そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「早速読ませてもらったのだが」

 数日後、再び夢の世界で再開したヴェリタスとジャンに水路沿いの茶店で緑茶をすすりながら団長は神妙な顔で切り出した。

 リーヴィアは、もうすっかりこっちの人間のようになっていて、我が物顔で茶店の菓子についてあれこれと偉そうに蘊蓄を語っていた。

「確かにこの話の中には俺とゾーイらしき人物、それからヤーノシュやヴィリーも出てくるのだが、現実とはまるで無関係のように見える」

「そうなんですか」

「俺を含めて7人の仲間がエスト山で女神に祝別された、などという事実はない」

「じゃあ、20年前にマルム・マールムによって倒されたという前騎士団の話なのでしょうか?」

「それも違うと思う。前騎士団はかなり昔から存続していたものだし、むしろこの国の創世神話に近い気がするんだ」

「なるほど」

 訳が分からない、という顔をする団長の横でゾーイは、

「だけど俺達が大活躍する物語なんて読んでてスカッとするよな?」

 と嬉しそうだ。

「ヴィリーが犬に追いかけられてマンホールに落ちるところなんて腹抱えて笑っちまったよ!
 『なんでぇ~?!』って叫びながら下水に流されていくんだぜ?
 最期の言葉が『なんでぇ~?!』って」

 ゲラゲラ笑うゾーイを団長は若干引き気味に見ている。

 かつての仲間に対して多少は思うところがあるのだろう。

「ゾーイさんの決め技もカッコイイですよね!」

 若干微妙になった空気を和ませようとジャンが話を振る。

    
「ムーンライトスラッシュ、とはどんな技なんだ?」

 ゾーイは自分の得意技についてジャンに質問した。

「えっと、剣を天に向けて月のパワーを集めて」

「こう?こう?」

「それで丸~く円を描くように、ムーンライトぉ~」

「こう?こう?」

「いや、もうちょっと重心下に持ってって、ちょっと貸してください」

 ジャンがゾーイの剣を借りて芝居小屋で俳優さんがやるのを真似て何度も自分の部屋で練習を重ねた形を見せる。

「ライトぉ~、のところでこう!」

「こう?」

「そう!」

 やってみて、とジャンに言われたゾーイがムーンライトぉ~、と言いながら剣を天に掲げ、そこから満月を模して一周させる。

「そんで、そこから」

「スラッシューーー!!」

 するとゾーイの剣から青白い閃光が発せられて地面を伝った光が水路に達してボンっ!!と爆発を起こした。

 水柱は30メートルほどの高さに達し、周囲から悲鳴が上がり人がわらわらと集まってきた。

 平静を取り戻した水面にはショックを起こしたらしい魚がたくさん浮かんでいた。

 なんだ、なんだ、とザワザワする中

「取り敢えず逃げよう」

 という団長の一言で一同は混乱に紛れて逃げるようにその場を去った。

 正義の味方どころか悪事がバレないようにコソコソと逃げ惑う小悪党のようだ。


 公園の噴水広場の前まで来て、やっと一息つくと

「さっきのアレはなんだったんだろう?」

 とゾーイの繰り出した技について皆でヒソヒソした。


「・・・なんだか分からないけど、私達の世界の〝月光騎士団〟の物語とこの世界の月光騎士団がまるっきり無関係ってわけでもなさそうじゃない?」

 ヴェリタスが言うと皆も、そうだな、と頷いた。

「何か、なんだかは分からないけれど何事かが起こる兆しのような気がする」

 団長がちょっとカッコつけた言い方をする。
 真剣な眼差しで深く頷く一同(リーヴィアを除く)を前にして『俺って本物の騎士団の団長っぽくね?』と気を良くした団長が、

「新たなフェーズに入っているような気がする」

 と重々しく言ってみた。

 前から一回言ってみたかったけど使う機会がなかったフレーズだ。

 みな一様に緊張したような面持ちで団長を見つめている(リーヴィアを除く)。



 
「そんなの作者に聞けばいいじゃない?」

 逃げる時にしっかり団子の串を握って来たリーヴィアは一人だけ呑気に団子をモグモグしながら事も無げに言った。



 
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