そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「で、君達はどうやって〝こっち〟に帰って来たの?」

 ラルスがヴェリタスとジャンに疑問をぶつける。わからないことばかりだ。

「・・・それがよく分からないんだ」

「〝月の雫本舗〟で買い物して、〝どん底〟あ、〝どん底〟ってのはリーヴィアの行きつけの大衆居酒屋らしいんだけどね」

 『知ってる』

「で、どん底でシードル飲もうって話してたら突然濃い霧が立ち込めて、リーヴィアが見えなくなって」

「気がついたら自分の部屋で目覚めたんだ」

「で、枕元にパコちゃんが座ってた」

「僕もなんだ」

「で、大学で落ち合って二人で話たんだけど、あっちで体験したことは全部一致したの」

「やっぱり僕達本当にあっちの世界に行ったみたいなんだ」

「牛丼の味が鮮明に残ってたもん」

「すごく美味しかったよね」

 ねっ、と頷き合う二人が憎らしいラルス。

 俺だって牛丼が食べてみたいのに。



「まあ、問題は私とジャンがまたあっちの世界に行けるのか、それとも一回きりの偶然のチャンスみたいなものだったのか、ってのが気になるところなのよね」

「うん。なんかリーヴィアはあっちでアパートなんかも探してるみたいでさ、本格的に定住を画策してるっぽいんだよね」

「あっちに無い物をこっちから持って来て売って、こっちに無い物をあっちから持って来て売れば、とか、商売人の面構えになってきてたわよ」

「異世界貿易」

『・・・帰る気が無い・・・まあ、そうだろうな。そう思われても仕方ないよな・・・』

「・・・でもさ、もし、もしよ?このままリーヴィアがあっちに居続けた場合さ、何年とか何十年とか。
 こっちの肉体はどうなるんだろうね?」

 ラルスの声が不安そうに震えていた。

「「・・・・・それはなんとも」」

 

 その夜ラルスからショルダーバッグの話を聞いた二人は必要そうな物を鞄に詰めて枕元に置いて寝た。

 上手いことリーヴィアに会えるかどうか確証はなかったが、もしもあっちに行けた時買いたい物も沢山あったからとりあえずお小遣いは持って行くことにした。








「やだ~。アンタたちどこに行ってたのよ~。急に消えちゃうからさ~」

「向こうに戻っちゃったみたい」

「いつも通り大学行って授業も受けて来たよ」

「そうなんだ~。なんか時間の流れが違うのかなあ?」

「それは分からないんだけど、そうそうラルスがお土産喜んでたよ」

「良かった~」

「パコちゃんが気に入ったみたいだったよ」

 探しに行った居酒屋どん底でリーヴィアは牡蠣のコキールを肴にシードルを飲んでいた。

「こんな小汚い店で牡蠣なんか食べちゃって大丈夫なの?」

 ジャンが心配そうに小声で聞く。
 三人の中で唯一の男の子だが、その実一番繊細な感性を持ち合わせている。

「火通ってるから平気でしょ」

 ヴェリタスは勧められるまま何の躊躇もなく食べていたが、ジャンは困ったような顔をしていた。

 するとそこに仕事を終えた団長とゾーイがやって来た。

「なんだ、お前たちまだいたのか?」

「一回向こうに戻ったんですけど気がついたらまたこっちに来てて」

 ヴェリタスが言うと団長とゾーイは、まただよ、というような顔をする。

「あの、何かヒントになればと思いまして」

 ジャンがそう言うとバックパックから本を差し出した。

「これは?」

「月光騎士団の第一巻です」

「これに俺達の事が書かれているってことなのかい?」

 ゾーイが期待と疑惑の入り混じったような顔をした。

「はい。これを読んでいただければ現在起こっていることと、小説の違いがハッキリするんじゃないかと思いまして」

「そうだよ!こういうのが欲しかったんだよ。ドンコの言う事は要領を得ないというか、何を言ってるのかサッパリだったからね。
 君は顔だけでなく理性的で理知的なところもヤーノシュに似ているね。
 会えて嬉しいよ」

 団長がジャンに笑いかける。


「私は?私にも会えて嬉しいでしょ?」

「・・・あ・・・・うん。・・・ドンコは・・・なかなか面白いヤツだな」

 言葉を濁した団長は、取り敢えずジャンから借りた本をじっくり読ませて貰うよ、と受け取った。


 
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