101回目の婚約破棄

猫枕

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 ユリアヌスがヨハネスを従えて万屋への道をいそいそと歩いていると路地の向こうにラピス(ラエティティア)とカロリン、それに何故か若い男の三人組がいるのを見つけた。

「若、あれルカスじゃないですか?」

「ルカス?」

「ほら、学園で同学年だったじゃないですか。
 カロン子爵家を勘当された放蕩息子」

「ああ、あの全学年の女子に崇め奉られ、全学年の男達から呪われたという伝説のイケメン。
 
 そいつがどうしてラピスと?」

「口説かれてたりして?」

 ナニ?!とユリアヌスは走り出した。

「はぁ、はぁ、ラピスさん、こんにちは!」

 息を切らしてユリアヌスが駆け寄る。

「あら、そんなに慌ててどうしたんですか?タワシさん」

『そんな名前じゃねぇ~!』

「偶然ですね。今日はお店はどうされたのですか?」

「今日はお休みなんですよ」

「へ・・・へぇ・・・ぐ、偶然だなあ、私も仕事休みなんですよ。
・・・で、そちらの方は?」

 ユリアヌスはあわよくばお茶にでも誘おうと話の有利な展開に思いをめぐらす。


「気の毒な方なんですの。
 3日前に路地裏で倒れているところをカロリンが見つけて家に連れて来たんです」

「?!と、言いますと?お三方は一緒に寝泊まりをされているということですか?!」

「はい。怪我をなされていましたし、所持金は全て暴漢に取られてしまったそうなんです」

「そ、それは気の毒なことですが、流石に独身の女性二人のところに男が転がり込むのはどうなんだろ~な~。感心しないな~。やっぱ良くないな~」

 そこでルカスはユリアヌスの顔を見た。

「あれ?ユリ・・・でん・・モゴモゴ」

 ユリアヌスがルカスの口を塞いで、

「バラしたら殺す!」

 と耳元で囁いた。

「で、お三方は今からどちらへ?」

 ヨハネスが聞くと、

「オットーさんに会わせようと思ったんです。
 あ、オットーさんというのは私が所属している劇団の方なんですけど」

 ラピスは、私が所属している劇団、のところを強調して言った。

「そうそう、タワシさんに教えて頂いたオーディションに私、受かったんです。
 その節はありがとうございました」

「えっと、それで何故彼をオットー氏に?」

 放っとくとどんどん話が反れていくラピスに軌道修正をかけるユリアヌス。


 「彼、何か恩返しがしたいって仰るんですけど、なんでも組織に狙われていて普通の仕事には就けないんですって」

 ラピスは〈組織〉のところから急に声を潜めたが、反して目は輝きを増していた。

「でも、この美貌でしょ?役者なら十分やっていけるじゃないかと思って。
 人気出そうじゃないですか?」

『組織ってなんだよ、組織って。
 どうせ手八丁口八丁で詐欺まがいなことして借金踏み倒してチンピラから逃げてんだろ?

