良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 ミリアムとロザリンは船上の人となっていた。

 僻地オブ僻地のウエスト・アーキペラゴに向かっているのだ。  
 
 西の果てのロザリンの家の領地から更に西の海に点在する諸島。かつて異端とされたスピリタス派を信仰していた人達が弾圧を逃れて移り住んだ場所だ。闇夜に紛れ小舟で漕ぎだした多くの人々が大海の荒波に藻屑と消えた。
 
大型船に乗っていても高い波に船酔いしているミリアムは、ここを手漕ぎ舟で渡ったかと想像するだけで恐怖を覚える。
 神を信じていないわけではないが、命を賭けてまで信仰を守る、という感覚はミリアムには理解できない。

 改宗か死かを迫られれば即座に改宗するだろう。
 
 すべてを捨てても手にしたい何かに巡り合ったことのないミリアムはその熱情に憧れを感じる。


 船は一番大きな島、ブリスランドに着いた。

 ここは僻地ながらも人口もそこそこあるし、メインストリートには商店もあれば宿屋もある。あるとは言ってもホテルではなくB&B民宿だ。
 その内の一軒にスタスタと入っていくロザリン。女将さんが懐かしそうに

「お嬢様、ご立派になられて~」

と涙目だ。

 聞くとハーパー家はかつて隠れ住む彼らの先祖に役所の手入れがある度に彼らを匿い弾圧から逃れさせたのだそうだ。
 よってハーパー家の人間はこの地域では崇められる存在なのだ。200年以上も前の恩義を今に伝えるとは、なんと義理固い人々なのだろうか。
 ロザリンは行く先々で歓待を受け、付属品のミリアムもお相伴に与った。


 海の美しさ、魚介類の美味しさに加えてミリアムが感心したのは椿であった。
 島全体に群生している野生のヤブツバキが山々を赤く染めている。
 その実から搾られた椿油が化粧品に使われることはミリアムも知っていたが、椿油で揚げたフライが美味なことは知らなかった。

 当初ミリアムは新鮮な海産物や風光明媚な自然の景観や史跡を堪能して帰るつもりだったのだが、僻地オブ僻地オブ僻地のサガーノ島への一週間に一度しか航行しない定期便の存在を知り、どうしても行きたくなった。

 「一旦行ったら最低一週間帰れないわよ。海が荒れたら更に欠航だからね」

 ロザリンは止めたが、ここで諦めたら二度と再びチャンスはないだろう。

 結婚式の準備で帰らなければいけないロザリンは、村長に渡すように、と手紙を託してくれた。

 サガーノ島までは女将さんが手配してくれたガイドのリックさんが付き添ってくれることになった。

 座っていられないほど揺れる船の中でちょっと後悔したミリアムだったが、なんとかサガーノ島に上陸した。

 ウエスト・アーキペラゴ自体が3000年前から活動を休止してはいるが、元々火山群島らしい。サガーノ島も溶岩で形成されたらしい海岸線が見事な造形美を造り上げていた。
 見惚れるミリアムをリックさんが促して村長の所に挨拶に行く。 
 
 「突然伺う失礼をお許しください。
 ミリアム・ロイドです」   
 
 「村長のウィリアムです。ロザリン嬢ちゃんのお友達なら私達にとっても大切なお客様だよ。なんにもないところだけど楽しんでいってね」

 ウィリアムさんは40代前半といった風貌の優しそうな男性だ。初対面なのに自宅に案内してすぐに客室を用意してくれた。
 
 すごいなハーパー家。

 この島で何か面白いことが起こるといいな、と期待するミリアムだった。

 


 


 
 
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