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しおりを挟む「無い無い無い無い無い!!
ここ、ここ、ここ、ここ、
ここにあったはずなのにぃ!!」
「どうしたんですか若様!!
しっかりしてください!!」
「私の!私の宝物が無くなった!」
「エエーッ!『王権神授の指輪』をなくされたのですか~?!
・・・ って、ユリアヌス様ちゃんと指に嵌まってますよ。やだなぁ」
「は?指輪?そんなもんはどうでもいいんだよ。
それよりココ、ペーパーウエイトの下にちゃんと挟んでおいた私の宝物が失くなったのだ!」
ユリアヌスはハアハアと荒い息づかいをしながら今にも倒れそうである。
掃除をしたメイドが呼ばれて青い顔で入室してきた。
『ユリアヌス様の宝物が失くなったって、私、疑われているの?』
「今日ユリアヌス様の部屋を掃除したのは君で間違いないか?」
侍従の問いに、ハイ、と俯くメイド。
「机の上から何か持っていかなかったか?」
「何も・・・」
「本当に?良く思い出してみて?」
侍従は優しい口調で訊いた。
「・・・紙屑を捨てただけですが・・」
「なんてことだ!!
ど、どこに捨てた?」
ユリアヌスが叫んだ。
「もう焼却炉で燃やしてしまいました」
「うぉーーー!」
ユリアヌスは床に膝をついて両手で顔を覆って叫んだ。
いつも優しく温厚なユリアヌスの豹変にメイドの顔は引き攣っている。
「・・・貴重な紙とか大事なメモとかじゃなかったか?」
「いえ、なにかの包み紙みたいなゴミでした」
「ゴミ?!ゴミだと?!
あの愛のチョコレートを包んでいた愛の天使の羽がゴミだと?!
私はツライ毎日を、こ~うやって愛の象徴を鼻に当ててスーハースーハー愛を吸い込むことで、どうにか乗り越えてきたというのに」
宝物の正体が何だか分かった侍従は、
「もう戻っていいよ。忙しいのに悪かったね」
とメイドにすまなさそうに言って、言われたメイドは本当に帰っていいのか戸惑いを表情に浮かべながらも
「失礼します」
といなくなった。
「若様、いい加減にしてください。
あれはラエティティア様がお勤めの万屋でバレンタインデーのサービスでお客さん達全員にお配りになったチョコレートじゃないですか」
「彼女が自らの手で直接私の手のひらに乗せてくれたのだ。
私に微笑みかけて」
「若様はご存知無いでしょうけど、あれは『チロリンチョコ』といって一個10ペクーニア(1ペクーニア≒1円)で売られている庶民の駄菓子です。
あと、ラエティティア様は『若様に』、ではなく『客全員に』等しく愛想を振り撒いておいででした」
「え?10ペクーニア?えもいわれぬ美味であったが。
勿体無いからずっと保存しておこうかとも思ったのだが、食べずにダメになるのも惜しいからちょっとずつ齧って3日かけて食したのだよ。
チョコが無くなってしまった時の喪失感ったらなかった。
それからは愛の残り香だけを生きる支えにしてきたのに・・・ 」
「・・・もうラエティティア様のことはご縁が無かったと諦めた方が宜しいんではありませんか?」
「なぜ一番の腹心のお前がそんなことを言うのだ?
私の気持ちは良く分かっているだろう?」
「・・・ご聡明な若様がラエティティア様のこととなると判断がおかしくなるようで心配です。
先日のお茶会もラエティティア様がご欠席と分かった途端に取り止めようとしたり」
「結局ちゃんと開いたのだから文句ないだろう?」
「若様が未来の伴侶となる女性を探す為の会だという噂が回っていましたからね、どのご令嬢も気合いが入ってましたのに。
若様ときたら通りいっぺんの挨拶しかなさらない」
「気持ちが無いのに妙な期待を持たせるだけ不誠実ではないのか?」
「・・・まあ、そうですけど。
ですがラエティティア様のことは諦めた方が・・・若様は未来の王となるお方ですから・・」
「お前なら、お前なら分かってくれると思ったのに・・・。
ずっと重圧の中で何一つ自分の希望で動くことのできなかった私が、初めて、全てを捨ててでも欲しいと思った彼女なのに。
次の王の座はステファヌスに譲って王宮を去ってでも手に入れたいのは彼女だけなのに。
やはりお前も王にならない私の側にいても旨味が無いと思うのか?」
「そんなわけないだろう?」
侍従は急に幼馴染に戻って不敵に笑った。
「たとえお前が失脚して流刑地送りになったって一緒に行くと決めてるよ。
だけどさあ!
毎日のように万屋に通ってるけど、一向に意識してもらえないじゃないか!!
脈無しなんだよ。諦めろ。
お前、亀の子タワシ何個買うつもりなんだよ!
ゾロゾロゾロゾロ何十個も窓辺に並べて一個一個に名前つけてんじゃねえぞ、気色悪い」
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