燦燦さんぽ日和

加藤泰幸

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竜伐祭編

第八話/西部地区さんぽ(前編)

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 この日のロビン中央広場の活気は、ちょっとしたものであった。


 ロビン中央広場は、ロビンの都においても人口密度が高いエリアである。
 それは、都市の主な通りに隣接している立地が理由となっている。
 すなわち、中央広場にいる者は、通行を目的としている事が多い。

 だが、この日は違う。
 この日の中央広場の一角には、半径五メートル程の仮設ステージが設けられていた。
 中央広場では、頻繁にステージイベントが開かれている。
 この日はそのイベント……とある歌手のライブの為、歩行者ではなく観衆が押しかけているのである。
 ライブの開始時刻が近づいており、ステージ上には吹奏楽器を手にした楽隊が待機している。
 あとは歌手の登場を待つだけで、ステージを半円状に囲んだ観衆は大いにざわついている。
 そして、その観衆の中には、ヒロとセンダンの姿があった。





「こんなに観客がいるとは思わなかったわ。さすがだわあ……」
 センダンが、独り言とも、隣のヒロに声を掛けているとも取れる調子で呟く。
 観衆の密集具合は相当なもので、肩肘を回せば隣の観衆に触れてしまいそうだ。
 背伸びもままならい状態で、少々の息苦しささえも感じるものである。
 そして、その密集具合はヒロの周りでも同様であった。

「ねえねえ、センダンさん、皆僕を怖がらないよ」
 ヒロがニコニコしながら言う。
 ヒロに限っては、その密集が逆に嬉しいようである。
「ま、これだけ混んでりゃね」
 一方のセンダンは気だるそうに肩を落とす。
 彼女は、観衆の密集よりも、密集具合を喜ぶヒロに呆れていた。

「僕の顔も少しは温和になったのかな」
「そんなわけないでしょ。皆気に留めてないんじゃないの?」
「そっか。ライブを待ち侘びているみたいだしね」
「そうそう。……ん、そろそろ時間かしら」
 センダンが、ステージの傍に設けられている時計を見る。
 釣られてヒロも時計を見ると、時刻は午後四時ちょうどを指していた。
 いつの間にやら、ライブの開催時刻である。





「やあやあ、皆、待たせてしまったね!」
 仮設ステージ裏から男性歌手が現れた。
 男性にしてはやや高く透き通った声の持ち主である。

 歌手の登場に合わせて、楽隊がなにやらアップテンポな曲を演奏し始めた。
 観衆も、盛大な拍手と歓声で男性歌手を迎える。
 ステージ周辺のボルテージが、急激に強まった。

 だが、男性歌手の声は、その活気の中にあって、よく通った。
 その男性歌手……ナポリ・フィアンマの人気の理由が、ルックスに限らない事を証明する、良い声だった。



「ナポリさーん!」
「待ってました!」
「ナポリー!!」
「新曲、早く聞かせてー!!」

 観衆達が思い思いの歓声を飛ばす。
 観衆の男女比率は3:7で女性という所だが、男性の歓声も女性に負けず劣らず聞こえてきた。
 ナポリも、観衆を見渡しながら、笑顔で手を振ってその声に応えている。
 海桶屋で見せた笑顔とは少し異なった、見る者を虜にしてしまうような、芸能人としての貫禄が備わった笑顔だった。


「やっぱりナポリさんの人気、凄いわね」
 大歓声に圧倒され、センダンが目をしばたたかせる。
「うん。これ程とは知らなかったよ……」
「人気歌手というのも納得だわ。あ、こっち見た!」

 センダンの言葉通り、ナポリは、ヒロらの方向に視線を向けていた。
 そのままヒロらの方を数秒眺めたナポリは、僅かに口の端を上げて、ウインクを飛ばした。
 この日、ヒロとセンダンがナポリの新曲発表ライブを聞きに来たのは、ナポリから直筆の招待状が届いた為である。
 その経緯を踏まえれば、そのウインクはヒロら二人に『よく来てくれた』という意を込めて送られた可能性が高い。
 だが、他の観衆は当然その様な経緯は知らない。





「キャーーーーッ!」
「ナポリさーーん!」
「ナポリ様ーー!!」

 もはや、悲鳴も同然の歓声である。
 自分にウインクが飛んできたと解釈した周囲の女性観客の湧き上がりには、凄まじいものがあった。





「お、おおう……」
「あはは……」
 思わず、乾いた笑いが零れる。
 圧倒されるしかない二人であった。










 燦燦さんぽ日和

 第八話/西部地区さんぽ










 ――ライブは三十分程で終了した。
 だが、その短時間のライブでも観衆は大いに湧き上がった。
 ライブの余韻に浸っていたのか、それとも何らかのサプライズを期待したのか、
 仮設ステージ周辺からは、なかなかひとけが引く気配がなかった。


