一番の最後の一節を歌った。
 それと同時に、ナポリの後方から楽隊が現れる。

 フルート。
 クラリネット。
 トロンボーン。
 ホルン。
 スネアドラム。
 そして……コルネットを手にしたナナ。

 一人だけ、楽隊の衣装を纏っていない者がいる楽隊。
 いびつではあるが、だからこそ観衆は、状況を察した。
 欠員は、なんとか埋められたのである。
 地鳴りのような拍手が、観客席から巻き起こった。





「か弱き子よ、争いを止めなさい。
 か弱きからこそ、競わず、力を合わせなくてはならない」

「精霊よ、仰せの通りに」

「か弱き子よ、マナを大切になさい。
 か弱きからこそ、マナを、貴方達の為に作ろう」

「精霊よ、仰せの通りに」

「私はここに誓おう!」

「隣人に、そして自然に奉げる!」

「私の愛を!」

「生ある限り捧げ続ける!」



「だから歌おう!!」





 ナポリが歌う。

 観客達も歌う。

 割れんばかりの手拍子が生まれる。

 そして、楽隊が音を奏でる。

 会場が一体となり、精霊への祈りと感謝を綴る。
 意図せずして巨大な塊となった歌声の刺激は、相当強かったのだろう。
 いつしか夜空には、まるで帯のようなおびただしいマナが輝いていた。
 それは、人々の笑顔がそのまま光となったような、暖かく幸福な輝きだった。
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