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しおりを挟むサガーノ島へ来るというキャロラインからの手紙は本人を乗せた船と同じ便で届いた。
西域ブームを受けてキャロラインが西域地方のツアーを企画するチーフになったのだそうで、あちこち視察するついでにサガーノ島まで足を伸ばすことにしたという。
再会を喜び合ってミリアムの部屋で一休みすることにした。
ダニエルもついてきた。
「ダニエルさん、先日は私にまで美味しいお弁当をありがとうございました」
「いえいえ、是非料理の腕を披露したいところなんですけど、ここではベイビーちゃん(おばちゃん)達が色々持ってきてくれるから作る機会がないんですよ」
「どこに行ってもモテモテですね」
「一番モテたい相手の反応はイマイチなんだけどね」
ダニエルはヘヘっと笑う。
ふと立ち上がったキャロラインが棚に置いてあるブローチを目敏く見つけ、
「なんだ、まだダニエルさんにプレゼントしてないの?」
「え?なに?」
「あ、それは失敗作だから」
取り返そうとするミリアムを制して歪な六芒星をダニエルに渡すキャロライン。
「お弁当のお礼にって一生懸命作ったんですよ。幸運のお守り」
「へえ、それは是非欲しいなーありがとう」
ダニエルはさっさとピンを外してブローチを襟につけた。
「お洒落なダニエル様がそんなみっともないもの・・・」
「何でも上手くこなす君の失敗作なんて最高にそそるじゃない」
「ほらね、スゴく喜んでる」
「・・・・」
そのあとはミリアムが元教師のキャロラインに学習指導についての相談をするなどして過ごした。
「リンゴが5個あります。2個食べたら何個残りますか?って問題が分かるとするでしょ?
次にリンゴがミカンに変わると、もう分かんないの」
キャロラインは笑いながら色々アドバイスをしてくれた。
帰りの会。
今日の当番さんが前に出て、
「今日1日の反省とか、何か言いたい人はいますか?」
ハイ!手を挙げて立ち上がったのはリッチー10歳。
「今日、ボクはマックス君から山ザルって言われました。
ボクは真っ黒日に焼けてるし、裸足で走り回ってるし、自分でも分かっているけど、他人からそんな風に言われて気分が悪いです」
リッチーは今にも泣きそうである。
すると一番前の席に座っていたエディが、
「リッチー気にするな。お前の父ちゃんはカッコ良か男たいね。お前も大人になったら父ちゃんのごとカッコ良か男になるたい」
するとリッチーは憤慨して、
「お前にだけは言われとうなか!
お前のごと可愛か男の子に俺の気持ちが分かってたまるか!」
エディは色白で艶々の黒髪をオカッパにして黒々とした大きな瞳に長い睫毛のとっても可愛い男の子なのである。
女子達は一様に下を向いている。
すると、また別の男の子たちが、
「ほら、・・・お前の母ちゃんも、何て言うか、センスの良かたい。」
「うん、うん、センスの良か」
「父ちゃんはカッコ良かし、母ちゃんはセンスの良かとやっけん、リッチーも大人になったらカッコ良か男になるけん!」
するとリッチーは涙を流して訴える。
「俺は、俺はカッコ良か大人になんかならんでよかっ!
俺はたった今、今この時、可愛い男の子になりたかとっ!!」
女子は全員下を向いて肩を震わせている。
あースゴく分かる。リッチーの気持ち。
ミリアムは思ったが、ここは教育の場、さてどうしたもんか。
するとまた別の一人が すっくと立ち上がる。
「マックスが何も言わないのはおかしくないですか。
最初にリッチーをからかったのはマックスでしょう?」
マックスが立ち上がる。
「ごめんなさい。嫌な思いさせて悪かったです。
でも、オレも言いたいことがあります。
オレはこの学校に来る前は本島の学校にいました。
その時のアダ名は××××(モロ差別用語)でした。
でもオレは怒ったり泣いたりしなかったです。
オレが悪かったけどリッチーももうちょっと強くなって欲しいです」
するとリッチーが立ち上がり
「わかった。俺も小さいことにクヨクヨしとった」
「オレも冗談のつもりやったけど、傷つくこと言ってごめん。」
二人は歩み寄って握手を交わした。
女子は全員笑いを堪えている。
ミリアムが一言も発さないまま帰りの会は幕を閉じた。
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