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いつものように目を覚ましたリーヴィアは部屋に付属した洗面所で顔を洗う。
今日は楽しみにしていた現代アート展の初日だ。
先日ブティックで買った大胆なカットの赤い服を着ていこう。
そう思ってクローゼットを開けると中はほぼ空っぽの状態だった。
何が起きているのか分からずに呆然とするリーヴィアは暫く動けずにその場に立ち尽くした。
次に廊下に出ようとして扉に外から鍵がかかっていることに気づく。
ドンドンと扉を叩いていると暫くしてお手伝いさんが鍵を開けて入って来た。
手には食事をのせたトレーを持っていた。
「ねぇ、どういうこと?」
お手伝いさんはそれには答えず黙ってテーブルに食事を置いて出ていった。
トレーに乗っていたのはシリアルとミルクと少しの野菜と焼いたベーコンが一切れ。
リーヴィアはシリアルは好きじゃないので、毎朝クロワッサンとカフェラテにスクランブルエッグとフルーツというメニューにしてもらっていたのだが。
今朝はフルーツが無い。
コーヒーも紅茶も無い。
混乱したリーヴィアは、どうやらヨハンナから嫌がらせを受けているらしいと気づくまで暫く時間がかかってしまった。
クローゼットには寝間着と部屋着しかない。
それどころかスリッパしかなくて外出できる靴も無い。
それよりなによりドアが開かないので外に出られない。
ドアを叩こうと呼び鈴を鳴らそうと誰も来てくれない。
ただ、時間が来ると食事が運ばれて来て無言でサイドテーブルに置いて行く。
食事は粗末ではなかったがリーヴィアが好きな物、というわけではなく、必要な栄養を過不足なく摂取できるよう配慮された健康的な食事で、楽しいものではなかった。
それはいかにも健康的な赤ん坊を産ませるための準備に違いなく、ヨハンナがまだ「月の財宝をなんちゃらかんちゃらする子供」を諦めていないことを物語っており、ヨハンナが法的拘束力などまるっと無視して契約など反故にするつもりなのがありありとしていてリーヴィアをゾッとさせた。
これはヨハンナによる宣戦布告なのだろうとは思ったが、反撃するには何一つ材料を持っていないリーヴィアだった。
この苦境を訴えたところで、実家の親は大して当てにはできないのだが、それでも両親と連絡を取りたいというリーヴィアの希望はまるで一切聞こえていないかのように無視された。
同様に弁護士への接触も妨害された。
ましてやヴェリタスやジャンに手紙を出すなど不可能だった。
外に行けない。特にすることもない。
そんなリーヴィアができることといえば寝ることくらいだった。
不安にかられながらリーヴィアは毎日うつらうつら一日の大半を眠って過ごすようになった。
起きて色々考えると鬱々とした気持ちになり精神を病んでしまいそうだから、そこから逃げるようにリーヴィアは眠るようになった。
元来活動的な方では無いし、運動が好きなタイプでもない。
学園に行っていた時も休みの日は二度寝をして無為に時間を過ごすことが多かった。
割と学校の成績は良い方ではあったが、もしも自分にもう少し体力とコツコツ何かを成し遂げる真面目さがあれば、何らかの成果を上げることができたのではないかと思うことがしばしばだった。
まあ、そんなわけで寝ることが好きなリーヴィアなので〝思う存分好きなだけ眠れる生活〟は、まあ、魅力的ではあった。
幸い風呂とトイレは部屋に付いているし、食事は運ばれてくるしで、そのうちなんらかの動きがあるだろう、という持ち前の呑気さで、割と抵抗なく惰眠生活を受け入れた。
人間そんなに長い時間寝られるわけがない。
勤勉な方達はそうおっしゃるのでしょうが、リーヴィアの場合、自分でも驚くほど沢山寝られた。
いい加減これ以上寝ていたら、体が痛くなってしまう。
そう思っていても、ダラダラとベッドに横たわっているといつの間にかまたウトウトとしている。
夢の中ではヴェリタスやジャンに会えることもあったし、現実では行けなかった大学で勉強している夢も見た。
そんな幸福な夢から目覚めた時は、なんとも言えない物悲しい気分になった。
そんな生活が2週間以上続いたが、一向に事態に変化は見られない。
自分を閉じ込めたところで、月の子供ができるわけでもあるまいし、ヨハンナが何をしたいのかリーヴィアには理解ができなかった。
まあ、それでも単純に毎日遊び歩いているのが気に入らなかったんだろうな、というのは予測がついた。
それともう一つは、そのうち音を上げて「ラルスさんに謝って本当の夫婦になりまっす!」とかなんとか言い出すのを待っているのだろう。
だんだん正確な日付も曜日も分からなくなってきたリーヴィアは、このままでは本当にヨハンナに白旗を上げて降伏してしまうのではないか?と不安になってきた。
一度ヴェリタスとジャンが家政婦に門の外に追い立てられていくのを見た。
リーヴィアの部屋の窓はどれも開かなくなっていて、何度も振り返りながら邸を出ていく二人にリーヴィアの叫びが届くことは無かった。
