61 / 62
60
しおりを挟む早朝から営業しているカフェにて。
リーヴィアと団長とゾーイ、そしてやたらとハイテンションなラルスが
「こっちのコーヒーの味はどうですか?
あっちと何か違いがありますか?」
などと、どうでもいいことばかり聞きまくって微妙な空気を作っていた。
そうこうしていると、まずジャンが入ってきて、
「こんな早朝から大学行くのか?って家の人に怪しまれちゃったよ」
と言いながら合流した。
団長が、おぅ!と親しい者にする仕草で片手を挙げて自分の隣の椅子を勧めて、ジャンがそれに自然な流れで座るのをラルスは羨ましく見ていた。
其処へ少し遅れてヴェリタスがやって来たが、母親のソラリスを伴っていて渋い顔をしていた。
「ごめ~ん。ついて来るって聞かなくて」
早朝家を抜け出すところをとっ捕まったヴェリタスは誤魔化しの効かない母親を振切ることができずに連れて来るしかなかったのだ。
「おはようございます。フォンヌ夫人」
リーヴィアはヴェリタスの母に挨拶をしてから、
「気にしないで、ウチも余計なのがくっ着いて来ちゃってるからさあ」
とラルスのことを見もしないでヴェリタスに言った。
ソラリスは、
「信じられないけど、リュネール家の伝説は本当だったのね」
と興奮気味にリーヴィアに言ってから、その後其々に一通りの挨拶を交わした。
その後ソラリスはオバサン特有のコミュニケーション能力で団長とゾーイをあれやこれや質問攻めにした。
「えっ!〝月光騎士団〟の作者さんが昔の〝月光騎士団〟の団長さんだったの?!」
早朝でまだ客はまばらだったが、オバサンの興奮した声が響いた。
聞き耳を立てていたラルスも同時に「えっ?!」と声を出した。
「お母さん、声が大きいよ」
ヴェリタスに注意されてテヘペロ状態のソラリスは、
「だけど団長さん達、こっちの滞在場所にあてはあるの?」
とか
「やっぱりここは頼りになる大人の出番でしょう?」
と自分の有用性をアピールした。
「従業員用に借りてる部屋に空きがあったはずだから、団長さん達が使えるように手配してあげるわよ」
「それは助かります」
「そんな安請け合いして大丈夫なの?お父さんにバレて叱られない?」
「大丈夫よ。お父さんの一人や二人簡単に誤魔化せるから」
ソラリスは晴れ晴れとした顔で堂々と恐ろしいことを言う。
「で?作家さんにはいつ会いに行くの?」
「・・・まさか、着いて来るつもりじゃ・・・」
「当たり前よ!こんな面白いこと逃すわけにはいかないわよ!人生にチャンスってそうそう転がってるもんじゃないわ!」
「そ、そうですよねっ!人生は一度きり!冒険しなくちゃですよね?私も是非お供させていただきます!」
言った者勝ち、と言わんばかりにラルスも同調した。
『ここまで言って帰れとは言われないだろう。いや、言わせないぞー!』
「我々も初めてのことだから、一体いつまで〝こっち〟にいられるのやら分からないのです。
一度眠ってしまったら元の場所にもどるのか?
ドンコ達は〝あっち〟いる間はこっちで眠っているようだが私達の体はどうなってるのかも分からないのです」
団長がそこまで言うとジャンが
「あっ!」
と声を発して、
「そこまで考えていませんでした」
と申し訳無さそうに言った。
「ひょっとしてあのまま〝どん底〟で寝込んじまったのか?俺達」
とゾーイ。
「店に迷惑をかけていなければよいのだが」
団長は心配そうに言ってから続けた。
「それに繰り返し行き来ができるのか、これが1回きりのことなのかも分からない状態なので。
だからどうしてもなるべく早急に元団長には会いたい、そう願っているのです」
団長の言葉を聞くと、ジャンは席を立った。
カウンターに電話を借りに行ったようだ。
戻ってきて、
「早朝に迷惑かとは思ったのですが、使用人の方も僕達からの連絡はすぐに取次ぐよう指示を受けていたそうで、元団長さんとお話しできました」
「それで何と?」
「今日伺いたいと伝えたところ了解とのことでした」
「ヨッシ!早速行くわよー!」
何故か一番張り切っているソラリス。
「ただ、辺鄙な場所なので車をチャーターする必要があるんです」
「まかせて!」
ソラリスが顧客のハイヤー業者を手配する、という。
「以前、認可申請の時うちの力で役所にゴリ押ししてやったから」
その業者は以来フォンヌ法律事務所に頭が上がらないのよ、とソラリスは自慢した。
どうしても一緒に行きたい!そんな意気込みが感じられ、オバサンの必死のアピールの横でヴェリタスは諦めの溜息をついた。
ただ、いくらなんでもこんな時間に車の準備をさせるわけにはいかないので、一行は車屋の開店時間を待つ間、一先ず優雅な朝食を、ということになった。
すっかり朝日も昇って、せっかくならテラス席で戴こう、ということになって一同移動。
銘々に食べたい物を注文して食べていると、なんでまた今朝に限って、いかにも高級そうな毛並みの犬を連れたコリーナが歩いてきた。
「あら、あなた達お揃いで何をしていらっしゃるの?」
気づかずに通り過ぎて行ってくれ、というリーヴィアとヴェリタスの願いは届かず、目敏くコリーナに発見されてしまった一行は面倒くさい尋問を受けることになった。
62
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉
海林檎
恋愛
※1月4日12時完結
全てが嘘でした。
貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。
婚約破棄できるように。
人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。
貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。
貴方とあの子の仲を取り持ったり····
私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる