そして私は惰眠を貪る

猫枕

文字の大きさ
上 下
48 / 62

48

しおりを挟む
 腹痛で苦しむラルスを捨て置いて、リーヴィアはさっさとヴェリタスとジャンに会いに行った。

「出版社に問い合わせてみたんだけど、まったく相手にされなかったわ」

 ヴェリタスはカップの中をシナモンスティックでかき回しながら口を尖らせた。

「まあ、そうでしょうね。メディアにも今まで一切露出してないしね」

「本名は何と言うのか、男性なのか女性なのか歳はいくつなのか、一切わからないんだって」

「〝月光騎士団について是非作者様にお知らせしたいことがある〟とか、〝20年前に消えた姫君のことで〟とか出版社の人に伝言して貰えばなんとか会えないかな?」

「また頭のオカシイのが来た、で終わりだよ」

「〝僕も騎士団の団員になりたい〟、とか、〝マルム・マールムのアジトを発見した〟とかって押しかけて来るヤツが後を絶たないんだって。
 あんまりしつこい人は速やかに警察にお引き取りお願いしてるって言ってたよ」

 3人はうーんと腕を組んで考え込んだ。

「なんかさ、どんなVIPでも簡単に会えるような圧倒的な権力を持った人とかいないかな~?」

 「「「ん?」」」

 3人は互いに顔を見合わせた。









「で?私に何の協力をしろっていうの?」

 ソファにふんぞり返って脚を組むコリーナ・ダ・シルバは崩れた姿勢が尚一層退廃的な優美さを醸していて、最後に会った時より更に美しくなっていた。

 入学するのに学力は必要無いが、強力な親の権力か財力を必要とする超お嬢様大学スカラ・デ・ロッサの校門前でコリーナを張った三人は危うく警備員によって警察に突き出されるところをコリーナに救い出された。

「アンタ達がブタ箱で一夜を明かそうと私には何の関係も無いんだけどさぁ」

 悪ぶって言ったコリーナは高級ホテル、ザ・タワーの自分専用のスウィート・ルームでリーヴィア達三人にシャンパンを勧めた。

「でもま、知らない仲じゃないし、石の下のダンゴムシみたいに何ゴソゴソやってんのかな?って思ってさ」

「助けてくれてありがとう」

 微笑むジャンに、

「アンタ達、まだ一緒につるんでんだ~。他に友達いないの?」

 と言ったコリーナはどこか羨ましそうにリーヴィア達を見ていた。

「大学生活はどう?新しい友達はできた?」

 リーヴィアが聞くと、

「あったりまえでしょ?あんなトリニティみたいな一般人の行く学校と違って、セレブリティの子女ばかりが集う学校なんだから。品格が違うのよ」

 と艷やかな髪を美しい指でクルクルと巻きながら言った。

「で、一般人のアンタ達が身の程知らずにもこのコリーナ・ダ・シルバに何の頼み事があるっていうのよ?」

 相変わらずの尊大な態度にうんざりしながらヴェリタスがお願いする。

「私達、〝月光騎士団〟の作者に会いたいのよ」

「え~。オタクもここに極まれりって感じね」

「出版社にも行ったんだけど門前払いで」

「ププッ・・・そりゃそうでしょ」

 コリーナは馬鹿にしたように笑った。

「だけど、そんなくだらないお願いならお断りするわ」

「「「・・・・・・」」」

 コリーナはがっかりする三人を満足そうに眺めてから、

「なんかもっと面白い話かと思ったのに、残念~」

 と組んだ両手を上に上げてファ~っと伸びをした。


「・・・さすがにダ・シルバさんでも無理だよね?」

 ジャンの言葉にコリーナがピクリと反応する。

「いくらダ・シルバさんが大企業のお嬢様だからって、ダ・シルバさん本人に権力があるわけじゃないもんね」

 まあ、なんのかんの言ったって偉いのはコリーナの父親であって、別にコリーナが偉いわけでもなんでも無いもんね、とリーヴィアとヴェリタスがヒソヒソする。

「ちょっと!失礼じゃないの!」

「ゴメンゴメン、いくらダ・シルバさんだって、あの謎の作家に会えるコネクションなんかあるわけ無いのに。

 僕達一般人は、つい大金持ちの人はどんなことでもできるって幻想を抱いちゃう。

 ホント、待ち伏せなんかして迷惑までかけて申し訳なかったよ」

 ジャンはリーヴィアとヴェリタスに席を立つように目配せする。

「シャンパンごちそうさま」

 三人が席を立とうとするとコリーナが怒ったように言った。

「ちょっと待ちなさいよ!!

 アンタ達、私を誰だと思ってるのよ!!

 天下のコリーナ・ダ・シルバを舐めてもらっちゃ困るわ!」


 ソファに座り直しながらジャンはコリーナに見えないように俯きながらニヤッとした。
 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

処理中です...