そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「どうやらあの人はこっちに来てないみたいね」

 ヴェリタスはリーヴィアとジャンと居酒屋〝どん底〟でシードルの瓶を傾けながらヤレヤレと息を吐いた。

「あっちでもこっちでもあの人の嫌味を聞かされるのは勘弁だもんね」

 リーヴィアも軽く笑う。

「どうする?これから。僕ちょっと小腹すいてんだよね」

 そんなジャンの控えめな誘い文句に、

「深夜まで営業してるラーメン屋があるのよ」

 と新たに発見した店のことを自慢気に紹介するリーヴィア。

「ラーメン?」

「牛丼に勝るとも劣らない究極のグルメを発見したのよ」

「牛丼と張る?」

 ヴェリタスとジャンの期待が爆上がりしたところで三人は〝どん底〟を後にした。

 酔っ払いがフラフラ歩く路地裏を歩いていると、なにやら言い争う声が聞こえる。

「だから、小切手で払うっていってるでしょ!!」

「お嬢ちゃん、そんな玩具おもちゃは使えないよ」

「私を誰だと思ってるのよ!!」

 嫌~な予感のしたリーヴィア達三人は互いに顔を見合わせた。

「・・・えっと、今日はラーメンはやっぱり止めて、いつも通り」

「・・・牛丼?牛丼にする?」

「・・・牛丼で」

 そ~っと来た道を戻ろうとしたところで、

「あっ!!やっと見つけた!!

 アンタ達一体どこに居たのよ!!

 探したじゃない!!

 ちゃんと迎えに来なさいよねっ!!

 全く気が利かないったら!!」

 とコリーナが叫びまくった。

 一瞬走って逃げようかと思った三人だったが、いくらあまり仲の良くないお友達とはいえ、さすがに初めての異界に置き去りにするわけにもいくまい、と思い直し騒音の発生源まで歩いて行った。

「まるで話が通じないのよ」

 コリーナは土産物屋の店先で店主を非難するような言葉を発した。

「小切手で払うって言ってんのに。小切手も知らないのかしらねぇ?」
 
 自分が他人のフィールドに入っているのに相変わらず自分の常識を押し通そうとするのみならず相手を馬鹿にするような発言までしている。

 昼間ドロップを渡す際にした忠告は全く届いていなかったのだな、と頭を振りながらジャンは店主に非礼を詫びて代金を支払った。 

 そうまでしてコリーナが買った物(この場合実際に買ったのはジャンだが)というのが、どうしてそれが欲しいのか全く理解ができない不細工な木彫りのクマだったことが更にジャンを脱力させた。

 すっかり気分を削がれた三人が立ち尽くしていると、

「アンタ達が言ってた通り私達の町に似てるけど色々違うみたいね!」

 とコリーナ一人が興奮し、

「で?で?これから何処に行って何するの?」

 と騒がしい。

「・・・ラーメン行こうかと思ったんだけどさ」

 仕方ないのでリーヴィアが答える。

「ラーメン?なにそれ。それより牛丼ってのにしない?美味しいんでしょ?美味しいって言ってたじゃない」

 と勝手に決めてしまった。

 仕方なく牛丼屋に行くと、団長とゾーイが来ていた。

 「なんか小汚い店ね~」

 と言うコリーナの口を塞いでやりたい衝動を抑えつつ、リーヴィアは団長に、

「実は〝月光騎士団〟の作者に会って来たんです」

 と報告した。

 団長とゾーイの表情に緊張が走る。

「作者さんは20年前の〝月光騎士団〟の団長さんでした」

 団長とゾーイが驚きで無言になる。

 しばらくの無言の後、

「・・・生きておられたのか・・・」

 団長の目から一筋の涙が流れた。


 
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