そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 早朝から営業しているカフェにて。

 リーヴィアと団長とゾーイ、そしてやたらとハイテンションなラルスが

「こっちのコーヒーの味はどうですか? 
 あっちと何か違いがありますか?」

 などと、どうでもいいことばかり聞きまくって微妙な空気を作っていた。

 そうこうしていると、まずジャンが入ってきて、

「こんな早朝から大学行くのか?って家の人に怪しまれちゃったよ」

 と言いながら合流した。

 団長が、おぅ!と親しい者にする仕草で片手を挙げて自分の隣の椅子を勧めて、ジャンがそれに自然な流れで座るのをラルスは羨ましく見ていた。

 其処へ少し遅れてヴェリタスがやって来たが、母親のソラリスを伴っていて渋い顔をしていた。

「ごめ~ん。ついて来るって聞かなくて」

 早朝家を抜け出すところをとっ捕まったヴェリタスは誤魔化しの効かない母親を振切ることができずに連れて来るしかなかったのだ。

「おはようございます。フォンヌ夫人」

 リーヴィアはヴェリタスの母に挨拶をしてから、

「気にしないで、ウチも余計なのがくっ着いて来ちゃってるからさあ」

 とラルスのことを見もしないでヴェリタスに言った。

 ソラリスは、

「信じられないけど、リュネール家の伝説は本当だったのね」

 と興奮気味にリーヴィアに言ってから、その後其々に一通りの挨拶を交わした。
 その後ソラリスはオバサン特有のコミュニケーション能力で団長とゾーイをあれやこれや質問攻めにした。

「えっ!〝月光騎士団〟の作者さんが昔の〝月光騎士団〟の団長さんだったの?!」

 早朝でまだ客はまばらだったが、オバサンの興奮した声が響いた。

 聞き耳を立てていたラルスも同時に「えっ?!」と声を出した。

 「お母さん、声が大きいよ」

 ヴェリタスに注意されてテヘペロ状態のソラリスは、

「だけど団長さん達、こっちの滞在場所にあてはあるの?」
 
 とか

「やっぱりここは頼りになる大人の出番でしょう?」

 と自分の有用性をアピールした。

「従業員用に借りてる部屋に空きがあったはずだから、団長さん達が使えるように手配してあげるわよ」

「それは助かります」

「そんな安請け合いして大丈夫なの?お父さんにバレて叱られない?」

「大丈夫よ。お父さんの一人や二人簡単に誤魔化せるから」

 ソラリスは晴れ晴れとした顔で堂々と恐ろしいことを言う。

「で?作家さんにはいつ会いに行くの?」

「・・・まさか、着いて来るつもりじゃ・・・」

「当たり前よ!こんな面白いこと逃すわけにはいかないわよ!人生にチャンスってそうそう転がってるもんじゃないわ!」

「そ、そうですよねっ!人生は一度きり!冒険しなくちゃですよね?私も是非お供させていただきます!」

 言った者勝ち、と言わんばかりにラルスも同調した。
 
『ここまで言って帰れとは言われないだろう。いや、言わせないぞー!』


「我々も初めてのことだから、一体いつまで〝こっち〟にいられるのやら分からないのです。
 一度眠ってしまったら元の場所にもどるのか?
 ドンコ達は〝あっち〟いる間はこっちで眠っているようだが私達の体はどうなってるのかも分からないのです」

 団長がそこまで言うとジャンが

「あっ!」

 と声を発して、

「そこまで考えていませんでした」

 と申し訳無さそうに言った。

「ひょっとしてあのまま〝どん底〟で寝込んじまったのか?俺達」

 とゾーイ。

「店に迷惑をかけていなければよいのだが」

 団長は心配そうに言ってから続けた。

「それに繰り返し行き来ができるのか、これが1回きりのことなのかも分からない状態なので。
 だからどうしてもなるべく早急に元団長には会いたい、そう願っているのです」

 団長の言葉を聞くと、ジャンは席を立った。
 カウンターに電話を借りに行ったようだ。

 戻ってきて、

「早朝に迷惑かとは思ったのですが、使用人の方も僕達からの連絡はすぐに取次ぐよう指示を受けていたそうで、元団長さんとお話しできました」

「それで何と?」

「今日伺いたいと伝えたところ了解とのことでした」

「ヨッシ!早速行くわよー!」

 何故か一番張り切っているソラリス。

「ただ、辺鄙な場所なので車をチャーターする必要があるんです」

「まかせて!」

 ソラリスが顧客のハイヤー業者を手配する、という。

「以前、認可申請の時うちの力で役所にゴリ押ししてやったから」

 その業者は以来フォンヌ法律事務所に頭が上がらないのよ、とソラリスは自慢した。
 どうしても一緒に行きたい!そんな意気込みが感じられ、オバサンの必死のアピールの横でヴェリタスは諦めの溜息をついた。

 ただ、いくらなんでもこんな時間に車の準備をさせるわけにはいかないので、一行は車屋の開店時間を待つ間、一先ず優雅な朝食を、ということになった。

 すっかり朝日も昇って、せっかくならテラス席で戴こう、ということになって一同移動。

 銘々に食べたい物を注文して食べていると、なんでまた今朝に限って、いかにも高級そうな毛並みの犬を連れたコリーナが歩いてきた。

「あら、あなた達お揃いで何をしていらっしゃるの?」

 気づかずに通り過ぎて行ってくれ、というリーヴィアとヴェリタスの願いは届かず、目敏くコリーナに発見されてしまった一行は面倒くさい尋問を受けることになった。






    
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