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しおりを挟むミリアムが新聞の懸賞小説の募集記事を見つけたのは、婚約解消から数週間たった頃だった。
普段から日記をつけたり思いつくことをエッセイ風に書き留めたりしていたミリアムは文章を書くことは好きだった。
家の資産を運用すればお一人様生活くらいどうとでもなりそうだが、誰か他の人に家を継いでもらうとなればいつまでも寄生するわけにもいくまい。
ここはやりがいも含めて、なんらかの身を立てていく術を模索しなければならないと考えていたミリアムにとって、小説の応募は手始めのチャレンジとして最適に思われた。
文章を書くことにはそれなりの自信を持っているミリアムだが、やはり、学校の詩作やエッセイの時間では褒められはするものの賞を取るのは決まってプラント侯爵令息ロベルトだった。
友達はいつも
「絶対ミリアムの方が上なのに、先生はお気に入りのプラント様を依怙贔屓してるわよ!」
と憤ってくれるのだが、ホントのところは分からない。
正直プラント様の文章は形式ばっていて面白味に欠けるのではないかと思わなくもないのだが、長年指導なさってきた先生にしか分からない格の差みたいなものもあろうかと思う。
それに先生のお気持ちも分かるのは、プラント様は大詩人バーナード・リードをご先祖に持つ、絵本から飛び出して来たような貴公子だからだ。
まさに美しいは正義だ。
そんなわけで、もしロベルト・プラントが同じ懸賞小説に応募したら、とても勝てる気はしなかったが、新聞は文学作品を求めているわけではなく、あくまでも一般大衆を対象とした娯楽小説を欲しているのだ。
格調高いプラント侯爵家のご令息が参戦してくるとは思えない。
ミリアムはお気楽お一人様人生への第一歩として小説を投稿することにした。
締め切りまで時間がなかったので、今までに書いた2つの小説をくっつけて推敲した。
そうして出来上がったのが
~ その後の女たち ~
だった。
美しい平民の娘サリーは王子の寵愛を受け、王子の婚約者である公爵令嬢を蹴散らせて見事王子妃の座を射止める。
身分制度に不満を持つ平民からもこの結婚は歓迎され、結婚式後の市中パレードでは沿道は花で埋め尽くされ人々のお祝いの歓声に包まれた。
まさに未来は薔薇色・・・だったはずが。
姑との確執、小姑とのいさかい、思い通りにいかない子供との関係、無関心な夫、そして夫の女性関係。
次々と難題が降りかかる中で押し潰されそうになるサリー妃。
しかも味方だったはずの市井の民衆もいつの間にかサリーの悪口を言っていて、ゴシップ誌を賑わせている。
心身共に疲れはてたサリーが会ったのは、かつて自分が蹴落とした夫の元婚約者だった。
疲れ果てた我が身に比して、彼女のなんと溌剌と輝かしいことよ。
聞けば王子に捨てられた彼女は自分を見つめ直し、将来について真剣に考えたという。
結果彼女は猛勉強の末、女だてらに司法の世界に身を置くこととなった。
そこで社会的弱者、主に女性の権利向上に関わる法案の取り纏めに尽力するのだが、その時点で生涯家庭を持つことは無いと思っていた。
しかし理解ある男性と廻り合い、遅い結婚をして子供にも恵まれた。
夫とは何でも話し合える仲で、協力して育児もしているという。
フツフツと妬みの感情が沸き上がるサリー。
その後二人は擦った揉んだの末に友人となり、サリーも自分の生き方を見つめ直すっというストーリーだ。
ミリアムが小説を送ったことも忘れていた3ヶ月後、受賞の連絡がきた。
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