 それかヤバい女に手を出してボコられたか。

 普通の仕事はできないって、働きたくないだけだろ?』

「へえ?演劇には私も興味がありますのでご一緒してもいいですか?」

 ユリアヌスが言うと、

「その前に腹が減ったなー」

 とルカスがユリアヌスにニヤけた顔を向ける。

『オマエ私の弱みを握ったとか思ってんじゃねーぞ』

「・・・じゃあ、皆で何か食べに行こうか。私がご馳走するよ」

 内心はムカムカしながらユリアヌスが皆を誘う。

「そんなご負担はかけられませんわ」

「い・・・いや、いいんだ。
 丁度、臨時ボーナスが出たところだから」

 本当はラピスと二人きりで行きたいんだけれど。

「いーなー私も欲しいなー臨時ボーナス」
 
 とヨハネスが耳元で囁く。

 わかったから黙れとユリアヌスが小声で言って、一同は女の子が好きそうな小洒落た食堂に行った。



「だからなんで私がヨハネスと隣同士なんだ?」

 苦々しい顔のユリアヌスとテーブルを挟んで向こう側では真ん中のルカスを挟んでラピスとカロリンが両側から甲斐甲斐しく世話を焼いている。
 

「ルカスさんって、こんな可愛らしいお店を知ってるんですねぇ?」

 カロリンの目がハートになっている。

「女の子を喜ばせる為には常に情報のアンテナを張っとく。
 これ男として常識」

「他人の金で飲み食いしときながら偉そうに」

 聞こえないように小さい声でブツブツ言うユリアヌスに面倒臭そうな一瞥を送ってヨハネスはメニューに目を落として言った。

「追加でプリンとか食べちゃおっかなー」


「右手がまだ良く動かせないんだよね」

 ルカスが色っぽい流し目で言うと、

「私が切って差し上げますね」

 とローストチキンをラピスが一口サイズに切り分ける。

「あ~ん」

 ルカスが口を開けると、

「もう、甘えん坊さん」

 とラピスがフォークを口元に持っていく。
 そしてカロリンがナプキンでルカスの口元を拭う。

 「て・・・手が不自由なら、片手で食べられるサンドイッチなどを頼めば良かろう」

 あからまさに不機嫌なユリアヌスの声に、ルカスはニヤニヤ笑って、

「このチキン美味しいですよ。
 一口いかがです?」

 と言ってラピスに目で促した。

 ラピスは一切れフォークに刺すとユリアヌスに、あ~ん、と差し出した。

 生まれてこの方、こんなに行儀の悪いことなどしたことはなかった。

 しかし、これほどまでの誘惑に抗う術が私にあるだろうか?いや、無い。

 あ~ん。パクリ。

「美味しいですか?」

 小首をかしげるラピスにユリアヌスは首まで真っ赤になる。

 ユリアヌスがうんうんと首を上下にブンブン振ると、

「私のラザニアも美味しいですよ」

 とフォークに乗せて差し出してきた。

 ユリアヌスは震える唇を必死で抑えながらパクリ。

「い・・・今までで食べた何よりも美味いな」

 ラピスがニッコリ微笑んだ。

「若、鼻血出てますよ」

 ヨハネスが囁くとユリアヌスは急いでナプキンを鼻に当てた。

「嘘ですよ」

ユリアヌスはテーブルの下でヨハネスの脛を蹴った。

 



 そうやってお昼を済ませてから一行は劇場に行った。

 今日は夕方から稽古があるのでコッパーも来ていた。

「ああ!旦那様、その節はどうも」

 オットーはヨハネスを見るなり大きな声で握手を求めてきた。

「困るよ、劇場を買ったことは内緒なんだから」

 ヨハネスが小声で言うと、そうだった、そうだった、とオットーは頭を掻いた。


「あの、今日は新しい劇団員に推薦したい人を連れてきたんですけど」

 ラピスがルカスを紹介するとオットーとコッパーは、

「これだけの男前ならたとえ大根でも立たせとくだけで女性客が増えるだろう」

 と喜んだ。

「そっちの兄ちゃんは?」

 オットーはユリアヌスを指さした。

「いえ、私はただの付き添いです」

「そうかあ?売れっ子になれそうだけどな」

「王子様の役なんかピッタリだと思うけどな」

 コッパーも一緒になって言っている。

「王子様がピッタリですってよ」

 耳元でニヤニヤと囁くヨハネスの靴を踏みつけるユリアヌス。

「ところでこの劇団って何て名前?」

 ルカスがオットーに訊いた。

 そういえばラピスも劇団名を聞かされていなかったことを思い出す。


「・・・・えっとぉ。
 
 ブラック・ピーチ・エンジェル」

 オットーはストリップ小屋時代の店名を答えた。





◇◇◇◇◇

初めてファンタジー(?)を書いてみました。
 ショートショートなんで、良かったら読んでみてください。

 
 










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