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しおりを挟むあっちの物が持って来れるのなら、こっちの物を持って行くこともできるんじゃないだろうか?
未だ目覚めないリーヴィアを見下ろしながはラルスはそんなことを考えた。
目覚め無いリーヴィアの話を聞いた時のヴェリタスとジャンの表情には口にこそ出さないが絶望的な不安が浮かんでいた。
『そのまま目覚め無い期間が長くなっていくと、最終的にリーヴィアはそのままこの世の住人ではなくなってしまうのではないか?』
そしてそれはそのままラルスの不安でもあった。
なんの落ち度もないリーヴィアが将来の夢も希望も打ち砕かれて、外界とも遮断されて夢の世界に逃げ込むしかなかった。
ラルスはただただひたすらに申し訳なかった。
ラルスはショルダーバッグの中にお金を沢山入れた財布やハンカチ、ヘアーブラシや手鏡など思いつく物を入れた。
あっちの世界で困窮せずに楽しく過ごして欲しい。
何処かの国では死者が向こうの世界で困らないようにお金を一緒に埋葬する風習があるとラルスは聞いたことがあった。
縁起でもない話ではあるが、ラルスはまるで死者を送り出す儀式のようにリーヴィアの眠り続ける体にショルダーバッグを掛けた。
ブランケットをはいだり首の後ろに手を入れて体を浮かせたりしたのに、リーヴィアは一向に目覚めなかった。
もし、ずっとこのままだったらどうしよう?
俺はまだ一度もちゃんと謝ってすらいないのに。
ラルスの目からポトリと涙が落ちた。
「今日は奢るわよ!」
リーヴィアは団長とゾーイに偉そうに言った。
「どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも気がついたらいつの間にか愛用のショルダーバッグ持っててさ・・・ププッ・・・中にたんまりお金が入ってるのヨ!」
「・・・盗んだんじゃないだろうな?」
「そんなわけないじゃん!これ私の財布だし。
でさ、不思議なことにちゃんとこの世界のお金になってんのよ!」
「この世界の金?何言ってんだ?」
「あーもー、コイツの言う事はちょくちょくおかしいから一々気にしなくていいの」
それじゃ遠慮なく、と三人は人気牛丼店スッキーヤに行った。
いつもは並を頼むゾーイは特盛にし、団長はチーズを増々にしてもらった。
味噌汁も追加料金で豚汁に変更してもらってニコニコと食べ始めたところにイヤミがやって来た。
「あら~?みなさんお揃いで~。
団長さーん。またチーズ牛丼ですか?
こ~んにっちぎゅ~!!」
「オイ!表出ろ!」
ゾーイが立ち上がるのを団長が制した。
「は~、野蛮な人間は嫌だねぇ~。すぐに暴力に訴えようとする」
イヤミは高級スーツのシワを伸ばして当然のように隣に座って、
「国産黒毛牛の特上」
カウンターの中の大将にカッコつけて言った。
「兄ちゃん、そこの券売機で食券かってくれっか?」
すごすごと食券を買いに行ったイヤミはまたしても隣の席に戻ってきた。
「貴殿はもっと高級でオシャレな店でカフェランチでもしたらよかろう」
団長の精一杯の嫌味に本家イヤミは更なる嫌味で返す。
「こうゆう庶民的な味がふと懐かしくなることがあるのさ。質の悪い油の匂いとかギドついた床とかさ」
「ププッ、床舐めるの?」
「ナイス突っ込み!」
リーヴィアとゾーイがハイタッチすると眉を吊り上げたイヤミがリーヴィアを睨みつけた。
「席は他にも空いているのだからワザワザここに座らんでもよかろう」
団長が疎んじるように言うとイヤミは、
「市井で不穏分子が良からぬ計画を立てていないか見張るのも仕事なもんでねぇ」
と平気な顔をして、「やっぱり特上は違うわ~」と連発しながら食べ始めた。
すっかり気分を削がれた三人はイヤミを無視して食べることにした。
「ところでオマエは何処に住んでるんだ?」
団長がリーヴィアに尋ねる。
「あれ?そう言えば私、何処に住んでるんだろう?」
団長とゾーイは不審な顔でリーヴィアを見た。
「なんかあっちこっちウロウロしてるうちに気がついたら元の世界に戻ってたりとかするからな~」
「大丈夫か?オマエ」
「でもコイツこの前居酒屋で確かに目の前で消えたよな」
「あれは俺たちが酔ってたんだろう?」
団長とゾーイがコソコソ喋っていると、
「オマエって言わないでよね!私にはリーヴィア・リュネールってちゃんとした名前があるんだから!」
と言うのをシッ!と団長が止めた。
「その名前をみだりに口にするな。
トラブルに巻き込まれるぞ!」
「それって消えたお姫様とおんなじ名前ってホント?」
二人は無言で頷いた。
「ねぇねぇ、私ってそのお姫様の生まれ変わりかなんかだったりしてぇ~」
リーヴィアがへへへと笑うと、
「そんなわけあるか!ブス!」
とイヤミが身を乗り出して来た。
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