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しおりを挟む「あ、そうそう。私、テレンスに会ったんだよ」
チョコレートサンデーをスプーンで掬いながらそう言ったパティーは隣のメラニーと「ねっ」と相槌を打った。
「へぇ~。どこで?」
ラナは自分でも興味があるのか無いのかわからないテンションで返事した。
「メラニーと学校の課題で使う洋服の生地とか装飾用のボタンなんか探しに問屋街に行って、その帰りに疲れたからどこかで休もうか、なんて話してたのよ。
そしたら男の子3人組に声掛けられて」
そこでパティーはもう一度メラニーを見て、二人はウンウンと頷き合った。
「『君達暇?一緒にお茶なんかどう?』って」
「なんか軽薄なカンジでした」
「え?その中にテレンスがいたの?」
パティーはウンウンと頷いた。
「多分、夏休みで実家に帰って来てたんじゃないかな。
そしたらさ、そのテレンスが私に、『君、可愛いね』って言ったのよ?」
「私には言わなかったわ」
メラニーは冗談っぽく頬をふくらませた。
「私、じーっとテレンスのこと見てやったけど、あの人ちっとも気づかないの。
まあ、最後に会ってから6年?7年?経ってるから仕方ないかもしれないけどね。
それで私言ってやったわ。
『そんな、お茶だなんて滅相もないわ。
私みたいに気持ち悪い顔をした人間が』
って」
パティーとメラニーは顔を見合わせてクスクス笑った。
「テレンスは何のことか分からなくてキョトンとしてたけど、私がじーっと見てたら気がついたみたいで急に焦りだして。
『なんか変な奴らだから、あっち行こうぜ』
って友達を連れて逃げるようにいなくなったの」
「ちょっと面白かったよね」
「うん。ちょっとスッとした」
『東部に彼女がいるくせに女の子を引っ掛けてるんだ。さすがテレンス』
つくづくユージンは誠意のある人で良かったな~とラナが考えていると、
「ラナさんはいいですよね」
とメラニーが言った。
「私も一度くらいは恋愛がしてみたいけど怖くって」
「私も」
とパティー。
「顔が変わってから男の子に好意を示されることがあるんだけど、きっと昔の顔を見たら逃げて行くんだろうなって」
「化け物が心から愛された時に魔法が解けて、美しい王子様に変わって・・・って御伽話があるじゃないですか?
あれって、やっぱり夢物語なんですよ。
どんな姿でも愛してくれる存在、というのを人は求めるけど、現実にはそんなものは無いに等しい」
「あれって、必ず王子だよね?野獣になったりカエルになったり。
醜い怪物の女はそもそも愛してもらえないから永遠に魔法が解けることは無いの」
二人は顔を見合わせて自虐的に笑うと、そもそも物語が成立しなーい!と声を揃えた。
「あれさ、逆は無いよね。
絶世の美女に一目惚れして愛し合って、
『残念~。本当は醜い化け物でした~!』
でも、そんなことは関係ない!私は永遠にあなた自身を愛します!
みたいなの」
「無い無い、夢、夢」
「なんかそれっぽいの読んだ覚えがあるんだけど、美女が化け物に変わると、『この化け物め!』
とか言われて剣で斬り殺されるのよね!バサッ!うっ!って」
「ひっど!」
「ヒドイよね~」
「そうなんですよね。
今の私を好きになってくれる人でも、きっと前の私と出会っていたら好きにはなってくれなかったんだろうな・・・って。
どうしても疑ってしまうんです」
そんなことないよ。
ラナは言いかけた言葉を飲み込んだ。
彼女達が受けてきた傷の深さは到底ラナには伺い知ることのできないものだったから。
「テレンスに一矢報いて良かったじゃん」
ラナは月並みな慰めの言葉の代わりにそう言った。
すると二人が、
「ユージンさんって素敵よね」
と口々にユージンを褒める。
「この人だったら、たとえラナが昔の私の顔をしていてもラナを愛するんだろうな、って信じられるもの」
「わかる、わかる」
「いや、まあ・・・」
ラナは恥ずかしくなって顔を赤くした。
「だからね、いつか私達にもユージンさんみたいな人が現れないかな~って、ね」
ね、とまた二人は顔を見合わせて言った。
仲が良くてちょと妬ける。
「前に東部で会った時に、ラナが『どんな見た目の私でも好き』みたいなこと言ってくれたじゃない?
すごく感動した。
そういうラナだからユージンさんに出会えたんだよね。
私達はまだ過去に捕らわれて精進がたりないから真実の愛には到達できないのよ」
「恨みつらみを捨て去らないとね」
二人は、また顔を見合わせてウンウンと言った。
「・・・・白状するけど、あれはユージンの言葉をパクったの。
お互い代筆して文通してたって話はしたよね?
ユージンが私だと思ってたメグって子は美少女だったの。ユージンはメグの想い人がテレンスと知りつつも写真のメグに恋心を抱きつつ手紙を書いてたわけよ。
だけど手紙を書いていた実物が私だと知った時、ユージンががっかりすると思いきや、
『どんな見た目でも中身は君が良い』って言ってくれて」
パティーとメラニーは頬を紅潮させてキラキラの目をラナに向けてきた。
「で、私も感動しちゃったもんだから、・・・パクっちゃった。
ゴメン」
「あ~。やっぱり素敵!」
パティーとメラニーはラナを置き去りにして盛り上がった。
「いーな、ユージンさん」
「どこかに落ちてないかなぁ?」
「あと2体ね」
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