101回目の婚約破棄

猫枕

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 万屋、とでもいうのだろうか。
 ラピスとカロリナが働き始めたのは日用品とかちょっとした食料品や簡単な衣服、履き物なんかも取り扱う店であった。

 ラピスは自分の力で採用されたと思っているが、裏取引をして姉のことをよろしくお願いしていたのは弟エンリクスであった。
 カロリナを見張り役にすること、何かしでかしたら侯爵家が責任を持って尻拭いすることなどが予め取り決められていた。

 当初は余計なことばかりして迷惑な存在だったラピスだが、持ち前の明るさで今ではすっかり看板娘である。

 店の主力商品は掃除道具やら鍋釜類だったりするので、客は圧倒的に主婦層なのだが、その中で毎日のように来店する若者二名がいる。

 庶民を装ったユリアヌスと従者のヨハネスだ。

 ほぼ毎日来ているのにラピスがユリアヌスの正体に気づいている様子はない。

「いらっしゃいませ!今日も亀の子タワシですか?」

 「あ、・・・いや・・」

 ユリアヌスは幼馴染でもある従者ヨハネスに入れ知恵をされて、今日はバレンタインデーのお返しにかこつけてデートに誘うつもりで来たのだが、早速出鼻を挫かれてしまった。

「リボン付けてみたんですよ~」

 可愛いでしょ?とピンクのリボンを巻いた亀の子タワシをグイグイ推してくる。

「は、はは、・・可愛いですね」

「こっちはお目々をつけてみました~!ハリネズミみたいで可愛いでしょ?」

「・・・可愛いですね」

「どっちにします?」

「・・・両方、貰おっかな・・・」


「お客さんタワシコレクターなんですよね?」

 
そんなの聞いたことないわい!


危うく支払いを済ませてそのまま帰りそうになるところをヨハネスに止められる。

そうだった、そうだった。


「あの・・・。    これを君に」

 ユリアヌスは封筒からチケットを取り出しラピスの前に差し出す。

「え?これ、『囚われの王女』のチケット!!」

「良かったら一緒に・・」 

「ええー!!これのチケット代、私の1ヶ月分のお給料するんですよ!」

「良かったら一緒に・・」

「どうして?どうして?こんな高額なチケットを手に入れられたんですの?」


「あ、ああ・・・知り合いが王立歌劇場で働いてて・・・」

「・・・でも私にはとてもチケット代をお支払することはできませんわ」

 ションボリするラピスにユリアヌスは笑った。

「差し上げますよ。今日はホワイトデーですから」

 「ホワイトデー?」

「バレンタインデーにチョコレートをくださったお返しですよ」

「バレンタインデー?私、何か差し上げましたっけ?」

 ユリアヌスはガックリして気が遠くなりそうだった。

「え、あ、・・・・あの・・・いつもタワシのことで相談に乗ってもらってるから」

「お客様には誠実に対応させていただく。
 それが私のモットーですから!」

 なに、その変なポーズ。

「あ、あの・・・そのチケットは貰ったものだから気にしないで」

「本当ですか?」

「で、良かったらご一緒・・・」

「えーっ!!2枚も!カロリナの分も用意してくださったんですね?!」 

「え?」

「あ、ありがとうございます!!
 ここだけの話なんですけど、私とカロリナは演劇の勉強をしてるんですよ!」

 そんなデカイ声では、ここだけの話が町内中に聞こえるよ。

「ありがとうございます!
 カロリナも喜びます!」

「あ、・・・ああ・・うん。楽しんで来て・・・」



 ヨハネスは肩をがっくり落とす主に憐れみの目を向けた。

 これが、あの周辺諸国との折衝で堂々と自分の意見を述べて有利な条約を勝ち取ってくる主なのだろうか?・・・情けない。


トボトボと城への道を歩く主に幼馴染として忠告する。


「若様・・・・脈無いって・・・諦めろって・・・」

「う・・・うるさいよ!」

 ユリアヌスの目にはうっすら涙がにじんでいた。





♪♪♪

 こっそりポツポツ更新していこうかな、と思っています。

 恋愛要素はあんまり無いと思いますが、それでもいい人だけ読んでくださると嬉しいです。









 
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