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22 ラナとユージン美術館へ行く
しおりを挟むラナとユージンは州立美術館で開催中の〈ヴェートス芸術展〉~魂の炎~を見に来ていた。
展示品は主に壺や皿などの日用品や神像や祭具などであった。
ヴェートスの人々は芸術品をわざわざ作るということはしないが、日々の生活で使う食器や衣服に使う織物にも独特の色彩と紋様を施してあって、それがとてもエネルギッシュで魅力に溢れていた。
「むしろ生きることそのものが芸術って感じね」
「あのボウルで山羊のミルクなんか飲んだら美味いだろうな」
「ユージンは山羊のミルク飲んだことあるの?」
「無い」
「私、一度だけあるけど、無理だったわ」
そんな会話をしていると、
「あら、貴女も来てたのね」
という声がして、振り向くとガブリエラが立っていた。
いつも制服姿しか見たことがなかったが、流石はお嬢様。庶民は入れないようなお店で作っているのであろう上質な生地の服を着ていた。
ガブリエラはラナとその隣のユージンを見ると、
「ラナにボーイフレンドがいるなんて、ちっとも知らなかった」
と言った。
「ボーイフレンドだなんて、・・・友達だよ」
ラナは顔を赤くした。
「紹介していただけないのかしら?」
「あ、こちらユージン・タイラーさん。
こちらは同じカトレア学園に通うガブリエラ・ラウザーさんよ」
宜しく、と差し出されたガブリエラの手を握って、
「ユージン・タイラーです。ヨロシク」
と言うと、ガブリエラはユージンの手をぐっと掴んでじっと目を見つめた。
「あなた、良い目をしてるわ」
面食らったユージンは顔を赤くしてドギマギしている。
ガブリエラはラナに向き直って、
「ラナ。あなた良いの見つけたわね」
と掘り出し物でも見つけたように笑った。
「あ、そろそろ中庭で演奏会が始まるから行かない?」
ユージンが誘って、三人は移動した。
中庭には獣の皮を張ったテントが設営されていて、自由に中に入ることが出来た。
細密に織られた見事な絨毯が敷き詰められていて、見学者は靴を脱いで入った。
なんともいえない秘密基地感にワクワクして、
「ユージン、頑張って獲物取ってきてね?」
「任せとけ!デカイ鹿を仕留めてくるから」
とふざけていると、
「今夜はシチューかのぅ?楽しみじゃのぅ」
とガブリエラ婆さんも参加してきた。
すると太鼓の音が響いてテントの外が騒がしくなった。
三人が急いで靴を履いて出てみると、7人の民族衣装を着た男女が並んでいた。
「今からヴェートスの伝統音楽をいくつか演奏します。
最初の曲は『焰の舞』です。」
腹の底に響く太鼓のリズムが心地よく、不思議な音色の絃楽器と笛が耳慣れないが魅力的な旋律を奏でた。
曲が終わるとユージンが先陣を切って大きな拍手を捧げ、それに追随して周りの観客も拍手をした。
魂を揺さぶられるような音色に感動していたラナの隣で、ガブリエラが至って真面目な顔で、
「笛ラムネ持ってくれば良かった」
と言った。
ヴェートスの神々に捧げる演奏が数曲続いた後、
「この曲は簡単なくり返しが続きます。
是非みなさんも一緒に歌ってください」
そう紹介して始まった曲はサビのところで、
「風やわらかく~水きよく~光あふるる~フォアッフォアッ」
が何回も繰り返された。
最初にユージンが歌い出したが、ちょっと音程が外れている。
つづいてガブリエラも歌いだしたがビックリするくらい音痴なのに大きな声で歌っている。
「ほら!ラナも声だして!」
「う、うん」
ラナは仕方なく小さな声でボソボソ歌い始めた。
「もっと声だして!」
「もっと、もっと!」
ユージンもガブリエラもニコニコしながらラナを煽る。
演奏家の7人もニコニコして、楽器を弾きながら観客に混じって歌い出した。
他の観客も歌い出して、しまいには輪になって飛び跳ねながら歌った。
いつのまにかラナも大きな声で歌っていた。
ああ、楽しい!・・・私は本当は歌うのが大好きだったんだなぁ。
ラナは楽しくて、なんだか泣きそうになった。
「皆さんのお陰で、今日は楽しい演奏ができました。
続いては伝統舞踊団による演舞をお楽しみください」
ドヤドヤと若い男だけの一団が入場してきた。
民族衣装を身に着けているのだが、さっきの演奏家のとはまた違っていてシルエットがシャープである。
ドンドコドンドコ太鼓が響き渡ってハッ!ハッ!と声を出しながら男達が踊る。
なにかの武術と舞踊を混ぜたような独特の型がピシピシとカッコよく決まって目が離せない。
演技が終わっても高揚した観客の気分は醒めやらず、皆は惜しみない拍手を贈った。
退場しようとする一団の、特に目を引いていたカッコ良い彼にユージンが声を掛けた。
「オイ!コルム!」
呼ばれた彼は驚いて振り向くとユージンを認めて笑顔になった。
「なんでオマエこっちにいるの?」
「弁論大会でテリーについて来たんだ」
「オマエは?」
「バイト。タダで東部見物できるし」
そんな二人のやり取りをガブリエラは呆然と立ち尽くして見ていた。
そして呟くようにラナに言った。
「私、恋しちゃった!」
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