そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 〝月光騎士団〟の作者の元に向かうコリーナ・ダ・シルバの黒塗りの高級自動車の中で、リーヴィア以下三人はひとしきりコリーナの口上を聞かされた。

「一介の流行作家ごときに私が会えないと本気で思ったわけじゃないわよね?」

 チロっとコリーナに横目で睨まれたジャンが、

「スゴイよ、ダ・シルバさん。流石はダ・シルバさんだよね。出版社の中でもトップシークレットで、極上層の限られた人しか会ったこと無いんだって。
 そんな人と簡単に会えるなんて、やっぱりダ・シルバさんはお嬢様の中のお嬢様。Theお嬢様なんだね」

 と褒め称える。

 それに続けてヴェリタスとリーヴィアが、

「「ビバ!ダ・シルバ!ビバ!ダ・シルバ!ダ・シルバ・グループに栄光あれ!」」

 
「・・・ちょっとアンタ達、馬鹿にしてんでしょ?」

「「「滅相もない」」」

 車は海岸線の崖道を高度を上げて進んで行く。


「ふーん。本が売れてお金はあるだろうに、わざわざこんな辺鄙な所に住んでるんだから相当の変人なんでしょうね~」

 コリーナは馬鹿にしたように呟いてから、

「読者も変人だし」

 と笑った。


「紹介状さえいただければ、お忙しいのにワザワザ付いて来てもらわなくても良かったんですけどね」

 敬愛するミスティック・Kを馬鹿にされてお冠のヴェリタスがちょっとムッとした調子で言うと、

「アンタ将来弁護士目指してんでしょ?
 すぐ感情的になったら失格~」

 と更に馬鹿にしてきた。

「だいたいさあ、ミスティック・Kてペンネームからしてヤバくな~い?」

 ケラケラ笑っているコリーナは本当になんでついてきたのだろうか、とリーヴィアも忌々しい気分になったが、まあ、こんな僻地に自分達の力だけで来るとなると自動車をチャーターしたりなんだり大変なことに違いはないのだから我慢我慢。


 そうして一行は荒々しい外海を一望できる絶景の断崖の上に佇む〝作者〟の邸宅に到着した。

 青い空と海に映える白亜の邸宅は過度な装飾を排した直線的な造形のモダンな造りだった。

 ジャンが呼び鈴を鳴らすと中年の男性が出てきて、

「ご主人様はご多忙につき、あまり時間はとれませんので悪しからず」

 と開口一番無愛想に言った。

 四人は男に案内されて邸内を進んで行った。

 一つの扉をノックし、お客様がお見えです、声を掛けると四人を中に入れてそのまま立ち去ろうとする。

 コリーナは先ほどの男の態度が癇に障ったとみえて、

「外の車に運転手がいるから彼が休息できる部屋とお茶を用意して」

 と高飛車に言った。

 男は少し嫌そうな顔をしたが、ダ・シルバの総裁の娘の直々の希望がこの面会をゴリ押しさせたことを聞いているのだろう、

「かしこまりました」

 と礼をして廊下を戻っていった。



 
「出版社がどうしてもと言うから仕方なく受けたが、生憎私は多忙でねぇ、その上人嫌いときている。
 話は手短に頼むよ」

 神経質そうに言いながら振り向いた長身の男性はジャンを見るなり息を呑んだ。


「・・・ヤーノシュ・・」


 男性の背後には大きなガラス窓に切り取られた青い海に白波が立っていた。

  ドドンパ!!


 男性とジャンが見つめ合う。



 リーヴィアとヴェリタスは、

 『またかよ』

 と思った。
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