そして私は惰眠を貪る

猫枕

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母さんは俺を気遣い、夕飯の際、兄弟とは別々にしてくれた。

兄も弟もあの事件以来、俺と会話がないから。

「リクエスト、俺、よくわかんないし...母さんの得意料理とかなんでもいいよ、俺」

微笑んで俺はそう言ったら母さんはきょとん、として微笑んで....。

「和食?洋食?悩むわね...俊也はなにを作っても喜んで食べてくれるもの」

母さんもそう微笑んで、

「オムライスなんかどう?あと何かスープとサラダ...とか?」

うん、と頷いて、とても美味しかった。

明日は久しぶりに樹と会えるし、楽しみだ。

不意にスマホが音を立てた。

「樹かな」

そうして画面見たら、豊だ。

「もしもし?久しぶり」

涼太となにかあったのかな、そう感じた。

「明日、樹と映画だって?樹が嬉しそうに電話して来て。あいつ、昔からそんな感じだけど、俺たちも誘おうとして。二人きりで行きたいと思うよ、て促しといたから」

思わず微かに笑った。

「そっか、ありがとう。てか、なんかあった?涼太と」

「....鋭いな、俊也」

豊はびっくりして、その後、詳しい事情を話してくれた。
樹には良かったら伏せて欲しい、てそう言って。

「ああ、だからか。なんか前にさ、涼太、てどんな奴か、て知りたくて。樹のために。
空っぽな感じしたんだよな。涼太の部屋、何もないから」

「....空っぽな感じした...。そういえば、満たしてやれ、て確か俊也、そう言ったな、確か...俺に、そう明るく、余裕がある感じでさ。
なんか...なんだろ、お前と話すと自信持てるというか、なんていうか、さ...」

しばらく豊の話しに耳を傾けた。

「俊也、てさ、自分に余裕なくてもお前は常に他人のこと考えて、観察して、的確なアドバイスが出来る....なんだろ、凄いな、お前って...樹、お前と付き合えて良かった、て思う。いや、違う、俺も涼太も、さ、お前と知り合えて良かった...」

少し首を傾け、笑った。

「....買い被りすぎじゃない?」

「いや、お前、凄いよ...なんだろ、同じアルファだけど、俺もお前も。なんか、頭がいいんだな、天才肌で、でも思いやりもあって...人を気遣える。樹が映画が好きだから、俊也、さりげなく映画に誘ったり....自分の行きたいところじゃなく、樹の行きたいだろうな、てことを...わかってて連れていく、さりげなく....まだまだあるけど...だから、かな」

一瞬、豊が言葉を見失った感じがした。

戸惑ってるけど、なんだか。

「なに?」

「....だから、お前はいじめられてたんだろうな、多分...お前に嫉妬して。お前には敵わない感じで...
お前が凄く才能もあって、環境も恵まれてる、そう思われて....性格までいい、優しいから...なんかお前、てキラキラしてるから、羨ましくて」


「....俺がキラキラ?よくわかんないけどさ。自分のことはさ、俺は別にどうでもいいんだ、だから、あんまよくわからないけど。とりあえず、さ。
涼太はお前が、豊次第で変われると思う。きっと。
一緒に色んなことをして、探せばいい。
涼太を楽しませること、喜ぶこと、笑顔にさせること。涼太と一緒に探してさ、そしたら涼太は大丈夫。父親の話しは別だけど。 
裁判沙汰にしたら証言やら記事にでもされたら涼太、また苦しむから、考えなきゃだけどさ」

豊が黙り込んだ。

「どうした?」

「....いや、お前、本当に凄いな、て思って...
即答で的確にアドバイスできて...凄いな、お前。確かにそうだ...。
樹、お前に出会えて良かった。俺や涼太で、さ、樹を以前、傷つけてしまった。お前がいたから、樹も涼太も俺も...変われたし救われて今がある...」

豊の呆然とした声にまた少し首を傾げそうになりながら微笑んだ。

「多分、もしかしたらだけど、涼太は自暴自棄になってたのかもな。樹も豊のことも本当は好きだけど嫌われたい、みたいなさ。
あと父親、アルファなんじゃない?案外。だからアルファが憎い、みたいな。
あと自分がアルファじゃなくて、コンプレックスとかジレンマ、て言うのかな。
俺も良かったよ。お前と、豊とも出会えて。ようやく、俺、友達ができた、て感じして嬉しいからさ」

俺が笑ったら、豊はまた少し黙って、

「....そうか...なるほどな...。ありがとう、俊也。本当にありがとう」

そう言って微笑んでる感じがして、嬉しかった。

「上手くアドバイス出来てるかわからないけどさ、頑張りなよ、涼太が好きならさ。涼太が笑っていて欲しいなら、一緒にいたいなら。応援してる。俺も樹も」

「祭りとか、海やプールは多分、無理かもだけど...涼太、プール無理だったし...」

「そう?泳ぎ方、教えてあげればいいだけじゃない?言えなかったんだよね?昔は」

「....やっぱ、お前、すげーわ。その通りだな、ホント」

涼太への不安が落ち着いた感じのため息を洩らす豊に安堵し、微笑んだ。
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