1 / 14
1
しおりを挟む「お前のような悪辣な女を愛することなどできるものか!
誰がこんな罪深い女と結婚なんかするものか!!
誰にも助けを求めることもできない孤独の中で、とくと己が罪と向き合うがよい!!」
「そ、そんな、どうかお慈悲を・・・。
私はアナタ無しでは生きていけない!
・・・私にはアナタが全てなのに・・・」
男は美しい女が自分の足元にひれ伏し涙を流しながら懇願する姿に満足したように冷ややかな笑みを浮かべた。
「今更どんなに後悔しようと遅い。
お前は一生私の幻影に追い縋って涙を流し続けるがよい。
早くこの者を牢に連行するのだ!」
男は泣き崩れる女を見下ろして満足気に冷たく言い放った。
「ハーイ!お疲れ様で~す!」
「いや~緊張したよ~。ちょっとセリフ間違えちゃった」
「いえいえ、とても初めてとは思えない素晴らしい演技力でしたよ」
「そうかい?
でも、主役になれるってのは気持ちの良いもんだね。
スカッとした~」
「はい。ではコチラにサインお願いします。料金は50000ペクーニアです」
「はい、これね。あと、これはチップ。皆でご飯でも食べて」
「ありがとうございます!」
「少々宣伝させていただいてもよろしいでしょうか?
ご好評いただいております『婚約破棄』に加えまして最近人気なのが『初恋の君との再会』と『幼馴染みにマウント取ったろ!』それに『契約結婚~君を愛することは無い~』です」
「へぇ~面白そうだね」
「あとご婦人に人気の『姑に一泡吹かせる』もございます」
「やめてよ~。絶対女房に勧めないでよ~」
「一応パンフレット差し上げますので、宜しかったらお友達にも宣伝してくださいね。
是非、またのご利用をお待ちしております」
「今日は楽しかったよ、ありがとう。
また、店の方にも寄らせてもらうから」
「ご利用ありがとうございました!」
先ほど婚約破棄された女の名前はラピス・ルーチェンス。もっとも本人が勝手にそう名乗っているだけでホントの名前はラエティティア・ラウィーニアという。
22才の元侯爵令嬢だが、勘当されて今は下町のボロアパートで暮らしている。
それが勘当された一因でもあるのだが演劇にのめり込んだラピスは貧乏劇団『烏合の衆』を主宰している。
いつか王立劇場の舞台を踏むのが彼女の夢だが、端的に言ってそんな未来は程遠い。
ラピスは公演の赤字を埋めるために劇団員たちと一緒に居酒屋バスラルをやっている。
それでもカツカツの現状はなかなか変えられず、新たな資金源を確保しようと始めたのが依頼者参加型の出張演劇、というわけだ。
「しっかし、なんでこう世の男どもは婚約破棄が好きなのかしら?
芝居とは分かっていても、こう何度もされると落ち込むわ~」
仕事終わりのアパートでラピスは部屋着に着替えながら同居人のカロリナに愚痴をこぼす。
「ラピス様、お金の為です」
「様はヤメテって言ってるでしょカロリナ」
カロリナはラピスの元メイドだ。
ラピスが家を追い出される時に当然の様についてきた21才で、現在は劇団員として主に娘役を担当している。
「え~と、正確に数えたわけではありませんが優に80回は超えていると思われます」
しっかり者のカロリナが手帳を広げて淡々と言う。
「一昨年から出張演劇始めてから、ほぼ毎週婚約破棄されてるもんね~。
今回なんて牢屋送りまでされちゃった~」
ラピスがハハハと笑う。
「今年中に100回の大台も夢じゃありませんね!」
「なんで嬉しそうなのよ」
「来週は初夜に『お前を愛することは無い』と言われて絶望する王妃様のオーダーが入ってます!」
「だから、なんで目が輝いてんのよ~」
「思い返せば幼少の頃から芝居に魅せられたお嬢様には無理矢理付き合わされて散々苦労させられましたから」
「そんなことないでしょ?」
「犬だの猫だのはマシな方で、意地悪な継母になってお嬢様を箒で叩けだの、煙突掃除屋になって高い所に登れだの、無理難題を押しつけられてきましたからねぇ」
「ハハハ・・・でも、カロリナだって楽しんでたでしょ?」
「たしかに。今じゃすっかり私も沼の住民ですわね」
二人は思い出話と将来の夢の話で盛り上がり、話疲れて幸福な顔で眠りについた。
14
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
カーテンコールは終わりましたので 〜舞台の上で輝く私はあなたの”元”婚約者。今更胸を高鳴らせても、もう終幕。私は女優として生きていく〜
しがわか
恋愛
大商会の娘シェリーは、王国第四王子と婚約をしていた。
しかし王子は貴族令嬢であるゼラに夢中で、シェリーはまともに話しかけることすらできない。
ある日、シェリーは王子とゼラがすでに爛れた関係であることを知る。
失意の中、向かったのは旅一座の公演だった。
そこで目にした演劇に心を動かされ、自分もそうなりたいと強く願っていく。
演劇団の主役である女神役の女性が失踪した時、シェリーの胸に火が着いた。
「私……やってみたい」
こうしてシェリーは主役として王子の前で女神役を演じることになる。
※お願い※
コンテスト用に書いた短編なのでこれはこれで完結していますが、需要がありそうなら連載させてください。
面白いと思って貰えたらお気に入りをして、ぜひ感想を教えて欲しいです。
ちなみに連載をするなら旅一座として旅先で公演する中で起こる出来事を書きます。
実はセイは…とか、商会の特殊性とか、ジャミルとの関係とか…書けたらいいなぁ。
サイキック・ガール!
スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』
そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。
どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない!
車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ!
※
無断転載転用禁止
Do not repost.
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる