そして私は惰眠を貪る

猫枕

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「俺はどうすればいいんだ?」

 ラルスは縋るようにヴェリタスを見た。

「まったくアンタときたら私にまで平気で助けを求めるなんて、なんて節操の無い男なんだろうね?」

「・・・だって・・・。どうすりゃいいか分かんないんだよ」

「・・・まあ、法律一家の一員として知識が乏しいながらも助言させていただくとしたら、客観的に十分婚約破棄の事由となるようなことを故意に起こすとか?」





 かくしてラルスとヴェリタスによって秘密の計画は挙行された。

 with協力者コリーナ。


「地学資料室ってこっちだよね」

「卒業間近になって初めて入るね」

 ヴェリタスは先生に大型の天球儀を持ってくるよう頼まれた、と嘘をついてリーヴィアに手伝ってもらった。

 若干心が痛むが、親友の自由を勝ち取る為だ。

 仕方あるまい。

 扉を開けて中に入ると雑然と色んな物が置かれている。

「うへぇ。散らかってんな」

 そう言ったリーヴィアは早々に天球儀を見つけて、

「あった、あった。さっさと持っていこう」

 と棚に手を伸ばした。

「まあまあ、そう慌てなさんなって。

 せっかく入ったんだから色々見ていこうよ」

 それもそうだ、と二人は鉱物の並べてあるガラスケースを覗いたりアンモナイトの化石を手に取ったりした。

「あ~、1年の時カルメ焼き作ったよね~」

「火山の噴出物の発泡に似てるから、とかだったよね」

「あんなちっこいオタマの中でブクブクやって火山って言われても~。
 美味しくいただきました、ってだけだよね」

「あん時さ、カルメ焼きなかなか上手く膨らまなかったのにさ、コリーナがテキヤのオヤジみたいに上手に焼いてたのがオモロかったわ」

「人には意外な特技があるわよね」

「得意満面だったよね」

 そんな思い出話をしていると、奥の方からガタンと音がした。

「えっ?今の何?」

「誰かいるのかな?」

 怖いんだけど。

 そう言いながらも確かめる為に奥に進む二人。
 
 リーヴィアを先に立たせて後ろから彼女を押して進むヴェリタス。

「ちょ、ちょっと押さないでよ」

「それはつまり押せってことでしょ?」

 二人はソロソロと部屋の奥に進んで行った。

 そして衝立の向こうを覗いた瞬間、リーヴィアが固まって動かなくなった。

 数秒間の沈黙のあと、

「キッモチワル!!信じらんない!」

 とリーヴィアが叫んだ。


 衝立の向こうでは上半身裸のラルスが同じく上半身裸(実際は下着をつけていたのだがリーヴィアにそう見えた)のコリーナを抱きかかえて激しくキスをしていたのだ。

「これは不貞行為だわ!!」

 ヴェリタスが叫んだ。

 ラルスとコリーナは互いを抱きしめ合ったまま、顔だけリーヴィアに向けて馬鹿にしたように不敵に笑った。

「これは明らかに婚約破棄の事由となるに足る不貞行為だわ!!

 そして私は第三者の立場としてハッキリとこの目で目撃したわ!!

 私はこの件に関して証言する用意があるわ!!」

 ヴェリタスが説明的なセリフを叫んでる間にリーヴィアは部屋を飛び出して行った。

「こんなんでいいの?」

 コリーナはシャツに腕を通しながら投げやりに言った。

「うん。協力してくれてありがとう」

「別に。面白いからやっただけ」

 コリーナは、「アイツが絶望する顔が拝めるなんて面白いじゃない」、と悪ぶった。

 その実コリーナにはリーヴィアがラルスなんてどうでもいいと思っていることも分かっていたし、散々嫌がらせをしてきたリーヴィアが最後に解放される手助けくらいしてやってもいいか、と思っていた。

 コリーナは、とりあえず大学進学は許されたが、親の決めたダ・シルバにとって利のある相手に嫁がされる未来しかないのだ。

「・・・リーヴィアは噂をばら撒くような人間じゃないけど、アンタの評判に傷がつかないか心配」

 散々馬鹿にしてきたヴェリタスからの気遣うような言葉に

「ハッ!バッカじゃないの?私を誰だと思ってんのよ?
 アンタ達ごとき私にかすり傷一つ負わせられやしないわ!」

 と思わず語気を荒らげたコリーナは、結局自由になれないのは自分だけだな、と本当は大好きなラルスをそっと盗み見た。




 
 ヴェリタスが探すとリーヴィアは中庭のベンチに放心したように座っていた。

 ヴェリタスが無言で隣に座る。

 春の爽やかな風が沈黙を撫でて行った。


「あ、天球儀」

「大丈夫、届けてきたから」

 沈黙。


「・・・ショック、だったよね?」

「・・・なんていうか、キモかった。

 ・・・でも、私これで自由になれるんだよね?」

 ヴェリタスが力強く頷く。

 リーヴィアの表情に笑顔が戻った。

「これで大学に行けるよ。自分の将来についてやっと自由に考えられる」

 二人はしっかりと抱き合った。

 暖かい春の空気が二人を優しく包みこんでいた。










 
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