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しおりを挟むもうちょっとマシな名前は無かったのか、と聞きたくなるのだが新劇団名は〝烏合の衆〟と決まった。
そして映えある第一回目の公演が行われた。
ユリアヌスが買い占めたチケットを無料で配ったため、なんとか空席が目立たないくらいの観客を動員することはできた。
場末の飲み屋街のオッチャンたちは嘗てのストリップ小屋のつもりでラピスたちの学芸会並の芝居に、
「よっ!ねーちゃん脱げよ!」
と下品なヤジを飛ばし、
その度にユリアヌスが、
「全員の住所と名前を記録しておけ!」
とヨハネスに命令し、ヨハネスが暴君かよ?と鼻で笑った。
ラピスの演技は相変わらずの大根だったが、舞台に立てる喜びに満ち溢れた彼女の笑顔にユリアヌスは思わず涙した。
インサニアのダンスはオッチャン達を魅了し、ルカスの色気にオバチャン達はノックダウンされた。
そうして場が温まったところにリベルが登場した。
「なんかガキが出てきたな」
興味無さそうにざわついた観客席が一瞬で水を打ったように静かになった。
素晴らしい歌声が響き渡り、クソガキから放たれる天使の歌声が今まで碌な行き方をして来なかった荒みきった中年男達の胸に祈りのように染み渡った。
ヒゲ面の男達も一癖も二癖もありそうな厚化粧の女達も、皆放心したように涙を流した。
ユリアヌスでさえ本来の目的を忘れてリベルの歌声に心酔した。
素晴らしい歌声の歌手がいる。
評判が評判を呼び、連日劇場は満員になった。
ラピス達はすっかりリベルの前座となったが、ラピスはそんなことは全く気にしていなかった。
どんな舞台でも立ってお芝居ができればラピスは満足だったからだ。
ある日良い身なりをした男が劇場に訪れた。
リベルを引き抜きに来た国立芸術劇場のマネージャーだった。
「すごいチャンスじゃないの!!」
ラピスは我事のように喜んだが、リベルの顔は暗い。
「私はココで良いよ」
「でも、国立芸術劇場だったらもっと沢山の人達にリベルの歌を聴いてもらえるわよ?」
「嫌だって言ってるじゃん!!」
リベルはイライラしたようにラピスを怒鳴りつけた。
「・・・まあ、急に言われても困るわよね」
そうリベルを宥めたラピスはマネージャーに向き直って、
「田舎から出てきたばかりの子なんです。
急に大きい舞台に、と言われても怖いのかも知れませんわ」
もう少し時間を掛けてリベルにとって良い方向でお話できたら、とすまなさそうにした。
「怖くなんかないよ!」
リベルがラピスを睨みつけた。
「勝手に決めんな!私はアンタみたいに高い服着て偉そうにしてる奴らが嫌いなんだよ!!
アンタ達のお高く留まった芸術なんてどうだっていいんだよ!!
アンタ達の腐れ耳にはどっかの高級な音楽学校でも出たヘッタクソの歌がお似合いさ。
お高く泊まった奴等同士で高級な芸術の話でもしてなよ。ハハハ…。
鶏を絞めたような声に高いチケット代払って喜んでな!」
それだけ言うとリベルは椅子を蹴飛ばして部屋を出ていった。
「教育を受ける機会に恵まれなかった子なんです。
どうか失礼はご容赦くださってお怒りを鎮めてくださいますように」
ラピスが詫びるとマネージャーは、
「気にしてませんよ」
と軽く笑った。
「でも、簡単に諦めるわけにはいかない素晴らしい歌声ですね」
「・・・あの、・・・お詫びに、と言ってはなんですが、私ではどうでしょうか?
私、いつか国立芸術劇場の舞台に立つのが夢、なんです。
・・・どんな端役でもいいんですけどね・・・・」
「・・・冗談でしょ?」
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