そして私は惰眠を貪る

猫枕

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 「オマエ、いい加減なことばかり言ってると酷い目に遭うから覚悟しろよな」

 イヤミが冗談抜きの怖い顔をリーヴィアに向けた。

「嘘なんか言ってないもの」

 睨み返したリーヴィアの声はそれでも得体の知れない恐怖に少し震えていた。

「だけどコイツ、ヤノーシュの事も知っているみたいだし、なんか変なんだよな」

 団長が呟く。

 そこへゾーイが戻ってきて、おらよ、とシードルの瓶を置いた。

「んだよ、誰かと思えばサーカズムかよ?」

 ゾーイか嫌な虫でも見るような目をイヤミに向けた。

「なんだ、オマエ相変わらず律儀に団長の腰巾着やってんのか?」

 イヤミの挑発に即座に反応して飛びかかろうとしたゾーイを団長が止めた。

「まあ、団長ったって、月光騎士団なんてもんはとっくの昔に無くなったんだから、ニセ団長か?」

 ゾーイは止める間もなくイヤミに飛びついて首を絞めた。

 ヤメて!ヤメロ!と団長とリーヴィアが2人がかりでゾーイを引き剥がすと、赤を通り越して青くなった顔のイヤミが床に膝をついてゼェゼェと荒い息を吐いている。

「今度フザケたこと言いやがったら本当にやっちまうからな!!」

 怒鳴りつけたゾーイにイヤミは整わない息で、

「はっ!・・・失うものの無い人間は、・・破れかぶれで、何でもするからな・・・まるで狂った野良犬だ」

 と悪あがきをした。

「ちょっと、このイヤミなオジサンは誰なの?」

「イヤミとはなんだ失敬な!」

「ヴィリー・サーカズム」

「えっ?もしかして、あの裏切り者のヴィリー?!苗字あったんだ!」

 リーヴィアの大きな声に近くの客まで一瞬話を止めて注目する。

「えっ?ヴィリーってさ、1巻の最初の頃にちょっと出てきて死んじゃったじゃん?挿絵も無かったからどんな顔か知らなかったけど、こんな人だったんだ~」

 2本目のシードルに突入していたリーヴィアは気持ち良く酔って失礼なことを笑いながら喋った。

「コイツは何を言ってるんだ?」

「さあ、わかんねぇけど何か面白れぇ話だな」

「・・まあ、貴殿が裏切り者だということは違いないだろうがな」

「負け犬が何かクゥンクゥン鳴いているみたいだが、腹でも減っているのかな。サラミでも恵んでやろうか?」

「なんだと?!」

「やめろゾーイ」

 そこへリーヴィアがヘラヘラしながら、

「ヴィリーってさ、銀貨に目がくらんで騎士団を裏切っちゃうんだよね~。
 だけど野良犬に追いかけられてマンホールに落ちて下水に流されてっちゃう!ガハハハッ!」

 団長とゾーイも一緒になって笑った。


「なんだ貴様!!この私を愚弄するのか?!」

 カッとしたヴィリーが腰のサーベルを抜いてリーヴィアに斬りつけようとした。
 ひいっ!と声を上げた瞬間リーヴィアが忽然と消えた。





 リーヴィアはヴァルノー家の軟禁部屋のベッドで目覚めた。

 頭がぼーっとして、自分がどこにいるのか暫くわからなかった。

 寝すぎて固まった痛む体を起こしてドアまでヨロヨロと歩いていったが、やっぱり外から鍵が掛かっていて外には出られない。

 ふうっと一つ息を吐いたリーヴィアは机に向かった。
 引き出しのなかの夢日記や筆記用具の類は取り敢えず無事のようだ。

「はぁ~、面白かった!」

 リーヴィアは忘れないうちに見た夢を夢日記に書いた。
 なるべく詳しく居酒屋の見取り図やら、団長やゾーイ、イヤミのことなんかも発言や服装など思い出せる限りを記述した。

 それから夢の中で何度も見た街の様子なんかも、曖昧なところは多々あったが、できるだけ詳しく絵地図にした。

 作業に没頭していると、家政婦さんがトレイを持って入って来た。

「あっ!起きていらしたんですね?」

 家政婦さんはいささか驚いた様子で言った。

「あんまりお目覚めにならないものですから、明日お医者様を呼ぼうと奥様が心配なさってたんですよ」

 家政婦さんの声の調子には若干苛立ちが混じっていた。

 まったく、何もしないで1日中ダラダラと寝やがって!いいご身分だこと!彼女の考えているのは、まあ、そんなところだろう。

 リーヴィアが何の反応もしないのが余計に腹立たしいのか、家政婦は、

「お食事、ここに置いときますからね」

 と、ぶっきらぼうに言って出ていった。

 サイドテーブルの上のトレイを横目で見ると、変わり映えのしない面白くも楽しくもないメニューが乗っていた。

 「あ~あ、シードル飲みたいな~」

 リーヴィアの唇には僅かに夢の味が残っているようだった。


「また〝どん底〟に行けたら隣のテーブルのオッチャンが食べてたマッシュルームのアヒージョ、あれ食べたいな。
 すっごく美味しそうだったんだもん」

 リーヴィアは軟禁された部屋で独り言を言った。

 

 


 




 
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