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しおりを挟むダニエルが島にやって来た翌日にはミリアム先生の恋人が王都から追いかけて来た、と島中は噂で持ちきりだった。
あと1ヶ月少しで島をあとにすることになっているミリアムは面倒くさいので放っておくことにした。
「いいんですか?長居するなんて言っちゃって。ここはダニエル様にはつまらない場所だと思いますけど。
お洒落なパーティーもなければ高級なお酒もありませんよ。
あるのは島民が密造してるドブロクくらいのもんですから」
「だ~いじょうぶ、だ~いじょうぶ。」
ヘラヘラしていたダニエルはあっという間に島民と打ち解け、いつの間にか他人の家に上がり込んで酒盛りに参加し皆と一緒に歌ったり踊ったりしていた。
学校でもダニエルの周りには常に子供達がついて回った。
ダニエルは無給で手伝ってるだけなので、ミリアムのようにフルタイムで学校にいるわけではない。
学校の外では両腕におばちゃんをぶら下げ、彼の周囲にはおばちゃんがスズナリになっていた。
「アンタ死んだダンナにそっくりだよ」
スーザンおばさんはダニエルの手の甲をスリスリする。
「なーに言ってんだい。あんたのダンナ、さっき船大工のハリーと飲んだくれて道で寝てたよ」
ダニエルはニコニコしながら、おばちゃん達をマリアちゃん、スーザンちゃんとちゃん付けで呼んだ。
気づけばミリアム親衛隊の5人組までダニエルを兄貴と慕っている。
『私は1ヶ月以上かけて皆と仲良くなったのに』
釈然としない気持ちのミリアムはダニエルにバレーボールの洗礼を施すことにした。
校長先生や村長さん宅にいる時は遠慮していた島民も教員住宅に移ったダニエルを見逃しはしなかった。
ドンドンドンドン!
ダニエル先生!バレーボールですよ!
寝起きでボーッとしたダニエルにマリアさんの稲妻サーブが放たれる。
アワアワするダニエルにミリアムの
「トルネード~アターック!!」
床に伸びるダニエルを見下ろして高笑いするミリアムだった。
「全員知り合いだから喋らなくっていいわけなのよ」
ミリアムは子供の指導法についてダニエルに相談していた。
「相手に分かるように説明するとか、文章を書く能力に至っては壊滅的なのよね」
「うーん、毎日帰りに反省会をやって、何か発言する習慣を作ったら?」
「なるほど」
それからミリアムは毎日「帰りの会」をすることにしたが、
「今日、何か言いたいことがある人?」
と聞いても誰も何も答えないという日が続いた。
もうすぐ約束の3ヶ月か終わる。
子供達に何の成果も残せないままミリアムのなんちゃって教師生活が終わろうとしている。
そんな時、校長先生が窺うような顔で言った。
「約束の3ヶ月がもうすぐなんだけど・・・。
産休の先生ね、やっぱり赤ちゃん連れて戻れないってことで。
・・・他の先生を探してるんだけど、こんな離島に来たがる人はなかなか見つからなくて。
申し訳ないんだけど、もう少しここにいてくれないだろうか?」
ミリアムがおずおずとダニエルを見ると、
「君が決めたことに従うよ」
ダニエルはニコニコ笑ってそう言った。
この人は本当にどういうつもりなんだろう。
ミリアムは呆れながらもダニエルがそばに居てくれることに心が落ち着くのだった。
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