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しおりを挟む「ちょっ、ちょっと待ってください」
這々の体で団長の力強いホールドから抜け出たジャンは、
「僕はヤーノシュじゃありません。
ジャン・ディドロと申します。始めまして」
と挨拶した。
えっ?とジャンを離した団長は、まじまじとジャンを見ると、
「ヤーノシュじゃないのか・・・」
がっかりした顔で肩を落とした。
ゾーイも一緒になってジャンがヤーノシュそっくりだと驚いている。
「えっと、こちらは私のお友達の月光騎士団の団長さんとゾーイ」
微妙になった空気を明るくしようとリーヴィアが元気な声でヴェリタスとジャンに団長とゾーイを紹介した。
「私はドンコの友達だったのか?」
団長は首をかしげ、
「ドンコ!なんで俺は呼び捨てなんだよ!」
ゾーイは不服そうだ。
「ドンコ?って何?リーヴィアのこと?」
ジャンの疑問にリーヴィアが
「それについてはちょっと複雑な事情が」
と言いかけたところで、
「コイツ牛丼ばっか食べてるからさ~牛丼のドンコ」
とゾーイがさっきの仕返しとばかりに馬鹿にした。
「牛丼の話はリーヴィアから聞いてるわ。
凄く美味しいって、私も食べてみたかったのよ」
ヴェリタスが言うと、
「しかしてそなた達は誰なんだ?」
と団長がもっとも至極なことを言い、ヴェリタスとジャンは改めて挨拶をした。
「で、そなた達も〝ここではない別の世界〟から来たと?」
団長はまだ信じられない様子だった。
詳しい話は牛丼を食べながら、ということになり場所を移す。
「ホントに美味しいわね~」
「でしょでしょ?」
リーヴィアは自分が牛丼の発案者であるかのようにヴェリタスとジャンに自慢した。
「ところで団長さん、他のメンバーはどうされたんですか?」
ヴェリタスの質問に団長は何のことだと訝しがる。
「他のって、ヤーノシュとははぐれてしまったし、ヴィリーはあっち側についてしまったから残っているのは俺とゾーイだけだが?」
「え?ほら、チャンドラー、シーラ、ブレンダン、アレンよ。それと団長、ゾーイ、ヤーノシュで7人の聖騎士じゃない!」
「なんだそれは?」
「え~!7人の騎士が月の女神エストの神託を受けて聖なる7騎士として月光騎士団を率いていくのよ。
そして悪の組織マルム・マールム(悪のリンゴ)の悪巧みを毎回阻止して世界を平和に導くのよ」
「・・・毎回?」
「そうよ。〝エスト山の誓い~俺達は永遠に友達さ~〟編とか、〝対決!偽騎士を追え〟編、とかさ〝腐った茹で卵は臭い〟編とかさ」
「なんか、微妙に題名がダサいんだが」
「それは本当に人気小説なのか?」
「人気よ!団長役の俳優さんなんか女のコ達がキャーキャー言って道を歩くのも大変なんだから」
「ほ、・・・・へぇ~・・・そうか」
団長は照れて顔を赤くしている。
「お、俺は?」
「ゾーイは、コアなファンがついてるわね」
「なんだよコアなファンって!」
「なんかちょっと個性的なカンジの子たちに人気っていうか」
「他に褒めようの無い時に使う言葉だろうがっ!個性的って!」
「フェアとかでグッズ販売すると、団長とヤーノシュはすぐ売り切れるけど、ゾーイのは固定したファンが一人で何個も買ってくってカンジ」
「なんだか、その、別の世界というのは良いところのようだな」
「どこがだよっ!!」
それから配管工事のバイトが入っているという団長とゾーイと別れてリーヴィア達三人は〝月の雫本舗〟に行った。
ヴェリタスとジャンは何度も、
「これは夢なのかなあ?それとも本当に〝あっちの世界〟に来ちゃったのかなあ?」
「ここにいるんだから〝あっち〟じゃなくて〝こっち〟じゃない?」
などと繰り返していたが、
「じゃあさ、起きた時に話が合うかどうか確かめようよ」
となった。
「でもさ、夢って起きたら忘れちゃわない?」
「じゃあ、リーヴィアみたいに何か持って行けるか試してみようよ」
そしてヴェリタスとジャンは牛丼に引き続きお菓子屋でもリーヴィアに奢ってもらって、ラルスにお土産を買うことにした。
そうして買ってきたのが〝あっちの世界〟で女子に人気のアイテム、〝パコちゃん〟だった。
頬の部分をつまむと口がパクパクしてパコパコ音がする、という〝こっちの世界〟の人間からしたら何か現地の人々に刺さっているのやら理解に苦しむ代物であった。
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