そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 団長が意を決してガムの包み紙を開けようとした時、

「ちょっと待ってください」

 ジャンが止めた。

「もし、思惑通り〝あっち〟に団長さんとゾーイさんが行ったとして、その時に僕達が〝あっち〟に居なければ困ったことになるんじゃないでしょうか?」

「なるほど。確かに向こうに知り合いは居ないし状況も分からないからな」

「元団長に会いに行くったって、どうすりゃ会えるかも分からないし、第一俺達が勝手に敬愛してるってだけで知り合いでもなんでもないしな」

「僕達は同時にあっちに行く必要があります」

「どうやって?」

「・・・分かりませんが、取り敢えず僕とヴェリタスは今のところ向こうで起きなければいけない時間には目覚めるので問題無いとは思うんですが」
 
「が?」

「問題はリーヴィアです。リーヴィアがどのタイミングで行き来しているのか、今だに不明なんです」 

「存在そのものがイレギュラーな感じするもんな、ドンコは」

 とゾーイ。

「なら、どうすれば?」

「・・・有効かどうかはわかりませんが、皆で同時に食べて〝あっち〟に行くことを強く願う、というのはいかがでしょうか?」

「まあ、なんか、それっぽい感じはするわよね」

 とヴェリタス。

「しかして、同時に食べるとは?・・・何を・・・」

 団長の目がテーブルに置かれたクタクタのガムらしき物を捉える。

 同じ物を見つめるヴェリタスの顔も引きつっている。

「・・・まさに、旅は道連れだな」

 ゾーイが呟く。

 2枚のガムを5人で分けるというのはなかなかに難易度が高い。

「そっちが少ないんじゃないか?」

 とか

「いや、そっちが」

 と、この場合はいかにより多くを自分以外に押し付けるかで一悶着して、いよいよ、こねくり回されて汚い粘土みたいになったガムっぽい物が各自の前に用意され、覚悟を決めて、と言う時にリーヴィアの爆笑が響いた。

「アハハハ・・・これさ、皆で輪になって手を繋いで『いざ!行かん!』かなんか念じてさ、モグモグモグモグやって、結局何も起こらなかったら超ウケなんだけどォ~。アハハハハハハ」



「「「「・・・・・・・」」」」


「ドンコは『誰しもが思ってはいるが敢えて口にしない事』を平気で言うのは何なんだ」
 
 団長は呆れて脱力した。


「と、とにかくやってみようよ」

 ジャンが言って、一同は「裏切りっこ無しよ?」と何度も確認して、せーの!で口に入れた。

「なんだミント味か」

「意外と平気かも」

「むしろ爽やかかも」

 一同は腹痛を起こすのではないかという恐怖の中、なんとか自分を励まそうとポジティブな発言をした。

 病は気から。

 そんな言葉を心の支えに。



 そこでまたリーヴィアが、

「なんかちょっと塩味しない?」

 と余計なことを言い、皆がうぇ~っとなったところで、

「月の女神エストに願い奉らん。

 我らを光の道に導きたまへ」 

 リーヴィアが〝月光騎士団〟のセリフを唱えると辺りを柔らかな虹色の光が包み、一同の姿が消えた。

 

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