良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 「あ、・・・あの、図々しくついて来てしまって・・・サインが欲しくてミリア・・・マダム・シャノアールに私が頼」

「サインくらいお安い御用ですよ。
   ささ、こちらへ」

 食い気味に言ったグリッターの声はさっきまでと全然トーンが違っていた。

 シャイニーをソファーに誘導し隣に陣取るグリッター。

「あ、イヤだなあボク。なんでこんな格好で来ちゃったんだろう。
 締め切りが近くて・・・」

「お気になさらないでください。私、先生の大ファンなんです」

「え?感激だな~。サイン?いくらでもするよ」

 グリッターは座ったままソファーでポンポン跳ねそうな勢いだ。

 シャイニーが鞄をごそごそまさぐって一冊の本を出す。

「え?これボクのデビュー作、~魔法少女ララミン~じゃないか。
 これ、ほとんど売れなかったのに、よく持ってたね」

「私、この頃からずっとグリッター先生の大ファンなんです。もちろんドラゴン・スローン~竜の玉座~シリーズも全部繰り返し読んでます」

「感激しちゃうな~。それにしても、君ってドラゴン シリーズのフェアリーちゃんそのものだよ」


 「あの~、私も座っていいですか?」

 抑揚の無い声でミリアムが問うと、グリッターはミリアムを一瞥して、どこでも好きな所に座ればいいじゃん、と言ってすぐまたシャイニーに向き直った。

シャイニーが頬を赤らめながらグリッターに作品のあれこれを質問したり自分なりの解釈を語ったりすると、グリッターはいちいち誠実に回答していく。

 ライターは一旦仕舞ったノートとペンを再び取り出して嬉々として記録している。

 もう最初からこの二人で対談すれば良かったんじゃないの?

 鼻白む表情のミリアムは中座してトイレに行き、喫茶室でオレンジジュースを飲んで戻ってきたが、その時もまだ二人は白熱して話し込んでいた。

 ようやく話も終わって帰ることになり、ホテルのエントランスで別れを告げて歩き出す。

 ライターはお陰さまで良い記事が書けそうだと喜んでいる。

 するとグリッターが追いかけてきて、シャイニーに用事があるのかと思えばちょっとちょっととミリアムの腕を掴んで物陰に引っ張っていく。

 「なんなんですか?」

 ミリアムは不機嫌を隠さない。

「フェアリーちゃんと連絡をとるにはどうしたらいいだろうか?」

「はあ?あんなに話してたのに、お互い自己紹介もしてないの?ヘタレか!」

「・・・・」

 グリッターは顔を赤らめている。

「彼女はシャイニー・クォーツ。伯爵家のご令嬢よ」

「・・・クォーツ伯爵家か・・・」

「継母と義妹に冷遇されて辛い生活を強いられてるわ」

「・・・・」

 ミリアムはニヤリと笑って言った。

「王子様とまではいかなくても、ドラゴン・スローンの騎士みたいに彼女を救ってくれるステキな殿方が現れればいいのにね」




 それからスローン侯爵家からクォーツ伯爵家へ、結婚の申し込みをするまで一週間とかからなかった。

 
 あいつ、スローン侯爵家の嫡男だったんかい、とミリアムは思った。
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