「というわけで、待ち合わせは離れた場所にさせてもらったのだよ。すまないね」
「いえ、これくらいでしたら全然大丈夫ですよ」

 歩きながら頭を下げるナポリに、ヒロは手を横に振って答える。
 ヒロらに届いた招待状には、ライブ後の待ち合わせの場所として、中央広場西出入口が指定されていた。
 ライブが終わり次第待ち合わせ場所に向かい、それから三十分もしないうちに、ナポリは姿を現していた。



「……それにしても、それ、似合わないわ」
 センダンがナポリの顔を見上げながら言う。
「うん? それと言うと……」
「そのサングラスの事ですよ」
「ふむ、これの事か」
 ナポリが納得したように頷く。

 待ち合わせ場所に来た時のナポリは、変装と称してサングラスを掛けていた。
 丸型のグラスで、テンプルは野暮ったい太さである。
 長身で顔立ちが良いナポリには似合っておらず、どこか胡散臭ささえ醸し出してしまうサングラスだった。

「似合わないという事は、それだけ変装が上手くいっている、という事だよ」
「それは確かにそうなんですが」
 センダンが眉をひそめる。
 確かに、一見ではナポリだとは分からない。
 分からないのではあるが……



「ずばり、目立つ!!」
 ビシッと指を突きつけて言い放つ。
「むう……」
 ナポリは唸るだけである。
 この日の日差しはそれほど強くなく、太陽も間もなく沈み始める時刻とあって、
 彼らの歩いている通りには、他にサングラスを掛けているような者はいない。
 その上、掛けているサングラスが不似合いであれば、反論のしようがない点だった。

「ううん、そんなに目立つかな?」
 ヒロもナポリの顔を覗き込んで首を傾げる。
「目立つわよ。そもそもヒロ君と一緒に歩いてるんだから、目立つ×目立つで、目立つ目立つよ」
 わけの分からない計算式を口にする。
 だが、センダンの言葉通りである。
 変装したナポリと強面のヒロ、珍しい顔つきの二人が並んで歩くと、どこか異質な雰囲気が出来上がっていた。



「はいはい、どうせ僕は強面ですよだ……」
 ヒロは口を尖らせるが、反論はしない。
 センダンの指摘を否定しようとしてもヤブヘビである。
 その話題から逃れるように、周辺の風景を眺めた。

 ヒロ達の歩いている通りは、ロビンの西に位置する港方面に伸びる市場通りだ。
 市場の名に違わず、道の両面には露店が立ち並んでいて、少々狭い通りである。
 それぞれの店に並んでいる商品はバリエーション豊かではあったが、
 貿易船が運んでくる異国の衣服や装飾品、郊外の農村で収穫された食料品、
 それから、その食料品を用いた軽食の販売が目立っていた。

 旅行雑誌にも掲載される観光スポットで観光客は常時多いのだが、
 夕方のこの時刻になると、地元の者も夕食の買い出しに訪れる。
 ナポリのライブ会場程ではないにしても、大手を振って闊歩出来るような所ではない。
 だが、店員の客を呼ぶ声は力強く、声を掛けられる客もまた楽しそうに商品を眺めている。
 実にエネルギーに満ち溢れた通りなのである。





「やっぱりここは活気がありますね。懐かしいな」
 ヒロが目を細めながら言う。
「ヒロ君はここに来た事があるのかい?」
 とナポリ。

「学生の頃はロビンに住んでいたんです。西部地区には結構足を運んでたんですよ」
「ほう」
「食材が安いから、市場通りは学生にはありがたかったです。
 それに、地下の書店にもよく出かけていました」
「勤勉だったのだね」
「いえいえ、とんでもないです。買っていたのはマナの本ばかりでしたよ。
 確かに、学校ではマナを勉強していましたけれど、本は殆ど趣味目的で買っていました」
「では言い直そう。さすがはヒロ君だ。今日、こうして付き合って貰っている甲斐があるよ」
 ナポリは歯を見せて笑いかけ、言葉を続ける。



「手紙に書いていた事を、覚えているかね?」
「ええ。なんでも相談事があるそうですね」
「いやあ、相談という程大それた事ではないのだがね。マナ絡みでちょっとね」
「マナ絡みですか」
 ヒロの声が少し大きなものになる。
 その反応を予想していたのか、ナポリは苦笑を零した。

「やあやあ、さすがに食い付きが良い。
 実は、今日は母の誕生日なもので、プレゼントを贈ろうと思っているのだよ」
「それはおめでとうございます。プレゼントで僕に相談という事は……」
「うむ。マナをエネルギーにするキャンドルを送ろうと思っている。
 実はキャンドルは購入済みなのだよ。露店で良いデザインのアンティークを手に入れた」
 ナポリが手にしていた鞄を掲げた。
 そのキャンドルがここに入っている、という事らしい。

「ところが、キャンドルのエネルギーになる火のマナが切れてしまっていてね。
 かといって、デザインが気に入っているから、他のキャンドルを買い直すつもりもない」
「なるほど、そこで、火のマナを買いたいと?」
「察しが良いね。そういう事だ。
 私もマナに関する仕事をしているが、直接マナを買った経験はない。
 そんな私が買おうとしても、質が良くない物を買ってしまいそうでね」
「でしたら、お手伝いしても大丈夫なんですが……」
 ヒロの口調はどこか申し訳なさそうである。

