そして私は惰眠を貪る

猫枕

文字の大きさ
上 下
28 / 62

28

しおりを挟む
 一般的な感覚からはかけ離れたものではあったが、リーヴィアにとって新婚生活は存外に快適だった。 

 リーヴィアは契約に基づき、働かずして充分な小遣いを貰い、24時間自分の時間生活を満喫していた。


 リーヴィアは朝遅く起きて軽い朝食を取ると昼頃から出かける毎日を過ごした。

 お小遣いはたっぷりあるし、街で目についた素敵な洋服や靴なんかはあまり悩むことなく買うことができた。

 本屋で面白いものが無いか物色したり図書館や美術館に行くのが日課のようになっていた。

 そして夕方近くなって美術館に併設された穴場のカフェで大きな窓から木立を眺めながらお茶と軽食を戴く。

 都会にいながらリゾートのようだ。

 それから週に3日は授業を終えたヴェリタスやジャンと合流して遊びに行く。
 芝居を観に行ったり帰りにバーでお酒をたしなんだり。

 そこで二人から聞く大学生活の話は、リーヴィアにとって憧れと希望に満ちていた。

「でも、思ってたより快適そうな生活で良かったじゃない?」

「ヴェリタスが弁護士さんをつけてくれたお陰で助かっております」

 と感謝するリーヴィア。

 ヴェリタスとジャンはリーヴィアから新婚初夜のゲロシャワーの話を聞いた時、腹を捩って爆笑した。

 そしてその後ラルスが家に寄りつかなくなったことも知っている。

 多少ラルスが気の毒だと思わなくもないヴェリタスは、ことの真相をリーヴィアに教えてやった方がいいのかな?と思わなくもなかったのだが、ラルスとコリーナが(ほとんど)裸で抱き合っていたのは事実だし、ラルスがリーヴィアを長年蔑ろにし続けて、そのせいでリーヴィアの学園生活か楽しいとは程遠いものになったのも事実だ。

 どうせ離婚するのだ。


 わざわざ教えてやる必要はあるまい。

 ヴェリタスは答えを出した。


「お小遣いもらって毎日遊び歩けて最高じゃん!」

 ヴェリタスが笑うとリーヴィアも薄く笑った。

「でも、やっぱり早く法的にも自由になりたい。

 今は、なんていうか、鍵の掛かっていない檻にいる気分よ」




 毎日遊び歩いてホロ酔い気分で帰ってくる。

 ヨハンナはそんな嫁にイライラしていた。

 息子ラルスはどこをほっつき歩いているのだか、ちっとも姿を見せない。

 確かに契約通りには違いないが、それでは困る。
 結局多額の慰謝料を支払うだけでヴァルノー家になんのメリットもないなんて、そんなのは納得できない。

 ヨハンナは素敵な素敵な私の可愛いラルスちゃんの魅力の前にリーヴィアが陥落するのは時間の問題。あっと言う間に子供の三人もできて、契約結婚のことなどどっかに消し飛んでしまうと思っていた。

 むしろ別れたくないとラルスに追い縋るリーヴィアに、

「法的に拘束力のある契約ですものね?」
 
 と子供だけ奪って追い出してやるのもいい気味だと思っていた。

 リーヴィアに契約通りの金を渡すのは惜しいが、それを遥かに上回る「財宝」が手に入るのだから、まあ、我慢してやろう。
 

 それなのに・・・。

 
 この現状はなんだろう?

 
 ラルスはちっとも家に寄りつきやしないし、リーヴィアは良い気になって毎日遊び歩いている。

 何一つ私の思い通りにならないじゃないの!!

 ヨハンナはギリギリと歯を噛み締めながら固く握った拳を震わせた。





 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...