そして私は惰眠を貪る

猫枕

文字の大きさ
上 下
36 / 62

36

しおりを挟む

「それでリーヴィアは外出を禁止された上に部屋に軟禁されてるってわけ?
 ってか、部屋から出してもらえないんなら監禁じゃない。監禁!」

 大学のカフェテリアの隅っこの席に陣取ったヴェリタスはジャンと並んで向かいの席のラルスを睨みつけた。

 バツが悪そうに俯くラルスにヴェリタスは容赦なく非難の声を浴びせた。

「アンタの親がやってることは契約違反だし、そもそも犯罪だからね?」

「・・・それはもう、その通りだ。
 ・・・・申し訳ない」

「私に謝ってどうすんのよ」

 ジャンが、

「ラルスは知らなかったんだからさ、そんなに責めないであげてよ」

 と執り成そうとするが、

「はあ?知らなかった?ラルスが面倒事から逃げてるからリーヴィアは酷い目あったんでしょう?」

 と余計に火に油を注ぐ結果になった。

「で?こうなっても尚お母様の言いなりの坊っちゃんはリーヴィアをここに連れてくることもできなかったってわけ?
 外出着や靴を返してあげるのもお母様の許可が無いとできないってわけ?」 

「・・・違うんだ。・・・リーヴィアは目覚めないんだ」 

「「は?」」

 ラルスはリーヴィアが昏々と何日も眠り続ける事、そして眠ってる間は毎回同じ夢の世界にいて、まるでそこで暮らしているかのようにそこの住人達とコミュニケーションを取り、飲み食いしているらしいことを説明した。

「しかもな、リーヴィアは夢の中で〝月光騎士団〟の団長やゾーイと一緒に居酒屋に行ったりしてるみたいなんだ」

 ヴェリタスとジャンはにわかには信じられない話にあんぐりしていたが、ラルスの話しぶりや疲れた表情から彼が嘘をついているようにも思えなかった。 

「・・・それでさ、・・・ちょっと二人にこれを見て欲しいんだ」

 ラルスがポケットから出したハンカチを開いて見せると、其処には例の王冠とコインがあった。

「「これは?」」

「リーヴィアが、眠ったままのリーヴィアがいつの間にか手に握っていたんだ」

「「コイン?」」

「ちょっと見てほしいんだけどさ、君達なら詳しいと思って。

 月の女神エストを記念したコインみたいなんだ。

 このコインは〝月光騎士団〟のファンの為に作ったコレクションアイテムかなんかなのだろうか?」

 どれどれ、と二人はコインと王冠を交換しながら表も裏も舐め回すように吟味したが、

「公式グッズとしてコインが売り出されたとかノベリティとして配られた、という話は少なくとも自分達の知る限り無いわ」

「うん。僕も関連グッズは全て把握してるから無いと思う」

「もしアイテムとして作るんなら銅貨じゃなくて金メッキくらいにはしそうじゃない?」

 二人共コインがファンに向けて作られたグッズだという線については否定的だった。

「・・・まあ、物凄くマニアックなファンが個人的に造ったって線もゼロじゃないだろうけど」
 
「でもコインを鋳造するって大変だから個人的にやるのは現実的ではないと思うよね」

 三人は結論の出ないままテーブルの真ん中に置かれた銅貨をじっと見た。

「えっと、じゃあこっちの王冠に心当たりは無い?」

 ラルスが今度は栓抜きの跡のある少し曲った王冠を差し出した。

「俺が一応調べた限り、そこに書かれている酒造メーカーは少なくとも国内に存在しないんだ」 

 ヴェリタスとジャンは二人で代わり番こに王冠をこねくり回して吟味した。

「確かに甘いような酸っぱいような匂いが微かにするから、本物のシードルの王冠みたいよね」

 ヴェリタスが王冠に鼻を近づけてスーハーした。

「じゃあさ、リーヴィアがコレを夢の中あっちの世界から持ってきたって言うの?」

 ヴェリタスが半笑いで聞くと、

「・・・でも、そうとしか説明がつかない状況なんだよ」

 とラルスが情けない声を出した。

「ありえない話だとは思うよ。
 だけどさ、何日も何も飲み食いしなくても脱水も衰弱もしないんだ。
 ただ幸せそうな顔で眠り続けるだけなんだ」

「・・・まあ、リーヴィアだからね。
 他の人ではあり得ないけど、リーヴィアは伝説のリュネール家の血を継いでるからね。
 そんなこともあるかも知れないって思ってしまうわよね」


 三人は沈黙した。どうすればいいのかサッパリわからなかった。

 すると気詰まりな雰囲気をどうにかしようとジャンが口を開く。

「・・・でも、なんで王冠?もうちょっと良い物持ってくればいいのにね」

 ジャンのしみじみとした口調が可笑しくてつい三人で笑ってしまった。


「とにかく、次にリーヴィアが目覚めたら私達の所に連れて来てよね」

 笑い事じゃないんだよ、と神妙な顔をしたヴェリタスだったが、それでも現状できることは何一つ無いので、そんな言葉を挨拶にして三人は解散した。


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...