「ご存知の通り、マナの仕入れや注入は基本的に業者がやるものです。
 僕も研究の一環で扱った事はありますが、所詮はアマチュアです。
 絶対に間違いを犯さないとは断言できませんが……」
「その時はその時だ。ヒロ君が責任を感じる事ではないよ」
「………」
「実は、今回手に入れたキャンドルは古すぎて、既にメーカーは潰れているんだ。
 なので、メーカーには頼めないのだよ。どうかね、引き受けてくれるだろうか?」
「……分かりました。お役に立てるよう頑張ります」
 はにかんで答える。
 こうして、マナの事で頼られるのは気分が良かった。
 予防線は張ったが、それはそれとして、絶対に良いマナを選んでみせようと、内心強く意気込む。





「ありがとう。……ところで、センダン君は?」
 ナポリがヒロの隣を見た。
 ヒロも首を回すと、そこを歩いていたはずのセンダンが見当たらない。

「あれ? さっきまで歩いていたはずなんですが……」
 慌てて周囲を見渡す。
 すると、その様子が何か品物を探しているように見えたのか、近くの露店の女性店員が近づいてきた。

「お兄さん、食べ物でも探しているのかい? だったらパンはどうだい?」
 恰幅の良い中年の女性店員である。
 相当使い込んでいるであろう撚れたエプロンを纏っていて、人の良さそうな笑顔を浮かべていた。
 初見でヒロを怖がらない辺りは、さすが接客業に従事する者である。

 女性店員は、二、三口で食べ切れそうな小さなパンが盛られた籠を手にしていた。
 それを『さあお食べ』と言わんばかりに、ヒロに突き出している。
 そろそろ夕食時という事もあって、パンの香ばしい香りの誘惑はなかなかに手ごわいものがあった。


(センダンさんとパン、本当にセンダンさんの方が大事かな……?)
 少し悩んでしまう。
 二つを天秤にかけてみたが、どうにもパンが重い。
 だが、ナポリに迷惑が掛かるという要素がセンダン側に加わる事で、天秤は一気に傾いた。





「ごめんなさい、ちょっと人を探しているだけで……」
「あらそうかい。残念だねえ」
「ふぉうよぉ。ふぉんなに美味ふいのに」

 女性店員の背後から、更に声が聞こえた。
 はっきりとしない発音。
 そして、聞き覚えのある声である。

「……なにやってるんですか、センダンさん」
 女性店員の背後にいたセンダンをジト目で見る。
 その言葉に振り返ったセンダンは、パンを頬張っている最中だった。

「ふぁい?」
「とりあえず食べてから話して下さい」
「むぐ、むぐぐ……ぷはっ! えへへ、だってお腹空いたんだもん」
 センダンが恥ずかしそうに笑う。
 やっぱり、この人は年下なのではなかろうかと思う瞬間である。



「財布はヒロ君に預けてたよね。とりあえず、お金出してー」
 あっけらかんとした物言いである。
「はいはい。いくら出せば良いんですか?」
「パン三つ分」
「三つも食べたんですか?」
「ううん。一つしか食べてないよ。ヒロ君とナポリさんの分も」
「いや、僕達は……」
「食べないの?」
 センダンが聞く。
 パンの香りは魅惑的だ。
 お腹も、空いている事は空いている。
 露店の棚に積まれたパンの山が、ほのかに赤みがかかった日差しによって、輝いているように見えた。



「むう……」
「ねえ、食べないの?」
 センダンがもう一度聞く。
「……食べます」
 陥落の瞬間である。

「やあやあ、良いじゃないか。私も一つ頂くよ。店員さん、三つ分の料金だ」
 ナポリもヒロに続いてそう言う。
 彼は、ヒロが財布を取り出すよりも先に、三人分の料金を女性店員に手渡してしまった。
「わ、悪いですよ、ナポリさん!」
 ヒロはナポリに駆け寄り、自分達の料金を渡そうとする。
 だが、ナポリは手のひらを縦に突き出してそれを制した。

「良いんだ。マナの目利きをしてもらうんだから、パンの一つや二つ、出させてくれ。
 今日は夕食も私が奢らせてもらうよ。港に良い店があってね」
「いや、さすがにそれは……」
「いいじゃないのヒロ君」
 なおも食い下がろうとするヒロに、センダンは明るく言ってのける。
 それから、彼女はぺこりとナポリに頭を下げた。



「ナポリさん、ありがとうございます。今日はごちそうになります」
「やあやあ、これくらい大した事はないさ」
 ナポリの歯が光る。
 ナイススマイル、ここに極まったりである。

「……すみません、ナポリさん」
 ヒロもナポリに一礼する。
「本当に構わないよ。それよりマナの件、宜しく頼むよ。
 この先のスラムで売っているんだ。
 買ったら、その足で港まで抜けて夕食にしよう」
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