良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 夕食を済ませ寝る準備をする。
 ベッドのスプリングはいつも使ってるものより硬めでサイズも小さかったが、なかなか寝心地は良かった。

 キャロラインはミリアムの母とさほど変わらない年代だが、独りっ子のミリアムにとっては年の離れた姉のような親しみがあった。

 二人は各々のベッドに寝転んで色んな話をした。
 教師時代のエピソードや旅行社で働くようになってからの旅先の幽霊話などキャロラインは興味の湧く話を沢山持っていた。

 他人を面白がらせるエピソードなど何も思い付かないミリアムは、こんな薄っぺらな人生しか歩んでいない自分がよくも物書きなんかしているもんだな、と自分で呆れる思いがしたが、クロードを殴った話に腹を抱えて笑うキャロラインを見て、他人ひとって案外つまんないことを面白がるもんだな、と思った。

 時々カーテンをめくって走りゆく列車に置き去りにされる家々の灯りや追いかけてくる月を眺めていると、うまく言葉にできない胸の高鳴りを感じた。

 二人はキャロラインが隠し持っていた甘いカクテルのミニボトルをチーズをツマミに楽しんだ。

 いい気分になったミリアムは心地好い列車のリズムにいざなわれ、いつの間にか眠ってしまったようだ。

ミリアムが目覚めた時、既に太陽は高く登っていた。

「あと一時間くらいでインタミディエイト・ステーションに着くよ。燃料や水、食料の補給と列車の点検で約6時間あるから散策しよう」

「ああ、うん。楽しみ」

 ミリアムはまだハッキリしない頭で答える。
 ノロノロと着替えたり顔を洗ったりして身支度を整え、コーヒーを一杯飲んだあたりで汽車は駅に着いた。

 ミリアムは地図上でだけ知っていたセント・マルティンの町に降り立った。

「キャロラインはここに来たことあるの?」

「三度目かな」 

「何か名物とかある?」

「銀線細工は見事だよ。見にいく?」

 町並みは石灰石が多いのか全体的に白っぽくて王都と比べると植生も南国っぽい。 

「こういうの異国情緒って言うのかな?」

土産物屋が並ぶエリアに来るとレースのような見事な銀線細工が並んだ店が軒を連ねている。

「簡単なモチーフを手作り体験できるんだよ。観光客には人気なの」

 「へえ、やってみようか?」

 四つ葉のクローバー、ハート、六芒星の3つのモチーフから1つ選ぶように店主のオジサンに言われる。
 ペンダントかブローチにしてもらえるらしい。

「お弁当のお礼にダニエル・ショーンの為に作れば?」

 「それは妙案ですね」

ミリアムも乗り気であった。

 
 何をやっても平均以上のミリアムだから少々舐めてかかっていたのは否めないのだが、細い銀の糸をり合わせて形を作るのがなんとも上手くいかない。
 無難に四つ葉のクローバーを仕上げるキャロラインの横でミリアムの六芒星はなんとも不恰好だった。
  幸運のお守りとしてダニエルにあげようと思っていたが、

「これじゃとてもあげられないわ」

ガッカリするミリアムの横で

「そうかなー、喜ぶと思うよ」


キャロラインは面白そうに笑った。

 



    
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