そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 現実の世界でほとんど唯一といってもいい友人のヴェリタスとジャンに会うこともできないリーヴィアにとって、夢の世界だけが救いであり楽しみであった。

 そうしてリーヴィアはだんだんと寝ている時間が増えていって何日も目覚めないことが多くなっていった。

 医者が呼ばれたが、どこといって悪いところも見当たらず首をかしげるばかりだった。
 何日も食べない割に脱水にもなっていなければ排泄もしない。
 筋肉の衰えも見られない。

 誰も知らない夜中にでも一人出歩いているとしか説明がつかない状態だった。





 「ちょっとアンタ!」

 友人と連れ立って授業の合間にカフェテリアに行こうとしていたところをラルスは呼び止められた。

 険しい顔のヴェリタスが仁王立ちしている。

「何か用?」

 戸惑いがちに返事をしたラルスの腕を掴んで

「ちょっと話があるんだけど」

 と有無も言わせず歩きだすヴェリタス。

「ちょっと、俺、今用事が・・・」

「黙って!」

 キツめの声でラルスの動きを制した後、ヴェリタスは声を潜めて

「リーヴィアのことよ」

 と言った。


 4号棟校舎前のちょっとした木立になっているところのベンチに並んで腰掛けるなりヴェリタスはラルスを罵倒した。

「一体リーヴィアをどうするつもりなのよ?!」

「・・・え?なにが?」

「連絡がとれないのよ」

「どういうこと?」

「こっちが聞いてんの!」

 リーヴィアが楽しく出歩いて悠々自適な毎日を送っているとばかり思っていたラルスはポカンとしている。

「何度も家まで行ったけど色々理由をつけて門前払いだったわ。
 あんたの家に監禁されてんじゃないの?
 手紙を出しても返事が無いし、アンタのお母さんに酷いことされてんじゃないの?」

「・・・・そんなこと」

 ラルスはひどくショックを受けたようだった。

「・・・何か分かったら連絡するよ」

 ラルスはそう言って肩を落として去っていった。




 ホテルや友達の家を泊まり歩いていたラルスが久しぶりに実家に帰ると母親のヨハンナが大げさなくらい喜んでベタベタと後をくっついて歩いては、やれ夕食には何が食べたいか?だの、そろそろ新しい服を買いに行かないか?だのと鬱陶しかった。

「リーヴィアはどうしてる?」 

「・・・寝てるわよ」

「病気なのか?」

「・・・・・」

 ラルスがリーヴィアの部屋に行くとリーヴィアはベッドに仰向けに深い眠りについていた。

「こんな時間から寝てるなんて、どこか悪いのか?」

 ラルスが家政婦に聞くと、

「何日も目覚めずに眠ってるんですよ?」

 と、ちょっと呆れたような呑気な返事が返ってくる。

「何日も?何日もって、飲まず食わずでか?」

「お医者様は健康には問題無いって仰ってますから」 

 すっかりこの状況に慣れている家政婦は、何を大騒ぎしてるんだ?という目をラルスに向けた。

「いつからだ?いつからこんな状態なんだ?おかしいだろう?」

「・・・いつ?・・だったかしらねぇ?奥様から外出が禁止されて部屋から出られなくなった頃からですかねぇ?」

「外出禁止?」

「はい。出掛けられないように外出着も靴も全て没収して部屋から出られないように鍵をかけましてね。
 外と連絡取れないように手紙も没収するように、と」

 家政婦はなぜかどことなく嬉しそうだ。

「・・・なぜそんな酷いことを・・」

 落ち込むラルスを置いて家政婦が部屋を出ていくと、入れ替わりで母親が入ってきた。


「母さん。約束が違う!」

 ラルスは母親を睨みつけた。

「あら、こんな状況になっちゃったのはアナタのせいでもあるのよ?」

「えっ?」

「アナタがしっかりしないから」

 ヨハンナはリュネールの分際でヴァルノーに楯突こうなんて百年早いのよ、だの、小遣いだの慰謝料だのフザケるなっての!だのといつものぶりっ子オバサンをかなぐり捨てて口汚く文句を言ってから、いかにも『いいこと思いついた』と言わんばかりの顔でラルスに猫なで声で言った。

「そうだ。眠ってる間に子供作っちゃえばいいのよ。
 だってこの子一度眠ったら起きないのよ。
 私、何度も抓ったり叩いたりしたんだから。
 良い考えだわ~。ね、ラルスちゃん、そうしましょう。」

 ラルスはゾッとした。

 いくら下に見ている相手だとしても、同じ女性が言う言葉だとは到底信じられなかった。

 ラルスは自分で自分の表情が凍っていくのが分かった。


「・・・母さん。

 貴女は狂ってるよ」

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