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しおりを挟む「元団長は20年前、女神エストからリーヴィア姫の魂を受け取って〝あっち〟の世界、つまり僕達の住む世界に飛ばされたそうです」
「リーヴィア姫の魂を・・・」
「はい。女神のお告げによると、古に女神よりリュネールの称号を賜った者の末裔が私達の住む世界にいるそうなのです」
「なんと!」
「そして元団長は女神から託されたリーヴィア姫の魂を箱に入れて、その末裔を探し出し、その夫婦の元にリーヴィア姫を誕生させたのだそうです」
「おお・・・おお!
姫君はそなた達の世界で新たな命を得て生きておられたのだな・・・」
現団長は感涙した。
ゾーイも目を赤くしている。
「しかして、その姫君は」
団長は紅生姜に感動するコリーナを目で捉えると、ササッと歩み寄り牛丼屋の油っぽい床に片膝を着いた。
「嗚呼、麗しの姫君よ!」
「「「違~う、違~う」」」
「えっ?!」
「そのくだり要らないから~」
歩み出たリーヴィアが人さし指で自分の鼻を何度も叩く。
「その姫君はいずこに?」
リーヴィアは団長の顔の真ん前に来て尚も鼻を指差す。
「類まれなる美貌の姫君はいずこならんや・・・」
「目の前の現実を受け入れろ~」
リーヴィアが慰めるように言うと、
「ドンコか~」
とガックリ肩を落とした団長の隣でゾーイも、
「オイ、嘘だろう?」
と呟いている。
「いや、だけど20年前といったら実際にリーヴィア姫を目にした人達もたくさんいてだな、当時姫君は幼児であったが、それでも月の女神エストのご加護を賜いし〝まさにこの世のものならざる美しさ〟であったと皆口を揃えて証言しているんだぞ」
「それがドンコって・・・」
「あーハイハイ。月の光でパックした輝く髪とドラえもんもビックリの青い瞳だっけ?」
リーヴィアは「最初に卵を混ぜるのは素人の食べ方よ」とコリーナに牛丼マウントを取りながら団長とゾーイをあしらった。
「しょうがないじゃない。団長が〝無用な争いを生まないように女神のご加護で凡庸な容姿にした〟って言ってるんだから」
「・・・本当なのか?」
「嘘ついてどうすんのよ?っていうか、手っ取り早く元団長を連れて来て説明させかったんだけどさぁ。なんかナイーブな人みたいで」
「元団長は亡くなった同志とそのご家族に顔向けができない、と気にしておれまして、こちらに来ることを拒否されまして」
ジャンが補足する。
「・・・なるほど。気持ちはわかるよ」
「ま、あんまり根掘り葉掘り聞ける状況じゃなかったんで、取り敢えずこんなところで。またおいおい聞いとくわ」
「そうか~。ドンコか~。そうか~。ドンコだったのか~」
繰り返すゾーイ。
「なによ?!なんか文句あるの?」
「いや~。別に文句はないけど~」
「けど?」
「なんかモチベーション下がるっていうか~」
「失礼ね!!」
リーヴィアとゾーイがギャイギャイやっている横で、
「僕はリーヴィアが可愛いと思うけどな」
と呟いたジャンの言葉は届かなかった。
翌日いつも通りに目覚めたコリーナはラルスの通う大学近くのカフェでラルスに会った。
偶然を装ってはいたが、実際はラルスに会えることを期待してやって来たのだ。
「久しぶり」
卒業式以来のかつてのガールフレンドの登場にラルスは驚いた。
それと同時に周囲とは違う光源から光が当たっているかのような輝く美女の出現に周囲も色めき立つ。
「ちょっと話せる?他人には聞かれたくない事なの」
連れ立ってカフェにやって来た仲間達の羨望の眼差しを背に受けると、やっぱりプライドがくすぐられて良い気分になってしまう馬鹿な男は、
「ちょっとならいいよ」
とよそ行きの声を出して、
「君達すまない。ちょっと抜けるよ」
とコリーナを伴って外に出た。
いつもはヴェリタス御用達の誰も来ない木立ちの中のウッドデッキまで来るとラルスはカッコつけて、
「話って何かな?」
と微笑んだ。
「貴方の嫁、ヤバいんじゃない?」
コリーナは開口一番そう言った。
「へ?」
「離婚の慰謝料で牛丼屋始めるって牛丼屋でバイト始めたわよ?秘伝のタレの味を盗む、とかなんとか」
「・・・牛丼屋?・・・行ったの?・・・コリーナも?行ったの?異世界・・・」
コリーナはラルスの質問には応えずに、
「確かにあれは受けるわよ。私もこっちでフランチャイズ展開できないかしらね?」
とかなんとかブツブツ言い出した。
子供の頃、自分だけ遊びに誘ってもらえなかった時の記憶がラルスの頭に鮮明に蘇った。
バケツにザリガニをたくさん入れてニコニコと泥だらけになりながら歩いてくる近所のいつものメンバーに道で会った時、
『あれ?なんで僕だけ誘ってくれなかったの?』
っていう、あん時の歯がゆさ、苛立ち。
ラルスは地団駄を踏んで泣きたいような気分だった。
叫びたかった。
牛丼~~~~!!!
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