今日は楽しみにしていた現代アート展の初日だ。
先日ブティックで買った大胆なカットの赤い服を着ていこう。
そう思ってクローゼットを開けると中はほぼ空っぽの状態だった。
何が起きているのか分からずに呆然とするリーヴィアは暫く動けずにその場に立ち尽くした。
次に廊下に出ようとして扉に外から鍵がかかっていることに気づく。
ドンドンと扉を叩いていると暫くしてお手伝いさんが鍵を開けて入って来た。
手には食事をのせたトレーを持っていた。
「ねぇ、どういうこと?」
お手伝いさんはそれには答えず黙ってテーブルに食事を置いて出ていった。
トレーに乗っていたのはシリアルとミルクと少しの野菜と焼いたベーコンが一切れ。
リーヴィアはシリアルは好きじゃないので、毎朝クロワッサンとカフェラテにスクランブルエッグとフルーツというメニューにしてもらっていたのだが。
今朝はフルーツが無い。
コーヒーも紅茶も無い。
混乱したリーヴィアは、どうやらヨハンナから嫌がらせを受けているらしいと気づくまで暫く時間がかかってしまった。
クローゼットには寝間着と部屋着しかない。
それどころかスリッパしかなくて外出できる靴も無い。
それよりなによりドアが開かないので外に出られない。
ドアを叩こうと呼び鈴を鳴らそうと誰も来てくれない。
ただ、時間が来ると食事が運ばれて来て無言でサイドテーブルに置いて行く。
食事は粗末ではなかったがリーヴィアが好きな物、というわけではなく、必要な栄養を過不足なく摂取できるよう配慮された健康的な食事で、楽しいものではなかった。
それはいかにも健康的な赤ん坊を産ませるための準備に違いなく、ヨハンナがまだ「月の財宝をなんちゃらかんちゃらする子供」を諦めていないことを物語っており、ヨハンナが法的拘束力などまるっと無視して契約など反故にするつもりなのがありありとしていてリーヴィアをゾッとさせた。
これはヨハンナによる宣戦布告なのだろうとは思ったが、反撃するには何一つ材料を持っていないリーヴィアだった。
この苦境を訴えたところで、実家の親は大して当てにはできないのだが、それでも両親と連絡を取りたいというリーヴィアの希望はまるで一切聞こえていないかのように無視された。
同様に弁護士への接触も妨害された。
ましてやヴェリタスやジャンに手紙を出すなど不可能だった。
外に行けない。特にすることもない。
そんなリーヴィアができることといえば寝ることくらいだった。
不安にかられながらリーヴィアは毎日うつらうつら一日の大半を眠って過ごすようになった。
起きて色々考えると鬱々とした気持ちになり精神を病んでしまいそうだから、そこから逃げるようにリーヴィアは眠るようになった。
元来活動的な方では無いし、運動が好きなタイプでもない。
学園に行っていた時も休みの日は二度寝をして無為に時間を過ごすことが多かった。
割と学校の成績は良い方ではあったが、もしも自分にもう少し体力とコツコツ何かを成し遂げる真面目さがあれば、何らかの成果を上げることができたのではないかと思うことがしばしばだった。
まあ、そんなわけで寝ることが好きなリーヴィアなので〝思う存分好きなだけ眠れる生活〟は、まあ、魅力的ではあった。
幸い風呂とトイレは部屋に付いているし、食事は運ばれてくるしで、そのうちなんらかの動きがあるだろう、という持ち前の呑気さで、割と抵抗なく惰眠生活を受け入れた。
人間そんなに長い時間寝られるわけがない。
勤勉な方達はそうおっしゃるのでしょうが、リーヴィアの場合、自分でも驚くほど沢山寝られた。
いい加減これ以上寝ていたら、体が痛くなってしまう。
そう思っていても、ダラダラとベッドに横たわっているといつの間にかまたウトウトとしている。
夢の中ではヴェリタスやジャンに会えることもあったし、現実では行けなかった大学で勉強している夢も見た。
そんな幸福な夢から目覚めた時は、なんとも言えない物悲しい気分になった。
そんな生活が2週間以上続いたが、一向に事態に変化は見られない。
自分を閉じ込めたところで、月の子供ができるわけでもあるまいし、ヨハンナが何をしたいのかリーヴィアには理解ができなかった。
まあ、それでも単純に毎日遊び歩いているのが気に入らなかったんだろうな、というのは予測がついた。
それともう一つは、そのうち音を上げて「ラルスさんに謝って本当の夫婦になりまっす!」とかなんとか言い出すのを待っているのだろう。
だんだん正確な日付も曜日も分からなくなってきたリーヴィアは、このままでは本当にヨハンナに白旗を上げて降伏してしまうのではないか?と不安になってきた。
一度ヴェリタスとジャンが家政婦に門の外に追い立てられていくのを見た。
リーヴィアの部屋の窓はどれも開かなくなっていて、何度も振り返りながら邸を出ていく二人にリーヴィアの叫びが届くことは無かった。
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