39 / 42
39
しおりを挟む「そういうところなんですよね」
そろそろ真面目に二人の関係について考えてよ、と言われたミリアムがダニエルに脱力気味に言う。
「なにが?」
「その失敗作ずっとつけてるじゃないですか」
ダニエルの胸にはミリアム作の下手くそブローチが光っている。
「いいじゃない。気に入ってるんだから」
「・・・ダニエル様ってやっぱり一軍というか私とは違う人種だなって」
「え?どういうこと?心外だな」
「・・・グリッターを揶揄う時とか、あ、やっぱりあっち側の人間だなって思っちゃうんですよ」
「君を馬鹿にするためにワザとこれを着けてると思ってるの?ダニエルたんショック」
「いや、そこまでは言いませんけど」
「ここまで追いかけてくるほど愛してるのに」
ダニエルはいつものようにヘラヘラしている。
「・・・どこまで本気なんだか・・・。
ダニエル様は社交界の綺羅星じゃないですか。
私だって正直ダニエル様にはかなり依存してると自覚してますよ。文通してた頃から。
だけど私なんかに本気なわけないじゃない、ってそう思うことで傷つかないようにしてるっていうか・・」
「なになに?ボクに捨てられちゃうのが怖い?」
ふざけた調子でそう言ったダニエルはミリアムの肩を抱いて頬ずりしてきた。そして唇をミリアムの耳にくっつけて
「そんなことしないよ」
と囁く。
一連の動作が流れるように自然でダニエルに一切の照れがないことがミリアムを不安にさせるのに。
ダニエルはミリアムをソファーに座らせて自分も隣に座るとミリアムの両肩を掴んで自分の方を向かせるとミリアムの両手を握った。そしてミリアムの目を真っ直ぐ見た。
「ボクはね、子爵家の三男といっても後妻の子なんだよね」
ダニエル様の本名はダニエル・エバンス。
エバンス家は子爵だが大変な財力を持った有力な家柄だ。
「ショーンは母の実家の名前なんだ。
上の兄とは10才、下の兄とは7才離れてるから小さい頃は相手にされてなかったんだけど」
ダニエルは続けた。
「6、7才になると後妻の子の方が優秀なんじゃないかって周りの大人が言い出して、その辺りから兄達の態度がおかしくなったんだよね。
それにボクの方が顔もいいから」
そうでしょうとも。
「あからさまに意地悪をされたりするようになったんだけど、兄達は母にも辛く当たるようになってね。
ボクは腹を見せて転がって、あなた達に敵意はありませんよ、って見せることで生き抜いてきたの。ヘラヘラ笑いながらね」
ミリアムは困ったような顔で微笑んでみせる。
「ボクが逃げ込めるのは本の中だけだった。
学校ではお祭り男だったし、家では無害な道化だったけど本当は根暗な男なんだよ」
「そんな風には見えませんが」
「それで推理小説書くようになって、いつの間にか持て囃されるようになって、皆を喜ばせようとサービスで社交的な男をやってたら引っ込みつかなくなった、っていうか、本来の自分がどんなだったか分かんなくなって」
「ああ、その感覚はなんとなく分かります」
「正直ボクってモテるんだけど、みんな本気じゃないっていうか。
継ぐ爵位もないからさ、連れ歩いて楽しく騒ぐ要員であって一緒に人生歩む相手じゃないの。
パーティーが終わった後の虚しさを抱えた毎日だったよ」
「そんなことは・・・」
「そんな時に君の小説を読んだんだ。
ああ、この人はボクだって思った。
ボクが周囲と折り合いをつける為に置き去りにしてきたもう一人のボクだって思った。
だからどうしても会わなきゃって思った。
しばらくは直接会えなかったけど、君の手紙はボクにとって何よりの慰めだったんだ」
「・・・私にとってもダニエル様との文通は唯一 素の自分でいられるかけがえのないものでした」
「手紙を読んでいるうちにどうしても会いたくなった。
やっと会えると思ったら偽者」
「・・・ごめんなさい。嫌われたくなくて」
「君が あんなつまんない女の子の筈がないのに。
ボクは見た目がどんな君でも君がいいんだ」
「じゃあ、どうしてパーティーであんな格好させたんですか?」
「君が外見にコンプレックスを持ってたから。
それにさ、君がナタリー・ロイドの娘で見た目がそっくりってのに驚いたよ。
ボクは昔からナタリー・ロイドのファンだからね。
君に自分が美しいって気付いて欲しかった。
結果として怒らせちゃったけど」
「ダニエル様は一時的な気まぐれじゃなくて真面目に私とパートナーの関係を築きたいと理解してもいいんですか?」
「君がいないとボクは欠けたままだ」
「・・・それって、結婚・・とか」
「ミリアム赤くなって可愛い。
ボクは結婚できたら嬉しいけど、ミリアムが結婚の形に縛られたくないならそれでもいいよ」
「婿養子になってくださるんですか?」
「君が望むなら」
「・・・私そっくりな女の子が生まれたらどうしようっていうのが昔からの悩みなんです」
「ミリアムそっくりの女の子なんて最高じゃない」
「絶対悩むもの。恨まれるもの」
「そう?でも、ボクもイケメンだし大丈夫じゃない?」
「ウチの父を以てしても全然薄まらなかったんですよ?!
ゴリ遺伝子ナメんなよ!」
ミリアムとダニエルは今後のことは王都に戻った後でミリアムの両親も交えて相談することにして、形はどうあれ一緒に生きていく約束をした。
そしてサガーノ島での任期が終わるまでは同僚として仕事を優先させることで決着した。
79
お気に入りに追加
891
あなたにおすすめの小説

【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

縁の鎖
T T
恋愛
姉と妹
切れる事のない鎖
縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語
公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。
正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ
「私の罪は私まで。」
と私が眠りに着くと語りかける。
妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。
父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。
全てを奪われる。
宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。
全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。
『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』
『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』
公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。
もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。
屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは……
*表紙絵自作
婚約破棄を言い渡された側なのに、俺たち...やり直せないか...だと?やり直せません。残念でした〜
神々廻
恋愛
私は才色兼備と謳われ、完璧な令嬢....そう言われていた。
しかし、初恋の婚約者からは婚約破棄を言い渡される
そして、数年後に貴族の通う学園で"元"婚約者と再会したら.....
「俺たち....やり直せないか?」
お前から振った癖になに言ってんの?やり直せる訳無いだろ
お気に入り、感想お願いします!
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる