そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「あのぅ・・・ミスティック、はなんとなくわかるんですけどKってイニシャルかなんかですか?」

騎士ナイトのkだ」

「「「・・・・・・・・・・」」」

「「「・・・・・・・・・・」」」

「なんか言わんか!」
 
「・・・えっと・・・あの・・・もしかして貴方は元団長さん?」

 ジャンが恐る恐る尋ねると、

「いかにも。私が20年前にマルム・マールムによって壊滅させられた月光騎士団の元団長だ」

 悲哀に満ちた表情で団長は項垂れた。

「では、小説の月光騎士団の物語は?」

「王家を救えなかった私の哀れな夢物語よ」

「「「・・・・・・・」」」

「王家を護れず仲間も死なせてしまった俺も自害しようとした。
 その時、月の女神エストが光に包まれ顕現したのだ。
 そして私に〝生きよ〟と生きてリュネールの恩寵を賜いし幼子の魂をかつて袂を分かいしリュネールの子孫に送り届けよ、と。

 あ、リュネールってのは女神エストからの特別な恩寵を賜った者に与えられる称号みたいなもんね。本来。

 だからリュネールを家名にして名乗ってるの見て、正直ちょっと・・って思ったんだけどさ、まあ、お陰で簡単に姫の血族見つけられたんだけどね」

「「「・・・・・・・・」」」

「姫君」

 Kはリーヴィアを見つめて言った。

「いや、私は姫君なんかじゃありません。リーヴィアとお呼びください」

「・・・では、・・・リーヴィアと呼ばせていただくが。

 そなたのご両親は詐欺師を見るような不審な目を私に向けておって、それが少々不満ではあったのだがな、とにもかくにも間違いなくリュネールの血族に姫君を託すことは出来た、と、それだけは安心したのだ」

 元団長ミスティック・Kは遠い目をした。

「私は自分の力不足の為にそなたから幸せな家族を奪い、月の女神エストから賜いしリュネールという特別の恩寵を以って全国民から崇敬される未来をも奪ってしまった」

「悪いのはマルム・マールムでしょ?
 団長さんのせいではないわ」

 団長は涙の滲む目でリーヴィアを見つめた。

「それに私、今の両親の元に生まれて幸せに育ちましたし、まあ、学校でイジメられたりとかはありましたけど」

 そこでコリーナが、なによぉ!と睨んできた。

「とにかく元団長さんのお陰で今の自分があるのなら、お礼を申し上げなければなりませんわ」

「姿形は変わろうとも、内に宿る慈愛の心は美しいままであったか」

 元団長は孫を慈しむような目をリーヴィアに向けた。

「・・・褒められたんだよね?・・・なんか若干カチンときたんだけど」

 リーヴィアがヴェリタスに囁くと、

「気のせい、気のせい」

 という返事が帰って来た。


「そして私は実現できなかったマルム・マールム討伐の物語を書くことで隠遁生活を送っているのだ。
 情けないことよの」

「団長さん。〝あっち〟には団長さんに感銘を受けて団長さんの意志を継ぐべく頑張っている新しい団長さんがいます!
 団長さんがなさったことは決して無駄ではありません!

 新しい団長さんの下、行方不明の姫を探し出してアステール王家の再興を目指している人達がいるんです!

 二人だけど」

「・・・そんなことが・・・」

「団長さんが〝あっち〟に戻れば彼らの助けになるんじゃないでしょうか?」

「・・・私はもう、向こうには戻れないんだよ。

 戻れたとしても死んだ彼らと彼らのご家族に会わせる顔がない」
 
 団長は俯いて涙をポトリと落とした。

「・・・突然押しかけて来て、傷を抉るようなことをしてしまい申し訳ありませんでした」

 ジャンがすまなさそうに言った。

「でも、厚かましいお願いですが、できればこれからも相談にのってもらえないでしょうか?」

 元団長は涙を拭い軽く笑うと、

「もちろんだよ」

 と立ち上がるとデスクまで歩いて行ってメモした連絡先を渡してくれた。

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