良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 ミリアムは疲弊していた。

例のパーティーの後、ダニエルとロベルトとは和解し、異性としてではなく大切な友人として付き合いを続けることとなった。

 それはいい。

 問題はパピヨン・リベルテだ。

 すっかり彼女に気に入られてしまったミリアムは「女性の権利向上委員会」だの「女性の性解放運動」だのに引っ張りまわされて、否応なしにスピーチをさせられたりするようになったのだ。

 ミリアムとて社会の現状を見るにつけ女性の社会進出や権利向上の必要性は痛感している。

 しかし、

男どもあいつらは地下世界に閉じ込めて、我々の厳正なる試験に合格した優秀な男だけが子作りの為に一時的に地上に出られる」

 等と言う、冗談なのだろうが笑えない話をしながらゲラゲラ笑っている面々の一員に自分も数えられているのがなんとも居心地が悪い。

 結婚だけが女の幸せだという風潮に反発を覚えながらも、ミリアムに男性と敵対するつもりはない。


 「なんでこう極端な人しかいないのかな」


 やっと解放されたミリアムが独り言を呟いて町を歩いていると、


「なんだ、相変わらず独りぼっちでヒマそうだな」

 バカにしたような笑みを浮かべてクロードが立っていた。

 ただでさえ疲れていたミリアムは見えないフリをして通り過ぎようとした。

 クロードはミリアムの腕を掴んでひき止める。


「聞いたぞ。プラント侯爵家からの縁談を断ったんだってぇ?
 やっぱりオレのことが忘れられないんだろう?」


 ミリアムは北の山脈に住むという伝説の生き物でも見るような目を一瞬クロードに向けたが、ため息を吐きながら二、三度かぶりを左右に振ると、何も答えずに歩き出した。

 どこかのティールームでアイスティーでも飲もうかと思っていたが、もういい。
 とにかく速攻帰ってベッドにダイブしたい。

 数十メートル歩いたところで背後から声を掛けられる。

「おい!」

 まだ ついて来ているのかとイラつきながら振り返ると立っていたのはグリッターだった。

「ちょっとその辺でお茶でもどうだ?」

グリッターの周囲を見回すもシャイニーの姿がない。

 ミリアムの目線を察したグリッターが、

「フェアリーちゃんのことで相談したいんだよ。頼むよ」

 ミリアムはハアーとため息を吐いて、今日はヨナの日、と諦めた。


 「なに、ケンカでもしたの?」

レモンソーダを飲んで一息ついたミリアムが投げやりな調子で聞いた。

「・・・そんなわけじゃないんだけど」

 そう言ったきりグリッターは黙ってしまった。

 「めんどくさいなー。帰っていいですか?」

「いや、ちょっと待て。・・・・その、この前のパーティーの時オヌシは僕にクソっていっただろう?」


「まだ根に持ってんですか?・・・チッセー」

「いや、そうじゃなくて。・・・どうしてオヌシは僕のことクソって思ったのかなって」

「いや、初めて会った瞬間からクソでしたけど」

「いや、それじゃなくて。あの時の話の流れだとダニエルとロベルトがオヌシの人生観を無視して勝手にオヌシの幸せを決めつけようとしてオヌシの不興を買ったわけだろう?
 あの時、僕は話に参加していなかったにも関わらずクソ扱いされた。
 オヌシから見れば僕もダニエルやロベルトと一緒だということなのだろうか」


「アンタでも内省とかするんだ」

「ふざけないで教えて欲しい」

「シャイニーに何か言われた?」

「・・・ハッキリ何かを言われた訳ではないのだが、あの日以来なんとなく違和感というか、様子がおかしいというか。・・・オヌシのことが羨ましい、みたいなことを呟いたりするんだ。
 あり得ないだろうオヌシが羨ましいとか」

 あーもーコイツはどこまで行ってもグリッターだな。
 ミリアムは給仕を呼び止めて、

「えーと、ディンブラをストレートで。あとアップルパイにバニラアイスクリームをつけて下さい」


 「何でも好きな物たべていいから真面目に答えてよ」

 すがるような目をするグリッター。

 「・・・シャイニーが置かれていた状況を考えれば、そこから助け出してくれたスローン様には感謝してますよ。
 だけど結婚して1年以上経っても、ずっとボクのフェアリーちゃんを大事に大事にガラスケースに閉じ込めて飾ってるようにしか見えないのよ」

「僕はフェアリーちゃんを全力で幸せにしたいだけなんだ」

「・・・幸せって一方的に与えられるだけのものでもないでしょう?
 シャイニーは可愛いだけの女の子じゃないですよ。
 彼女は能力の高い人ですよ。だけど、彼女は学校も途中で辞めさせられちゃったし。
 スローン様には心から感謝してるだろうし愛していると思う。だけどスローン様がシャイニーを大切に思うようにシャイニーだってスローン様の役に立ちたいと思ってるんじゃないですかね」

「・・・・守ってやらなくちゃって、それしか考えてなかった」


「まあ、よく話してみたらどうですか?
 彼女は事務処理能力にも長けているし、資料集めとかから手伝ってもらったらどうですか?的確な意見もくれるだろうし、案外小説書いたらグリッター・ボーンなんかすぐ追い抜いたりしてね」

「・・・分かった。フェアリーちゃんを誰かにとられるのが怖かったんだ。
 ・・・色々 参考になった。ありがとう」

トボトボ帰って行くグリッターの後ろ姿をヤレヤレと見送ったミリアムはぐったりしながら家路についた。

 
 家に帰ると、懐かしいエアーズのメンバー、ロザリン・ハーパーからの手紙が届いていた。







 
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