そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「・・・それってリーヴィアが出てくる夢を見た、とか、そんなこと?」

 ラルスは動揺を隠せない。

「違うんだ。僕達二人共あっちの世界に行ったんだよ」

 ジャンとヴェリタスは互いに、ね?っと顔を見合わせて頷き合っている。

「リーヴィアは?」

「今朝はまだ眠ってた」

「じゃあ、まだあっちに居るんだ」

 二人はあーだこーだと二人だけで話し始める。

「あ、あのさ。もうちょっと俺にも分かるように話してくれる?」

「あーゴメンゴメン。
 私達も最初はリーヴィアの話が印象深すぎて影響されて夢に見たんだと思ったの」

「だけど夢にしちゃ明瞭すぎるし、リーヴィアは僕達が来たって喜んでるし、それで試しに何か持って帰ろうって話になって」

「で、朝会って答え合わせしたら、全部ピッタリ合ってて。やっぱり私達が向こうに行ったのは間違いないだろうってことになって」

「・・・どうしてそんなことになったんだ?」

 未だ二人の言うことがイマイチ理解できないラルスが疑問を投げかける。

「そこなんだけどさ。
 実は昨日、私達リーヴィアに貰った向こうの飴を食べちゃったんだよね」

『知ってるけど。羨ましかったけど。俺だって食べたかったけど』

「それが原因としか考えられないんだ」

「どういうこと?」

「いろんな神話とか言伝えとかで、異界に行った時にそこのものを食べると帰れなくなっちゃう系の話って割とあるあるなのよ」

「ちょちょちょちょちょちょ・・もうちょっと分かるように説明して」

「え?だから、リーヴィアが持ってきた飴食べたから向こうに行ったのかな?って。メカニズムは私達にもわかんないよ」

「・・・向こうの物を食べたからか・・・なるほど・・・・ってちっともわかんないけどさ、さっき君達何か持って来たって言ってなかった?」

「そうそうそうだった」

「ラルス君にお土産持ってきたんだよ」

『待ってました~!』

「ハイ」

 ヴェリタスがくれたのは小さな人形だった。
 紐が付いていて鞄か何かにぶら下げるようになっている。

「・・・えっと、これは?」

 戸惑うラルスにヴェリタスは得意気に言った。

「〝月の女神本舗〟って人気のお菓子屋さんがあってね、〝月の雫ドロップ〟とか有名なんだけど。そこの会社のマスコットキャラクターの〝パコちゃん〟人気なの」

「・・・へ、・・・へぇ。そうなんだ。ありがとう」

 次はジャン。

「僕も同じく〝パコちゃん〟のキーホルダーで~す!」

 ニコニコしている。

「なんてったって限定グッズだからね。
 もうね、それ付けてたら女のコ達に大人気でモテモテなんだよォ~。
 ま、向こうの世界の話だけど」

 ねっ、とか言いながらヴェリタスとジャンが相槌を打っている。

 若干イラッとくる。

「そ、それは珍しい物をありがとう」

『そこは普通に〝月の雫ドロップ〟でいいだろう?
 パコちゃん要らん!

 オパール色に輝く女神のドロップを食べてみたかったのにぃ。

 俺だって、あっちの世界に行ってみたい!』

「し、しかし君達は問題なく目覚めたんだよね?」

「うん。ちゃんといつもの時間に起きたよ」

「あっちでもこっちでも動き回って、いわば眠ってない状態だと思うんだけど、体の方は大丈夫なの?」

「それが不思議なんだよな。ちっとも疲れて無いんだ」

「そうなのよ」

「・・・君たちは目覚めるのにリーヴィアは何日も眠り続ける。・・・この違いは何なんだろう?」

「・・・そこね。私達も考えたんだけど、一つにはリーヴィアがあっちで何やかんや食べまくってるから、かな?とも思うし、」

「向こうには美味しい物が色々あるもんね」

「牛丼とかね」

 ジャンがニコニコしている。

「もう一つは、リーヴィアがよっぽど現実世界に帰りたくないのか」

「・・・・・・・・」

「今のところ考えられるのはそのくらいかな?本人にもわからないって言ってたし」

「・・・・・・・・」


 よっぽど帰りたくない。

 よっぽど帰りたくないのか・・・だろうな・・・。

 ラルスはそこはかとなく傷ついた。
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