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「やっぱり窓の外に花台がある部屋がいいのよ~。女子の憧れ~」
団長とゾーイと連れ立ってアパートの内見に来たリーヴィアが一人ではしゃいでいる。
「朝、窓開けるでしょ?こーやってジョロでお花に水やってると町行く人達が『リーヴィアおはよう!』って手を振ってくれるの」
「ドンコおはよー」
「花を枯らす未来しか見えんが」
こっちの世界でも寝泊まりできる場所を確保したいというリーヴィアの希望で団長はリーヴィアの身元引受人になるべくアパート探しを手伝っているわけだ。
「もう三軒目だぞ。いい加減付き合う方も疲れるんだぞ」
ゾーイが寝る所なんてなんだっていいだろう、と投げやりな感じだ。
「私一人っ子だし、学校卒業と同時に結婚させられちゃったし、もう一生一人暮らしすることはないんだなって諦めてたんだもん。
やっぱり色々こだわりたいじゃない?」
「えっ?オマエほんとに人妻なんかよ。全っ然色気とかないけど」
「失礼ね~。とは言っても形だけの人妻だからしょうがないけど」
「前にヴァルノーがどうとかって言ってなかったか?」
「そうだよ。ヴァルノーの嫁だよ」
「「・・・・・・・・・」」
「なによ?黙っちゃってカンジ悪いの」
今の所紹介できる手頃な物件はこれくらいです、という不動産屋にお礼を言って別れ別の不動産屋に向かう途中、リーヴィアが舗道の段差に蹴躓いて転びそうになった。
「危ない!」
団長が支えようと腕を伸ばした瞬間、二人の目の前でリーヴィアが消えた。
「うわっ!びっくりした~!」
目覚めたリーヴィアは叫びながら飛び起きた。
「うわっ!こっちの方がビックリした~~!!」
心配そうにリーヴィアを覗き込んでいたラルスは飛び退いて心臓をバクバクさせた。
「え?なんでラルスが」
状況を理解するのに手間取ったリーヴィアが部屋をぐるっと見回してから、
「やっぱ帰って来ちゃったか~」
と残念そうに言った。
長いこと学校でしか会っていなかった暗いリーヴィアとはまるっきり違う人物のようだ。
「・・・帰って来た・・・とは?」
「・・・・・」
「あ・・・・の、贈り物は届いただろうか?」
「?」
「・・・ショルダーバッグに色々入れてみたんだけど」
「あれ!あれラルスが持たせてくれたんだ!ありがとう!」
ラルスは屈託の無い笑顔を向けられてむず痒いような恥ずかしいような気分になった。
「・・・でも、なんで?」
「・・・実は、リーヴィアが何日も目覚めないと知って心配になったんだ。
それで様子を見ていたら君が手にこの国では流通してない銅貨とシードルの王冠を握ってて」
リーヴィアは「ほぅ」と言いながら不思議な話でも聞いた時のような顔をしている。
ラルスは、『ほぅ、じゃねぇだろう。オマエのことだよ』と思いながら話を続けた。
「それでヴェリタスとジャンにも見て貰ったんだけど、やっぱり、何ていうかこの世界の物じゃないんじゃないかって」
「さすがヴェリタスとジャンだわ」
「・・・で、リーヴィアはちっとも目覚めないし、向こうの物を持ってたってことはこっちの物も持ってけないかなって。
向こうでどうしてるのか知らないけど、せめて暮らしに困ることがないと良いなって願ったんだ」
「ありがとう、ラルス。すごく助かった」
長い時を経ての和解の時が近づいているようだった。
「これがどういう状況で、これからどうなるのか分からないけど、俺は君の助けになりたいと思ってる」
「・・・ラルス」
ラルスがリーヴィアの両手を握って二人が見つめ合った瞬間。
昼間食った牛丼が胸にせり上がって来た。
リーヴィアは口を手で押さえて洗面所に駆け込んだ。
オェーっ!ウェーっ!
容赦なく嘔吐する音を聞きながらラルスの目に涙が滲んできた。
ひとしきり吐いて戻って来たリーヴィアがタオルで顔を拭きながら、
「ゴメンネ。でも、どうしてもラルスの顔見ると、あの日のことが蘇ってきて、あの臭いとか、口に広がった酸っぱい感じとか・・・」
言ってて更に気持ち悪くなったのだろう、リーヴィアはもう一度洗面所に駆け込んだ。
落ち着いたリーヴィアはすまなさそうにラルスに詫びた。
「ゴメンネ。なんか、もう、条件反射的にラルスの顔見ると嘔吐感が・・・」
お、俺は学園一のモテ男だったんだぞ!
今だって大学でもモテモテなんだからなっっ!
独身だったら間違いなくミスター・キャンパスなんだからなっっ!
