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しおりを挟む「そういうところなんですよね」
そろそろ真面目に二人の関係について考えてよ、と言われたミリアムがダニエルに脱力気味に言う。
「なにが?」
「その失敗作ずっとつけてるじゃないですか」
ダニエルの胸にはミリアム作の下手くそブローチが光っている。
「いいじゃない。気に入ってるんだから」
「・・・ダニエル様ってやっぱり一軍というか私とは違う人種だなって」
「え?どういうこと?心外だな」
「・・・グリッターを揶揄う時とか、あ、やっぱりあっち側の人間だなって思っちゃうんですよ」
「君を馬鹿にするためにワザとこれを着けてると思ってるの?ダニエルたんショック」
「いや、そこまでは言いませんけど」
「ここまで追いかけてくるほど愛してるのに」
ダニエルはいつものようにヘラヘラしている。
「・・・どこまで本気なんだか・・・。
ダニエル様は社交界の綺羅星じゃないですか。
私だって正直ダニエル様にはかなり依存してると自覚してますよ。文通してた頃から。
だけど私なんかに本気なわけないじゃない、ってそう思うことで傷つかないようにしてるっていうか・・」
「なになに?ボクに捨てられちゃうのが怖い?」
ふざけた調子でそう言ったダニエルはミリアムの肩を抱いて頬ずりしてきた。そして唇をミリアムの耳にくっつけて
「そんなことしないよ」
と囁く。
一連の動作が流れるように自然でダニエルに一切の照れがないことがミリアムを不安にさせるのに。
ダニエルはミリアムをソファーに座らせて自分も隣に座るとミリアムの両肩を掴んで自分の方を向かせるとミリアムの両手を握った。そしてミリアムの目を真っ直ぐ見た。
「ボクはね、子爵家の三男といっても後妻の子なんだよね」
ダニエル様の本名はダニエル・エバンス。
エバンス家は子爵だが大変な財力を持った有力な家柄だ。
「ショーンは母の実家の名前なんだ。
上の兄とは10才、下の兄とは7才離れてるから小さい頃は相手にされてなかったんだけど」
ダニエルは続けた。
「6、7才になると後妻の子の方が優秀なんじゃないかって周りの大人が言い出して、その辺りから兄達の態度がおかしくなったんだよね。
それにボクの方が顔もいいから」
そうでしょうとも。
「あからさまに意地悪をされたりするようになったんだけど、兄達は母にも辛く当たるようになってね。
ボクは腹を見せて転がって、あなた達に敵意はありませんよ、って見せることで生き抜いてきたの。ヘラヘラ笑いながらね」
ミリアムは困ったような顔で微笑んでみせる。
「ボクが逃げ込めるのは本の中だけだった。
学校ではお祭り男だったし、家では無害な道化だったけど本当は根暗な男なんだよ」
「そんな風には見えませんが」
「それで推理小説書くようになって、いつの間にか持て囃されるようになって、皆を喜ばせようとサービスで社交的な男をやってたら引っ込みつかなくなった、っていうか、本来の自分がどんなだったか分かんなくなって」
「ああ、その感覚はなんとなく分かります」
「正直ボクってモテるんだけど、みんな本気じゃないっていうか。
継ぐ爵位もないからさ、連れ歩いて楽しく騒ぐ要員であって一緒に人生歩む相手じゃないの。
パーティーが終わった後の虚しさを抱えた毎日だったよ」
「そんなことは・・・」
「そんな時に君の小説を読んだんだ。
ああ、この人はボクだって思った。
ボクが周囲と折り合いをつける為に置き去りにしてきたもう一人のボクだって思った。
だからどうしても会わなきゃって思った。
しばらくは直接会えなかったけど、君の手紙はボクにとって何よりの慰めだったんだ」
「・・・私にとってもダニエル様との文通は唯一 素の自分でいられるかけがえのないものでした」
「手紙を読んでいるうちにどうしても会いたくなった。
やっと会えると思ったら偽者」
「・・・ごめんなさい。嫌われたくなくて」
「君が あんなつまんない女の子の筈がないのに。
ボクは見た目がどんな君でも君がいいんだ」
「じゃあ、どうしてパーティーであんな格好させたんですか?」
「君が外見にコンプレックスを持ってたから。
それにさ、君がナタリー・ロイドの娘で見た目がそっくりってのに驚いたよ。
ボクは昔からナタリー・ロイドのファンだからね。
君に自分が美しいって気付いて欲しかった。
結果として怒らせちゃったけど」
「ダニエル様は一時的な気まぐれじゃなくて真面目に私とパートナーの関係を築きたいと理解してもいいんですか?」
「君がいないとボクは欠けたままだ」
「・・・それって、結婚・・とか」
「ミリアム赤くなって可愛い。
ボクは結婚できたら嬉しいけど、ミリアムが結婚の形に縛られたくないならそれでもいいよ」
「婿養子になってくださるんですか?」
「君が望むなら」
「・・・私そっくりな女の子が生まれたらどうしようっていうのが昔からの悩みなんです」
「ミリアムそっくりの女の子なんて最高じゃない」
「絶対悩むもの。恨まれるもの」
「そう?でも、ボクもイケメンだし大丈夫じゃない?」
「ウチの父を以てしても全然薄まらなかったんですよ?!
ゴリ遺伝子ナメんなよ!」
ミリアムとダニエルは今後のことは王都に戻った後でミリアムの両親も交えて相談することにして、形はどうあれ一緒に生きていく約束をした。
そしてサガーノ島での任期が終わるまでは同僚として仕事を優先させることで決着した。
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