そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「あの、・・・僕はヤーノシュではありません。
 ジャン・ディドロと申します。

 本日はお忙しい中お時間頂きましてありがとうございます」

 と挨拶した。


「・・・そうだよな。

 ヤーノシュがこんなに若いわけはないもんな」

 ミスティック・Kは寂しく笑ってから、

「それで君達は何の用事なんだね?サインならしてやるからさっさと帰ってくれないか?」

 と気難しい顔を見せた。


「あの、僕達〝あっち〟に行ったんです!あっちで団長とゾーイさんに会いました」

 ミスティック・Kは怪訝な顔をジャンに向ける。

「だけど何もかも原作とは違っていて、〝あっち〟の世界ではマルム・マールムが政権を摂っていて王家は壊滅させられていました。
 新たに結成された〝月光騎士団〟は団員たったの二人の開店休業状態。
 
 これは一体どういうことなのか、貴方は何かご存知なのではないかとお話を伺いに上がったのです」

「・・・それは本当なのか?〝あっち〟に行ったというのは?」

「はい」

「どうやって?」

「リーヴィアが。リーヴィア・リュネールが眠りの中から〝あっち〟へ行く道を開いたようです」

「リーヴィア!ああっ!姫様!お元気であらせられましたか!!」

 姫?!そこにいたミスティック・K以外の全員が『なんのこっちゃ?』と思った。

「しかしてリーヴィア様は?」

「一緒に来ています」

 嗚呼!!感涙に咽びながら近づいて来たミスティック・K(名前書くの面倒になってきたな)は、コリーナの前に進み出ると跪いた。

「月の女神エストのご加護を受けし麗しき姫君」

「「「違う違う違~う!!」」」

 なんのことやらサッパリで置いてきぼりのコリーナ以外の三人がミスティック・Kに突っ込む。

 んんっ、と一つ咳払いをしてリーヴィアが一歩前に出る。

「私が。

 私がリーヴィア・リュネールです」


 ポカンとするミスティック・K。

「・・・えっ・・・と・・・リーヴィア姫は月の女神のご加護を受けし類まれなる美貌の・・・そのプラチナブロンドは蒼き月のように輝き、澄んだ瞳は海よりも青く・・・」

 ブツブツと呟くミスティック・K。

「あの・・・・あの・・・」

 話かけるリーヴィアの声はミスティック・Kには届いていない。

「あの!おっさん!!」

 ハッとして振り返るミスティック・K。

「リーヴィア姫が居なくなったのは20年前ですよね?その時何歳だったのかは存じてませんが、私は18歳。今年中に19歳にはなりますが、どっちにしろ同一人物ではありえませんね」

 ミスティック・Kは、

「あっ、そうだった」

 と言った。

「随分前のことだから忘れてたけど、あの時、俺は月の女神エストのご加護で〝こっち〟に飛ばされた。
 その時、なんとかリーヴィア姫の『魂』だけは宝箱に封印して持ってくることができたんだ」

 全員がキョトンとしている。

「そして、私はかつて〝あっち〟から〝こっち〟に来たリュネールの末裔であるリュネール家に行き、姫の魂を受け取って貰った。
 結婚後3年経っても子供が出来ずに悩んでいた夫婦はリュネールに伝わる〝伝説〟には懐疑的ではあったが、それでも子宝に恵まれるかも知れないとなれば藁にもすがる思いだったのだろうな。
 そうして生まれたのが君だ」

「・・・じゃあ、私の中には20年前に亡くなったリーヴィア姫の魂が入ってるってこと?」

「そうだ」

「「「「・・・・・・・」」」」

 一同沈黙。コリーナに至っては

 『こいつら一体なんなんだ?きっしょ…状態』

「その時私は生まれてくる赤児の加護を女神エストに祈った。

 美しすぎる容貌は不幸を呼び起こすかも知れぬゆえ、凡庸な目立たぬ容姿にしてください、と。

 すっかり忘れておったわ」

「ちょ、ちょっと!!

 ふざけないでよ!!

 それのどこが加護よ!!

 呪いじゃない!!」

 リーヴィアが叫びヴェリタスとジャンとコリーナがプッ!と吹いた。

「そんな加護要らん!

 ってか本来の加護を返せ!

 私の美貌を返せぇ~!!!」
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