ラルスの目尻に涙が光っていた。
団長とゾーイと連れ立ってアパートの内見に来たリーヴィアが一人ではしゃいでいる。
「朝、窓開けるでしょ?こーやってジョロでお花に水やってると町行く人達が『リーヴィアおはよう!』って手を振ってくれるの」
「ドンコおはよー」
「花を枯らす未来しか見えんが」
こっちの世界でも寝泊まりできる場所を確保したいというリーヴィアの希望で団長はリーヴィアの身元引受人になるべくアパート探しを手伝っているわけだ。
「もう三軒目だぞ。いい加減付き合う方も疲れるんだぞ」
ゾーイが寝る所なんてなんだっていいだろう、と投げやりな感じだ。
「私一人っ子だし、学校卒業と同時に結婚させられちゃったし、もう一生一人暮らしすることはないんだなって諦めてたんだもん。
やっぱり色々こだわりたいじゃない?」
「えっ?オマエほんとに人妻なんかよ。全っ然色気とかないけど」
「失礼ね~。とは言っても形だけの人妻だからしょうがないけど」
「前にヴァルノーがどうとかって言ってなかったか?」
「そうだよ。ヴァルノーの嫁だよ」
「「・・・・・・・・・」」
「なによ?黙っちゃってカンジ悪いの」
今の所紹介できる手頃な物件はこれくらいです、という不動産屋にお礼を言って別れ別の不動産屋に向かう途中、リーヴィアが舗道の段差に蹴躓いて転びそうになった。
「危ない!」
団長が支えようと腕を伸ばした瞬間、二人の目の前でリーヴィアが消えた。
「うわっ!びっくりした~!」
目覚めたリーヴィアは叫びながら飛び起きた。
「うわっ!こっちの方がビックリした~~!!」
心配そうにリーヴィアを覗き込んでいたラルスは飛び退いて心臓をバクバクさせた。
「え?なんでラルスが」
状況を理解するのに手間取ったリーヴィアが部屋をぐるっと見回してから、
「やっぱ帰って来ちゃったか~」
と残念そうに言った。
長いこと学校でしか会っていなかった暗いリーヴィアとはまるっきり違う人物のようだ。
「・・・帰って来た・・・とは?」
「・・・・・」
「あ・・・・の、贈り物は届いただろうか?」
「?」
「・・・ショルダーバッグに色々入れてみたんだけど」
「あれ!あれラルスが持たせてくれたんだ!ありがとう!」
ラルスは屈託の無い笑顔を向けられてむず痒いような恥ずかしいような気分になった。
「・・・でも、なんで?」
「・・・実は、リーヴィアが何日も目覚めないと知って心配になったんだ。
それで様子を見ていたら君が手にこの国では流通してない銅貨とシードルの王冠を握ってて」
リーヴィアは「ほぅ」と言いながら不思議な話でも聞いた時のような顔をしている。
ラルスは、『ほぅ、じゃねぇだろう。オマエのことだよ』と思いながら話を続けた。
「それでヴェリタスとジャンにも見て貰ったんだけど、やっぱり、何ていうかこの世界の物じゃないんじゃないかって」
「さすがヴェリタスとジャンだわ」
「・・・で、リーヴィアはちっとも目覚めないし、向こうの物を持ってたってことはこっちの物も持ってけないかなって。
向こうでどうしてるのか知らないけど、せめて暮らしに困ることがないと良いなって願ったんだ」
「ありがとう、ラルス。すごく助かった」
長い時を経ての和解の時が近づいているようだった。
「これがどういう状況で、これからどうなるのか分からないけど、俺は君の助けになりたいと思ってる」
「・・・ラルス」
ラルスがリーヴィアの両手を握って二人が見つめ合った瞬間。
昼間食った牛丼が胸にせり上がって来た。
リーヴィアは口を手で押さえて洗面所に駆け込んだ。
オェーっ!ウェーっ!
容赦なく嘔吐する音を聞きながらラルスの目に涙が滲んできた。
ひとしきり吐いて戻って来たリーヴィアがタオルで顔を拭きながら、
「ゴメンネ。でも、どうしてもラルスの顔見ると、あの日のことが蘇ってきて、あの臭いとか、口に広がった酸っぱい感じとか・・・」
言ってて更に気持ち悪くなったのだろう、リーヴィアはもう一度洗面所に駆け込んだ。
落ち着いたリーヴィアはすまなさそうにラルスに詫びた。
「ゴメンネ。なんか、もう、条件反射的にラルスの顔見ると嘔吐感が・・・」
お、俺は学園一のモテ男だったんだぞ!
今だって大学でもモテモテなんだからなっっ!
独身だったら間違いなくミスター・キャンパスなんだからなっっ!
ラルスの目尻に涙が光っていた。
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