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しおりを挟むまるで旅行にでも出掛けるかのようにウキウキと荷物をまとめるラエティティアを呆れた目で見ていたカロリナにドアの隙間から手招きする者がいる。
人差し指をシーっと口に当てているのはラエティティアの年子の弟エンリクスだ。
そっと部屋を出たカロリナがエンリクスの部屋に連れて行かれる。
「申し訳ないが姉さんについて行ってくれないか?」
「言われなくともそのつもりです」
すまなさそうな顔のエンリクスに神妙な顔で答えるカロリナ。
「ラエティティアお嬢様は私の恩人ですから」
ちょっと芝居がかったカロリナの言い回しに困ったように笑ったエンリクスが結構な額のお金が入った皮袋を預けてくる。
「姉さんはああいう人だから援助とハッキリ分かるものは受け取らないだろう。
あくまでも姉さんが自分の力でやっていく前提で、どうしようもない時だけこのお金でなんとかしてよ。
その辺は君が上手くやってくれ」
「分かりました」
「それと、西町区にあるドムスっていう貸家業にこれを渡せば部屋を紹介してもらえるはずだ」
そう言ってエンリクスは手紙をくれた。
「時々近況を知らせる手紙をくれ」
「わかりました」
ラエティティアの部屋に戻りながら、弟様は優秀なのになあ、とカロリナは軽くため息をついた。
「カロリナ。元気でね」
カロリナの両手をしっかと握ったラエティティアが涙を溜めた目でしっかりとカロリナを見つめる。
「ラエティティアお嬢様!
置いて行かないでくださいまし!
私はどこまでもラエティティアお嬢様についていきます!
たとえ地の果て、この世の果てまでも!」
「ああ・・・カロリナ!
私の半身!」
しっかと抱き合い涙にくれる二人をドアの隙間から覗き見ていたエンリクスは同じく様子を見に来た母親と無言で顔を見合わせて「こりゃだめだ~」と首を横に振った。
「ラピス・ルーチェンス。それが今日から私の名前よ。
輝く石。路傍に転がるつまらない石が光輝く様を見せてあげるわ!」
住み慣れた侯爵家の門を通る時、ラピスは立ち止まってそう言った。
「これから私達には幾多の困難が待ち受けていることでしょう。
寒さに凍えたり、一つのパンを分け合ったり・・・。
でも、大丈夫!私達には希望があるから!!」
希望どころかカロリナのバッグの中には一財産入っていた。
エンリクスに呼ばれた後ラエティティアの母親と父親に別々に呼び出されたカロリナは、
「ナイショだよ」
と言われて各々からお金を託された。
「貧乏に嫌気がさして戻って来るように。
かと言って困窮しすぎて犯罪に巻き込まれたりしないように。
ギリギリの線を攻めてくれ」
言い方は違えども3人とも言ってることは皆さん同じ。
そんなの無理だよ、と一瞬このお金全部持って逃げようかと思ったカロリナだったがすぐにそんな考えは打ち消した。
ラエティティア、もといラピスには一生尽くしても足りない恩を感じていたし、それよりなにより一緒にいた方が面白そうだったから。
意気揚々と旅立つ二人に背後から門番が声を掛けた。
「行ってらしゃいませ、お嬢様」
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